忍の奥義

二の丸からのんびり歩いて夕餉の部屋に戻ると、俺達は一服を始めた。
まだ3時前で安心する。
小十郎に確認させると、十二単が考えられうるパターン全てで京に存在した在庫丸々根こそぎで、俺達の出陣中に届いたと聞いて俺はホッとした。
流石、小十郎、すげぇスケールの張り切りようだ!!
俺も遙に最高の衣装がこれで選んでやれるから、楽しみでたまらない。
綱元も指揮を終えて戻って来た。
これでお膳立ては完璧だ。

「小十郎、茶を申し付けろ。最高に気分がいい」
「かしこまりました」
「小十郎、焔の分もお茶を申し付けて。これから、医療戦略について焔と打ち合わせがしたいから」
「かしこまりました、すぐに申し付けます」

小十郎が声を張り上げて部下を呼んで言付けると、遙は焔を呼んだ。
焔は部屋に入って一礼をすると、iPadを持って俺達とは直角に交わる席に着いて、iPadを開いてキーボードに手を添えた。
その間に茶が届けられた。

「遙様、話し声は聞こえておりましたので、ご安心を。医療戦略についてのミーティングでございますね。では、早速始めて下さいませ。iPadに資料をまとめながらお話をお伺い致します」
「焔、流石だね。私は東大病院の持つ技術と使い方までは大雑把に知識を与えられたけど、まだ足りない部分があるから確認したくて呼んだの。頭がパンクしちゃうから余計な知識は与えられなかったみたい。じゃあ、早速だけど、カルテの管理はどうやってやるの?」
「カルテは全て電子カルテでございます。マシンは全てiMacでiOSに対応したオリジナルの電子カルテでございます。そこから薬の処方も出来、薬剤部に処方箋を転送する事が出来ます。薬剤担当の忍がそこで薬を処方し、患者様への服薬の指導を行います。医療点数は自動計算のため、医療事務は必要ございません。医療点数を元に算出された金額は受付に自動転送され、会計を行う事が出来ます。会計だけ人員が必要です。全ての患者はIDカードを兼ねた診察券で管理をし、東大病院入口やナースステーションや診察室の受付機でスキャンする事によって診察や治療が可能でございます。全ての電子カルテの閲覧は全ての政宗様配下の忍ならばいつでも参照出来、黒脛組の頭領と俺に関しましては遠隔でiPadで管理をする事が出来ます。同じiOS同士なのでアプリに互換性がございます。これが電子カルテに関する装備でございます」
「焔の説明は分かりやすいね。美紀が政宗に医療報酬を医療機関毎に変える事を提案してたんだけど、医療点数の変更って出来る?」
「変更の権限を持つのは黒脛組の頭領と俺だけでございますが、変更は可能でございます。全ての診療報酬は伊達の財源になりますから、政宗様のご命令次第で変更出来るような仕組みになっております。遙様の世界の国民健康保険や社会保険を適用した場合の診療報酬を得る仕組みになっておりますから、3割負担とお考え下さい。現在の日本の貨幣価値に合わせた診療報酬でございます。残りの7割は、民間の医療技術者を育成して報酬を与える財源とするよう申しつかってございます。高額医療報酬につきましてはある程度免除でございます」
「なるほどね、それは好都合だな。民間人を育成出来るのは頼もしいな。ナースと薬剤師はどうなってるのかな。呼び出しのためのPHSとかポケベルとか全員持ってる?」
「ナースや薬剤師や診療科は輪番制で担当する手で黒脛組の頭領と合意しております。全ての手技に精通するためでございます。遙様の世界の研修医のような物でございます。政宗様のご命令を朝に受けてから、ほとんどの戦略は黒脛組の頭領と合意致しました。伝令に関しましては、全ての忍がiPhoneを所持しております。LINEでの伝令でございます。東大病院の設備の電波とiPhoneの電波の周波数が全く異なるため、お互いに干渉する事がなく、問題なくiPhoneが使えます。一応ナースステーションや病室にナースコールがございますので、患者様への対応は問題ございません。iPadは全ての忍が所持し、東大病院から近い場所に寮がございますので、東大病院から離れていても治療の戦略を練る事が出来ます」
「なるほどね、みんながiPhoneとiPadを持ってるなら安心だ。ナースコールもあるんだね。論文の検索や参考文献はどうなってるの?」
