伊達三傑 -2-

登勢のいる部屋に入ると、小十郎が出迎えて、絶句して遙に見惚れた。
後ろにいる成実も綱元も絶句して見惚れている。
ようやくして小十郎が我に返った。

「遙様、大変お美しいですよ?政宗様の晴れの舞台に大変相応しいご衣装でございますね。流石は遙様でございます。これなら、政宗様とご一緒に馬に乗る事も出来、ますます安心でございます」
「遙ちゃん、超綺麗ー!見惚れて絶句しちまったぜっ!」
「これが噂の遙様か。政宗様が惚れ抜くのもよく分かるな、小十郎。これほど美しさと可愛らしさと知性を兼ね備えたおなごなど、見た事がねぇな。俺も見惚れちまったぜ」
「ああ、そうだろう、綱元?政宗様が愛でて片時も離さねぇお方だ。それにお前ぇも知っての通り、政宗様に政治と和議を教えて下さったのも、遙様だ。遙様しか政宗様には相応しくねぇな。お前ぇは石頭だが、流石にあの政治が出来るお方なら文句はねぇだろ?」
「ああ、そうだな。俺は血筋にこだわってはいたが、あの政治が出来るお方なら文句は言えねぇし、そもそも武田の姫の血筋まで得たお方なら、俺も文句のつけようがねぇ。それも敵地で身分を明かさず、あの猿飛佐助と武田信玄を丸め込んだとまで聞いたら、どんなお方なのか気になって仕方なかったくらいだからな。それに、更に政宗様の世界掌握の戦略まで思いつかれたと思ったら、もう感動でしかなかったな。しかも科挙トップの成績だしな。ああ、申し遅れました、遙様。ついお美しさに見惚れてしまい、小十郎と立ち話をしてしまいました。どうぞ、お許し下さい。俺は鬼庭綱元と申します。政宗様の側近、伊達三傑の一人でございます。主に徴税と官僚の指揮を執っておりましたゆえ、今まで目通りもせず、大変ご無礼仕りました。以後、お見知り置きをよろしくお願い申し上げます」
「鬼庭綱元ね。よろしくね。私は政宗と未来の異世界の世界で出会ったの。後ろにいるのは、親友の美紀で、私も美紀も医者なの。私が甲斐で吐血して、自分一人で治せないから、美紀が私の命を助けてくれた。美紀は佐助の許嫁だよ」
「左様でございましたか。それは、遙様も政宗様も大変お辛い思いをなさったでしょう。お元気になられて何よりでございます。美紀様にはお礼の言葉も申し上げようもございません」
「私の事は美紀でいいよ!敬語もなしね!遙の親友なだけだし、しがない忍頭の許嫁だよ?天下の伊達三傑に敬語なんて使われたら恐縮しちゃうよっ!」
「小十郎、本当にいいのか?」
「ああ、美紀がそうして欲しいんだとよ。代わりに政宗様を呼び捨てにするのを許してやれ。遙様の世界で、政宗様の窮地を全て救ったのは美紀だからな。お前ぇがそれに文句でも言おうものなら、俺は全力で喧嘩を買うぜ?」
「なるほどな、小十郎がそこまで言うのはよほどだ。分かった、政宗様をお前が呼び捨てにするのは俺も許す。これからも政宗様を支えてくれ」
「もちろんだよ!」
「よし、お前ぇら、部屋を移動だ。これから出陣の打ち合わせだ。隣の部屋の座卓がいいだろ?」
「左様でございますね、政宗様。この小十郎が説明を致しますので、どうぞおいで下さいませ。てめぇら行くぞ」
「おう!」
「Okay!」