「全てのオンラインジャーナルは全てのiMacとiPadで参照可能でございます。カラーのレーザープリンターもございますのでご安心下さいませ。全ての診察室に診療科に応じた専門書がございます。もちろん医局にもございます。我々は全員全ての国の言葉が読めるので、英語のオンラインジャーナルでも問題はございません。また医学部図書館がございますので、東大病院で管理仕切れないものは医学部図書館で読む事が出来ます。セキュリティが厳しいので竜岡門は開放出来ますが、忍以外は入る事が出来ません。あれならば、護衛も必要ございません」
「それならミーティングも予習も出来るね。良かった、安心した。医学部図書館があるなら最強だ。ちなみに寮ってどこにあるの?佐助の忍隊と黒脛組全員だったら、東大内の寮じゃ入りきらないよ?」
「左様でございます。遙様の世界の東大の薬学部と医学部三号館と医学部研究棟が追加で寮になってございます。全ての建物の規模ももっと大きな物でございます。内装が個室の寮でございます。4千人は受け入れられます」
「ああ、それなら安心だ。全員入るし病院から近いね。全ての診療科の区分は?」
「ほとんど同じでございますが、頭痛外来と疲労外来の追加がございます。口腔外科に関する知識もございますので、歯科医師と歯科衛生士の知識と技術もございます」
「わぁ、それ最先端だし東大医学部には歯科の技術がないから心配してたよ。東京には疲労外来がなかったから、それも感激だ。じゃあ、まず周産期医療の戦略について話そうか。まずは全国の産婆に一処置一手洗い消毒を義務付けて欲しいの。産後の致死率をほとんどなくせる」
「かしこまりました。政宗様から申しつかっております」
「他には、私は今の情勢をよく知らないから、中度医療機関を設置する場所を全国で選んで私に知らせて欲しいな。日本地図に印を付けてくれるので構わないよ。それをスキャナーでスキャンして私にメールで転送して。それで私が中度医療機関の設立を願う。全国に高度医療機関もある程度人口の集中に応じて願おう。各大名の領土内で1つずつでいい。でも、あくまで東大病院が最高峰の物とするよ。足りないスタッフは、お館様が得る忍から人員を補給する。言ってる意味、分かるね?」
「もちろんでございます。承知致しました。早急に黒脛組の頭領と戦略を練ります」
「よし。開業医については、医学部一号館を使って教育する事にしよう。医学部一号館を願うよ。町医者で構わない。特に蘭学に興味を持っている医者がいいな。全国から順番に集めて研修させて。診察方法を叩き込んで、必要な薬を中度医療機関から供給する事にする。問診と触診と聴診器と血圧計と体温計だけで、ほとんどの病気がある程度特定出来るのは焔もよく知ってるね?検査が必要な病気については全て中度医療機関で行うように手配。その想定で教育して。それなら町医者の教育もすぐに終わる」
「かしこまりました。もちろん心得てございます。政宗様、全国の町医者を招集するご命令をお下し下さいませ。それから大名の領土内に病院を設立する許可を得るご命令もでございます」
「ああ、分かった。綱元、お前に任せた。焔と黒脛組の頭領からの依頼はお前が責任を持って受けろ」
「政宗様、承知致しました」
「政宗、私、いい物持ってるよ。これを綱元の全ての命令書に使えばいいよ」

遙はバッグの中を漁って、大きめのスタンプと大きな朱肉を出した。
スタンプを手渡されてゴム印の部分を見て、俺は笑ってしまった。
鶺鴒の花押のスタンプだ。
本当に俺の花押そのもので笑ってしまう。
俺の鶺鴒と大きさが丁度同じくらいだ。
これは便利だ。

「お前、よくこんなの見つけたな。傑作だぜっ!」
「戦国専門ショップで売ってた。政宗の家紋のクリアファイルも持ってるよ?」

俺はまた笑わされた。

「政宗様、それは何でございますか?」
「判子だ。俺の鶺鴒の花押がデザインされている」
「政宗様の鶺鴒が!?それは確かに全ての命令書に押せて便利でございます。この小十郎も見てもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぜ。成実と綱元にも見せてやって、綱元が管理しろ」