俺達はいつも夕餉を食う部屋に移動した。
遙を真ん中に、俺と美紀が挟むように座り、向かいに小十郎が真ん中になる形でみなが座った。

「よし、小十郎、報告だ。軍をどこに呼び寄せるつもりだ?」
「お台場に燃料タンクがある事を考慮致しますと、お台場を基地にするのが間違いございません。商業船と航路がぶつかる事もなく、大変好都合でございます。進軍は普段江戸湾に出るよりも回り道にはなりますが、晴海通りを真っ直ぐと進軍し、勝鬨橋を渡って有明に出て、お台場に行くのがよろしいかと存じます。銀座、日本橋、深川で主に瓦版の号外を大量に配布し、すでに築地から民衆の列が出来ております。警備の伊達軍をいち早く派遣しておりましたので、民衆は荒縄で結ばれた進軍の道の外側でしか見られないよう手配してございますので、ご安心下さいませ。等間隔で騎馬隊と歩兵を配置しておりますので、間違いの起こりようもございません。いかがでございましょう?」
「流石だ、小十郎。その策には俺も賛成だ。それなら、俺が先頭で馬を歩かせられるな。お前は隣で俺と遙の護衛に着け。その後ろに成実と美紀と綱元だ。美紀はまだ1人で馬に乗れねぇから、成実に乗せてもらう。成実、いいか?」
「ああ、構わねぇよ。美紀ちゃんは、登勢の恩人だからな!悪ぃようには絶対にしねぇ。頼りにしてくれていいぜ?」
「流石だ、成実。俺達の隊列はこれでいいか、小十郎?」
「左様でございますね。警備の伊達軍が十分に配置してございますので、政宗様は鎧を着なくとも護身用の刀だけで、心置きなく先頭を歩かれるとよろしいかと存じます。また、政宗様が7年前に甲斐の辺境で見初められ、神隠しに遭われたずっと探しておられた、信玄公の諏訪の姫の隠し子の姫とやっと再会出来た暁の天からの授かり物として、最強の軍備を触れ込んでございますので、遙様のお披露目も兼ねられます。石榴石の耳飾りの願掛けの秘密は、遙様と分け合った一点物とも明かしてございますので、民衆の熱狂ぶりも大変でございます。長曾我部様が、女神への操の宗教について、料亭の女将にお話になり、皆それを信じて信仰しておりましたから、真実が明かされて余計に期待度が高まっている様子でございます。1ヶ月半の逢瀬で固い絆を結んだ事も知らせてございます」
「やるな、小十郎!超俺好みの演出だ!遙、髪を夜会風に巻いて結い上げろ。そうしたらピアスがよく見える。俺も今日は、髪を耳にかけて外を進軍する。ピアスがよく見えるようにな」
「政宗様がそのように喜ばれて大変嬉しく思います。他にはロンドンへの進軍のための食料確保へのルートの開発を致しました。正直、政宗様が既に敷かれた、沿岸部での防衛の拠点の城への食料供給ルートがそのまま転用出来るので、とりあえず民に十分な食料を残した上で食料を集めるように言付けるだけで済みました。屯田兵からの食料で間に合います。伊達軍出陣予定は今のところ2日後でございます。伝令を確保し、速やかに出立出来るよう手配は整っております。また、信玄公到着は政宗様もご存知とは思いますが明日の夕方頃だそうでございます。そこから、政宗様とこの小十郎、信玄公、綱元で軍議を開けばよろしいかと思います。それから、江戸の軍勢は既に選抜を終え、空席を埋める武蔵の軍勢にも伝令は済んでおり、補充する兵の選抜も終わり、政宗様の出陣前には江戸に集結する手配も整っております。とりあえず、武蔵から到着し次第、一旦は補助の軍勢は千鳥ヶ淵のホールに待機させますので、駐屯地の事はご心配なさらないで下さいませ」
「Okay!よくやった、小十郎。俺もいい事を思い付いた。明日から第一弾の空母とイージス艦に食料を積ませる。一気に全軍を動かしたら時間がかかり過ぎる。伝令の近い城から順に戦艦を派遣して食料を積ませる。お前は手が開きそうだったら、食料の積み込みの司令をiPhoneでやれ。拠点の城なら全て把握してるから、それぞれの城にどれだけの食料が集まりそうなのかリストを俺に送れ。それで俺は今後の見積もりをする。それでどうだ?」
「流石は政宗様でございます。早速明日からそのように動きます。他には何かございますか?」
「今日のこれからの予定について話したい。まずは、お台場への進軍をしたら、軍を呼び寄せ次にヘリコプターを飛ばしたい。ホンダジェットの乗っている空母に着陸し、装備を目で確認して旅行や出陣の荷物の見積もりがしたい。その後の江戸城への帰還もヘリコプターだな。12人乗るから全員乗る。馬は部下達に回収させろ。お台場まで遠過ぎるから、馬で帰って来たら時間が足りねぇ。二の丸にヘリコプターを下ろし、倉の中を確認する。その後、昨日エリザベスと話して、今朝長曾我部とエリザベスと練った予定と、遙と美紀が思い付いたcoolな2つのエンターテイメントについて話したい。綱元は聞いていたかったらいても構わねぇし、忙しかったら仕事に行っても構わねぇ。かなり話が長くなりそうだが、夕餉前にはカタを付けたい。夕餉は遙と美紀に引きこもり部屋で振る舞う約束だ。今が午後1時だから間に合うだろ。二の丸から本丸は歩けるから問題ねぇな」
「流石は政宗様でございます。その心積もりでおります」
「やったぜ、梵!俺、倉の中見るの、超楽しみ!遙ちゃんと美紀ちゃんのエンターテイメントって?」
「後で話す。超楽しいから楽しみにしてろ、成実。綱元、お前はどうする?」
「俺も政宗様のお話を聞くのは久々でございますから、是非参加させて頂きたいと存じます」
「Okay、綱元。今日の話は聞いた方が楽しいぜ?楽しみにしてろよ?」
「そんな事言われたら超気になるじゃねぇか、梵!」
「だから、後でゆっくり相手してやるから、待て。とりあえず、遙の準備が出来次第、出発だ。小十郎、馬の準備は?」
「整ってございます。本丸前に用意してございます」
「Okay、これで心置きなく出発だ。遙、髪を結い上げろ」
「うん」