小十郎は感心しながら花押のスタンプを見て、成実に手渡した。
成実は声を上げて見惚れた後に綱元に渡して、綱元も感心しながら眺めていた。
俺は綱元に朱肉を渡した。

「それを全ての俺からの命令書に押せ」
「承知。これならば、紛れもなく政宗様のご命令だと誰もが確信致します。遙様、流石でございます。流石は政宗様の奥方様でございます」
「ただ政宗の面影を追い求めてただけだよ。伊達政宗グッズはたくさん持ってる。じゃあ、焔、ミーティングを続けていい?」
「ええ、どうぞ」
「他にも全ての産婆に義務付けて欲しい事があるんだ。妊娠の合併症の見分け方の徹底。産婆の数が多過ぎると思うから、中度医療機関で教育を行おう。だから、中度医療機関の設立の場所の選定を急いで。いち早く江戸に関しては医学部一号館で教育開始ね。これも綱元に命令を下してもらって」
「かしこまりました」
「その時に全ての産婆が妊婦を抱え込まないように指導して。必ず最寄りの医療機関と情報の共有を行うように。入院に必要な合併症が見られたら即入院。仮に、産婆に依頼していない妊婦が産気付いて死にかけた場合、凧を出してでも救急搬送ね。瓦版でも駆使して、必ず産婆の手を借りる事と産婆が捕まらない場合、忍を頼る事を周知させて。中度医療機関のそばには小児医療センターを願うから、新生児に重篤な障害が見られる場合は出産後即入院ね。全て24時間体制で稼働。これが周産期医療の戦略」
「完璧でございますね。流石は遙様でございます」
「これは美紀が考えた戦略だけどね」
「美紀様でございましたか。流石でございます」
「だって、私、元、産婦人科医だもん。これが理想的な周産期医療戦略だと思ったから。それだけ設備が整ってたら私も安心だな。遙、話を続けて」
「うん。これが最初に取らなきゃいけない戦略ね。次に将来的にどう戦略を展開していくか話すね。医療機関の整備が整えば、忍の人数が足りなくなるから、民間人を雇用する。全ての医師は忍で構成。まずはナースの育成から始めよう。全国の大名の領土内に看護学校を設立。そこでナースの心得と医療技術について教育ね。薬剤師も必要に応じて教育だ。これで医師の十分な人数が確保出来る。薬剤師から優秀な人材だけ薬剤学を教えて伝承させて行けばいい。東大で行う。伊達の秘伝の奥の手として門外不出を徹底ね。ナースの技術程度だったら世界の科学の歴史に大きな影響を与えないから大丈夫。むしろナースの心構えだったら世界に伝わって欲しいくらいだよ。ナースは男女問わず採用。年収700万円を確約。薬剤師もね。貨幣価値の換算は分かる?」
「ええ、換算についても心得ております。どうやって人員を確保するか心配しておりましたので大変助かります。その戦略も承知致しました」
「わぁ、助かるな。それから、ここまで来たら分かると思うけど、トリアージの徹底ね。搬送用の救急車に当たる担架、籠、馬、凧にはそれぞれそれなりに高い税金を課して。本当に重篤なケースについては診断が降りた時点で全額返金。これも綱元に税率を計算してもらって瓦版で周知。だから、中度医療機関から高度医療機関への引き継ぎがスムーズになるように戦略を立てて。何ならドクターヘリを願うから、最終的に東大病院に集めるよ。それなら全ての治療が可能だから。ドクターヘリの配置場所も考えて、私への報告と設置の許可を得てね。トリアージについても分かるね?」
「もちろんでございます。それは大変いい考えでございますね」
「美紀の案とのハイブリッドだよ。それから、全国の人々に予防接種ね。存在する限りの予防接種薬を免疫反応をよく考えながら接種して行って」
「かしこまりました。それは俺の配下の忍で行う事で合意しておりますのでご安心下さいませ。時に遙様も政宗様も世界に進出するのであれば、追加の予防接種をした方がよろしいかと存じます」
「え?追加の予防接種?」
「左様でございます。全てのマラリアとアフリカ睡眠病、全ての出血熱など、熱帯に存在する病気のワクチンが実用化されております。混合ワクチンでございますので一度の予防接種で済む上に、1週間で有効となり、一生ワクチンの効果が続きます。種痘も安全な物が実用化されており、効果は一生続き、種痘の跡も残りません。混合ワクチンと同時に接種可能でございます」
「そんなのがあるの!?」

遙と美紀は同時に叫んで目を見開いて固まった。
そして、2人同時に深い溜息を吐いて額に手を当てた。

「予想以上の科学の進歩だ、びっくりした…」
「遙、私もびっくりしたよ」
「本日の入浴の後にでもご命令下されば、予防接種にお伺い致します。予防接種の後は半日は入浴出来ませんから」
「ああ、焔、頼んだ。俺もアフリカについては心配してたからな」
「政宗様、左様でございましたか。美紀様と小十郎様のご家族、成実様と登勢様の予防接種もお任せ下さいませ。佐助様もボストンバッグをお持ちのはずでございます。そのように伺いました。佐助様と紫苑とエリザベス女王の予防接種は、佐助様と紫苑が行う手はずでございます」
「ああ、それはすげぇ助かるぜ」
「それから、俺にもまだご提案がございます。政宗様の出陣中、遙様や美紀様が産気づかれたり、何かがあれば大事でございます。診察室と産婦人科用の内診室、分娩室、手術室を政宗様が本拠地となさる空母にご用意下さいませ。全ての治療が行える医師団を形成致しますので、空母に待機させて下さいませ。治療の指揮は佐助様が執られるとよろしいかと存じます。佐助様は俺と同じくらい用意された医療機関についてご存知でございますし、医師団は俺の配下の忍で構成致しますので、佐助様もご命令を下しやすいかと存じます。産婦人科につきましてはくノ一に担当させますので、遙様も美紀様も政宗様もご安心出来ると存じます。遙様お気に入りの若草も参加させます。若草もきっと喜びます。成実様や小十郎様もお使いになれます。空母ならばほとんど揺れず、手術も可能でございます。長曾我部様の空母にも願って下さいませ。政宗様、空母の内部で診察室や手術室や集中治療室、分娩室に当てられそうな場所をお選びになり、全ての装備を願って下さいませ。診察室や手術室や集中治療室の構成はこのようになっております」

焔はアプリを切り替えて、俺に診察室や産婦人科の内診室、手術室、集中治療室、分娩室と医療機器の動画を見せた。
リアルに想像出来たので、俺は、本拠地とする空母に装備を願った。
願った通りの物が空母の中に出現するのを俺は感じた。

「焔、thanks!これで安心して世界に進出出来るぜっ!マジで助かるぜ。ちなみに登勢が日本を出発出来る見積もりはどれくらいだ?」
「最短で7日後、安心出来るのは10日後でございます。この部屋を出られるのは4日後でございますね。そろそろ旅行に向けてリハビリをして頂きます。また、丁度、本日から月の物が確認出来ましたので、ピルの服用を始めて頂きました。避妊効果は8日後からでございますが、まだ術後間もないので夜伽はあと19日はお待ち下さいませ。飛行機に乗るくらいなら問題なく、佐助様と合流なされば、佐助様が全ての指揮を執られますのでご安心下さい」
「焔、マジでか!?俺、ピルが初夜に間に合ってめっちゃ嬉しい!!あと19日頑張って耐えるぜっ!!梵、俺が着くまで婚儀は待機してろよ?」
「当たり前だ。それについては後で話すからもうちょっと待ってろ。遙、他に練る戦略はあるか?」
「うん、まだある」
「よし、それについて話せ」
「うん。まずは国民皆保険についてなんだけど、保険料が高いから、保険料は最低限にして、財源はディズニーランドとディズニーシーとUSJの入場料と中での売り上げから捻出ね。ディズニーは江戸湾沿岸に建築、USJは大阪湾沿岸に建築。全て私が願うから大丈夫。美紀、iPadで動画をみんなに見せながらディズニーとUSJについて説明して」
「オッケー!」

美紀はノリノリでディズニーとUSJの宣伝を始めた。
俺ですら驚きを隠せず、美紀の話に引き込まれて、みんなで歓声を上げながら聞いて、動画を眺めた。
つくづくエンターテイメントの説明が美紀は上手い。
遙も人の使い方を心得ている。
俺の最高の参謀達だ。