遙はバッグの中から髪留めを取り出して、手際よく髪を結い上げると、左側だけ少し短い毛束を垂らした。
俺も髪を耳にかけた。
遙の姿はまるで、婚儀のドレスを着る時のようで胸がドキドキする。
本当に綺麗で可愛い。

「お前、髪を下ろしてる時も綺麗だけど、結い上げた時はまた格別だぜ?花火の時を思い出すし、教会での婚儀の時を思い出す」
「あ!政宗、いい事言ってくれたね!今日のお披露目の記念に、江戸湾で花火大会をしようよ!政宗、花火を願って!芸術花火大会がいいな!」

遙に見惚れていた俺は、美紀の声で現実に引き戻された。

「芸術花火大会?隅田川の花火大会じゃねぇのか?」
「うん、もっとすごいやつ!」
「マジでか!?お前のiPadで全員に見せろ。触りだけで構わねぇから」
「うん。全部で1時間で1万5千発だよ。クイーンのBGMに合わせて打ち上がるの。見に行ったけど、過去最高の花火大会だったよ!遙にも見せたいなっ!」
「わぁ、そんな花火大会があったの?クイーンのBGMなんて、最高!是非、政宗に打ち上げて欲しいな!」
「お前がそんなに喜ぶなら、絶対今日やってやる。夕餉が遅くなるかも知れねぇが仕方ねぇ。予定変更で花火大会をやるぜっ!」
「政宗様、花火大会とは?」
「美紀、説明しろ」
「うん!大量の火薬を色んな金属と爆発する時に反応させて、まるで夜空に花が咲くように演出するのが花火大会だよ。金属によって出る色も色々だし、火薬の仕込み方で花火の形も変わるの。今から見せるね」

美紀はiPadを取り出して、YouTubeでクイーンのI was born to love youの花火の動画を再生させ始めた。
曲が始まったと同時に遙と美紀が歌い出した。
歌に完全に合わせて色々なパターンの花火が弾ける。
すげぇ感動して、歓声しか出て来ない。
小十郎達も同じだ。

「お前ぇら、こっち側に来て見ろ」
「はっ!」
「やったぜ!」

小十郎達は後ろから覗き込むようにiPadの画面を見つめて歓声を上げた。
次々に曲に合わせて打ち上げられる色々なパターンの花火にただただ歓声しか上がらない。
隅田川の花火大会なんて比べ物にならねぇ芸術だ。
しかも、BGMがクイーンだ。
遙はノリノリで歌いながら器用に歓声を上げている。
最後まで見終わった頃にはもう花火大会で頭がいっぱいになるくらいに感動した。
小十郎達も席に戻って行った。