「政宗様、これは大変面白いですね。全国から人が集まります。相当な財源が確保出来ると思いますので、入場料と医療の保険料についての計算は、この綱元に全てお任せ下さいませ。瓦版による宣伝もでございます。伊達の商業船と長曾我部の商業船で観光客を運びます。まずは遙様が願われた後、宿場の建築を急がせます」
「ああ、頼りにしてるぜ、綱元。是非その手で行け。長曾我部には俺からLINEしておく。俺も超行きてぇ!全てのシーズンで楽しみたいぜっ!」
「梵、俺も超行きたい!登勢とディズニーデートしたいっ!」
「大丈夫だ。俺達が行く時は貸切で、長曾我部も家族と呼ぶからな」
「元親も来るのかよ!?俺、超楽しみ!あいつに会うの超久しぶりだぜ!」
「USJにはホンダジェットで気軽に行こうぜ」
「マジで楽しみだぜ!」
「ふふっ、私も楽しみだなぁ。政宗とディズニーデートしたかったし、USJは初めてだから。アンバサダーホテルとミラコスタも願おう」
「それ、何だ?」
「ディズニー直営のホテルで、スイートルームは、ディズニー仕様だよ?」
「是非願え」
「うん!」
「流石は遙様でございます。この徴税ならば不満も出ません。心置きなく我々も医療機関の整備に力を入れられます。他には何かございますか?」
「財源が確保出来たから、介護士の育成ね。基本は看護と変わらないけど、もっと患者さんに親身。意味、分かるね?」
「もちろんでございます。介護士の知識と理念も分かります。訪問介護と施設での介護でございますね。それも後に訪問介護施設の地図を遙様にお送り致します。ならば、ケアマネジャーと保健師と訪問医師の手配も致します」
「焔、流石だよ。私も美紀も安心だ。介護士の年収は700万円を確約して」
「かしこまりました」
「政宗、エリザベス女王のお抱えの医師団はどうする?」
「ベスと会ってから話し合うから構わねえ。他には何かあるか?」
「うん、まだあるよ。これで最後ね。まずは焔の医学の基礎知識の確認ね。基礎科学は分かる?」
「遙様、基礎科学とは?」
「なるほど、基礎科学は分からないんだね。だったら、それで大丈夫だよ。生化学と薬剤学と栄養学は分かる?」
「それならば、全て分かります」
「なるほど、医療に偏った有機化学と無機化学ね。ある程度の元素も分かるって事だ。核医学の原理は?」
「もちろん分かります。ですから、相対性理論の式と原子の構造は分かります。α波、β波、γ波もでございます。物質と反物質もでございます」
「分かった。遺伝学と免疫学と生物統計学は?」
「全て分かります。特に統計学に関しましては基礎統計学から分かります。正規分布が分からないと話になりませんから。ですから、集団遺伝学も心得ております。メンデル遺伝に始まり、遺伝子解析方法もSNIPSの特定まで心得ております。機械もリアルタイムPCRより優秀な物が東大病院にございます。患者様のDNA解析に基づいて最も適切な薬を処方するテーラーメイド医療が実現されております。たんぱく質の4次構造の立体的解析もiMacで画像化出来ますので、適切な治療薬の設計が出来、すぐに動物実験から治験へと移行出来ます。人類遺伝学教室のある所に開発設備がございます。生物統計学についてはSASでのプログラミングも出来ます。治験に欠かせませんから。病院が足りないので二重盲検が出来ませんが」
「リアルタイムPCRよりすごいって想像つかないな。DNAとRNAが分かるって事だ。白血球の働き全ても。でも、まさかテーラーメイド医療がそこまで進んでるとは思わなかったな。たんぱく質の画像化と薬の開発の技術もすごい。統計学についてはそう言われてみればそうか。それにしてもSASが使いこなせるってすごいな。テーラー展開が出来るって事か。だったら、微分積分も分かるね?」
「左様でございます。ですから、高次関数も分かります」
「なるほど。ある程度の数学が出来るって事だ。微生物及び医動物学は?」
「発見されている物であれば全ての感染源動物について把握しております。治療の戦略も致死率や動態も全てでございます」
「分かった。基本的な動物細胞の働きと形態は分かるって事だ。MRIと心電図の原理は?」
「もちろん分かります。ですから、磁力と電力の基礎知識はございます」
「なるほど、基礎的な電磁気学が分かるって事だ。じゃあ、医学の発見の歴史に関する知識は?」
「全て心得ております。ノーベル医学賞受賞者の発見と原理についても心得ております。医学に関する発見であれば、物理学賞と化学賞も把握しております」
「なるほど、これで全ての基礎知識が見えたよ、ありがとう」
「ちなみに付け加えますと、今晩の予防接種には4大下痢症ウイルスのワクチンも含まれますので、生色の牡蠣を食べてもノロウイルスに一生当たりません」
「そうなの!?それは嬉しいな!インフルエンザウイルスのワクチンは?」
「それは未だございません。インフルエンザウイルスは突然変異が激しいので、汎用的なワクチンは作れません」
「なるほど。確かにそうだよね。あれは突然変異が激しいもんね。突然変異の原理が分かるって事は進化論の原理が分かるって事か」
「そうなのですか?進化論については存じ上げませんが、どの鳥が媒介するかまでは把握されておりますので、不忍池に飛来した鳥を調べてインフルエンザウイルスを検出し、適切なインフルエンザの予防接種を行う事は出来ます。東大病院のすぐそばですし、あそこは鳥の溜まり場でございます。あくまでA型かB型かの判定で、今後大きな突然変異が起きたら対応は出来ません。ただし、その時に適切なワクチンを作る技術はございます。あくまで付け焼き刃でございますが。予防接種は鼻粘膜から接種し、IgA抗体の産生を促します。IgG抗体より効果的でございます。インフルエンザウイルスは鼻や口の粘膜から感染致しますから。一度の予防接種で済みます。今晩インフルエンザの予防接種も致しましょう。インフルエンザシーズンですね。忘れておりました。申し訳ございません」
「はぁ、すごいね!確かに粘膜に存在する抗体の8割がIgAだからね。その方が効果的なのは間違いない。筋肉注射よりもずっといい。それならほぼインフルエンザは防げるって事だ。焔の知識がそこまでだと私も安心だ…。はぁ…本当にすごい…びっくりした…」
「ヤバい…。焔が遙より医学では化け物レベルになってる…。佐助もこのレベルだと、マジでヤバい。私、負ける…。基礎科学でしか勝てない…」