「誠、花火大会とは素晴らしい物でございました。政宗様、開催時刻はいつに致しましょう?」
「民衆の夕餉が6時とすると、8時スタートが妥当だな。俺が呼び寄せた空母の拡声器を使って民衆にサプライズで花火大会を告げる。それでどうだ?河口の隅田川対岸で打ち上げれば現実可能だ。観覧場所は汐留辺りが妥当だな。お前はどう思う?」
「とても良い案だと思います。そのつもりで綱元と共同で手配致します。政宗様が倉を確認している間に手配を致します」
「流石だ、小十郎。その手で行け」
「政宗様、どうかお任せを」
「梵、俺、超楽しみ!」
「政宗様、俺も楽しみでございます」
「じゃあ、お前ぇら、お台場に行くぞ。遙、美紀、何の心配もいらねぇからバーキンは置いて行け。iPhoneは胸元に差し込んでおけばいい。俺もそうする。お前ぇらもそうしろ」
「うん、分かった」
「はっ!」
「Okay!」

俺と遙は手を繋いで、本丸前まで向かった。
城の外に出るのは何だか久々のような気がする。
あれだけ毎日、長曾我部と夜遊びしていたから、こんなに城に缶詰めなのは初めてだ。
遙といるから退屈は全然しないが、遙には江戸の町が見せてやりたかった。
相変わらず、野郎共が鈴なりになって見惚れている。
今日の遙は特別綺麗だから、俺は放っておくことにした。

「今日の遙様はまた格別っス…」
「振袖も超似合ってて綺麗で可愛いっス」
「あんな袴見た事もねぇっス。超可愛いっス…」
「筆頭とお揃いの耳飾りがラブラブ感あって、たまらねぇっス…」
「ラブラブでいいだろ?これを民衆にお披露目だ!」
「流石、筆頭!天下一の伊達男!」

俺達は笑いながら廊下を歩いて、しばらくして本丸の門を出て、用意されていた履物を履いて、外に出た。
本丸前では部下達が手綱を持って、馬達を待機させていた。
ほとんど歩かないで済むように、本丸から馬の通れる道は整備されている。

「わぁ!外出久々だし、江戸の町が楽しみだな!地理は分かるけど、景色が初めてだもん!この間は新宿方面だったから、銀座方面は初めてだね!」
「ああ、そうだな。銀座ではよく一緒に遊んだな。先に馬に乗れ。俺が後ろから抱き締めててやる」
「うん!」

遙はひらりと馬に乗ると、俺も馬に乗り、遙を後ろから抱き締めた。
小十郎達も馬に乗り、美紀も自力で馬に跨ると、成実が俺と同じように美紀を抱き締めた。

「美紀ちゃん、嫌だったら言ってね。落っことしたくないから、こうさせてもらうよ」
「成実、大丈夫だよ。この方が安心する」
「良かったぜ」

小十郎は俺達を見て微笑んだ。

「遙様、振袖が大変絵になっておりますよ。長い華やかな柄の袖が馬によく映えます。政宗様に、華やかな花を添えていて、大変お似合いでございます。民衆も間違いなく熱狂するでしょう。美紀、お前ぇも綺麗だぜ?政宗様の出陣に相応しいな。よくやった」
「小十郎、サンキュ!」
「小十郎、ありがとう!馬に乗るから成人式の袴にしただけなんだけど、政宗も小十郎も喜んでくれて嬉しいな!」
「遙様、成人式とは?」
「私の世界の元服の事だよ?」
「左様でございましたか。政宗様、桜田門から出ましょう。そのまま晴美通りを進み、築地から馬を歩かせるので結構かと。銀座の人通りなどは、晴美通りを一時的に封鎖しておりますので、築地までは爆走出来ます」
「それを聞いて安心したぜ。全部の行程を歩きだったら時間を食って仕方ねぇ。よし、心置きなく馬飛ばして行くぜっ!Ya-ha!」

俺は掛け声と共に、馬を爆走させ始めた。
隣を小十郎が遅れずに付いて来て、後ろに成実と綱元が続いた。
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