遙と美紀が感心しきって言葉を失った。
正直俺も驚きだ。
あの遙をここまで驚かせるなど、本当に化け物級だ。
俺にはさっぱり分からない言葉の連続だった。
小十郎も綱元も成実も言葉を失って、焔と遙と美紀を交互に眺めている。

「遙様もすごいが、焔も大したもんだぜ…」
「ああ、そうだな、小十郎。俺も超びっくりしたぜ…」
「政宗様、遙様が出来るのは政治だけではなかったのでございますね。俺もびっくり致しました…。むしろ感動でございます」
「ああ、綱元。遙の専門は医学だ。それを超えた焔はマジでやべぇ」
「遙ちゃんをびっくりさせるなんて焔はマジでやべぇな。登勢もこれで安泰だ」
「遙様をそれほどまでに驚かせるつもりなど毛頭ございませんでした、申し訳ございません。遙様が俺にお尋ねした意図をお教え願います。遙様ほどのお方なら、戦略なしでこのような事を俺に尋ねるはずがございません」

遙はハッとしたように我に返った。

「うん。何故こんな事を聞いたかと言うと、未来に渡って、歴史上の発見者達が東大病院に視察に来るように仕向けられているはずなんだ」
「なるほど、その話は俺も伺いました」
「そうなんだ。だからね、黒脛組の頭領と相談して、歴史上の発見者に上手くヒントを与えて発見に誘導するように、今から戦略を立てて欲しいんだ。焔のiPadは子々孫々とずっと使えるからそこに保存でいいよ」
「承知致しました。何故、遙様が俺に基礎知識を尋ねたか合点が行きました。なるほど、それならば、俺にも戦略がございます」

焔はそこで言葉を切って遙と俺をじっと交互に見た。
焔は猿飛よりも賢明だ。
何かとてもいい策があるに違いない。

「焔、俺に頼み事だな?」
「左様でございます。流石は政宗様でございます。政宗様と遙様、お2人にご許可頂かないと俺も動けません」
「だったら言ってみろ」
「はっ!政宗様に、遙様の世界の東大で学ばれている全ての学問の知識とその前提となる知識を俺に与えるご許可を頂きたいと存じます」
「遙の世界の東大の知識…。つまり、法学部、経済学部、文学部、理学部、工学部、農学部、獣医学部、医学部、教養学部だな?遙、合ってるか?」
「政宗、合ってるよ。よく覚えてるね」
「東大を作ろうと思ってメモして帰ったからな。各学科の構成もメモに残してある。流石に大学院までは俺の知識が及ばなくてメモに残してねぇけどな。焔、それを知ってどうするつもりだ?」
「遙様の目的が歴史上の発見者達に対する発見への誘導であれば、この焔には全ての学問領域についての戦略が立てられます。俺の最も得意とするのは人の心理を利用した心理戦でございます。相手の心理を読み、適切に動いて手軽に諜報する事でございます。諜報をこなした数も難易度も佐助様をはるかに上回ります。ですから、歴史上の発見者達も上手く誘導されるでしょう。ですから、遙様のご許可を頂きたかったのが、まず一点目でございます。次に政宗様にご許可頂きたいのは、政宗様の官僚の育成をこの焔にお任せ頂きたいのでございます。俺ならば適切に指導が出来、迅速に官僚を鍛え上げられます。そのために、東大に全ての校舎を立てて頂きたいと存じます。正直、俺は東大について大雑把に本日調べは致しましたが、知識不足で完全な理解には及びません。ですから、政宗様のご協力を頂きたいと存じます。佐助様への忠誠は絶対でございますから、政宗様への忠誠も絶対でございます。配下の最も優秀なくノ一達と子を成し、末代まで政宗様のご協力を致す所存。忍の忠誠は絶対でございます。代々この焔の心理戦の技術と与えられた知識を伝承致します。いかがでございましょう?」

まさか俺も焔がそこまで一瞬で決意していたとは思わず、本当に驚いた。
しかも、とても魅力的な申し出だ。
遙がいる限り、猿飛が裏切らねぇのは確かだし、そもそもあいつは俺によく懐いてる。
俺にとって小十郎が頼りになるように、猿飛は焔を頼りにしている。
忍の忠誠が絶対なのは俺もよく知ってるし、焔なら絶対的に俺へ忠誠を誓う。
心理の読みの鮮やかさは、遙の命を救ったり、錯乱していた遙の心理を読み切った事からも想像に難くないし、焔の存在は元々黒脛巾からも聞いている。
最も難関なはずの伊達の偵察を担当していたのも焔だ。
それも俺はよく知っている。
出来れば欲しい人材だった。
焔を末代まで抱えられるのは最高の参謀になる。

「よし、俺はお前の策に全力で乗る。遙、お前はどうだ?」
「焔の事は絶対的に信頼してるよ。佐助でも手に負えない錯乱状態の時に私を上手く宥めたのは焔だし、誘導の上手さは私が一番よく知ってる。でも、優秀なくノ一達と子を成すって言う所だけが賛成出来ない。焔にもきちんと恋して欲しい」

焔は悲しそうに、でも嬉しそうに笑った。

「遙様は本当にお優しい。誰も傷付くのを極端に嫌われるから、ご自分が傷付かれるのを厭わない。正直、佐助様があれほど辛く遙様に当たっておられたのに、配下の忍全員に疱瘡の予防薬を下さった時は、忍である俺ですら恩義を感じ、佐助様を説得致しました。我々の主に足るお方だと。俺とくノ一達が傷付く事を恐れてのお言葉だという事は重々承知しております。そんな遙様だからこそ、主として敬愛し、この身を捧げてもお仕えしたいのでございます。政宗様と遙様には俺の諜報の奥義とくノ一達の悲しい運命についてお話し致しましょう。佐助様は嫌がられるかも知れませんが、遙様への説得のためだと知ったらお許しになるはずでございます。ただ、俺の奥義を知る事により、遙様がまた傷付かれるのが心配でございます。出来れば、俺は遙様を傷付けたくありません」

そこで焔は悲しそうに瞳を揺らした。
焔は絶対的に表情を隠す男だと聞いていた。
そんな焔がこうして素顔を見せるなんて奇跡に等しい。
俺だって遙に女遊びの実態なんて出来れば話したくなかったし、焔が自分の口から女の籠絡方法を、よりによって敬愛する遙に言うなんて辛いのもよく分かる。
遙を泣かせたくない気持ちは俺が一番よく知ってるし、焔の籠絡方法もくノ一の運命もよく俺が知っている。
俺が遙に話す方が遙は傷付かない。

「焔、お前の口から言わなくて構わねぇ。お前の籠絡方法もくノ一達の悲しい運命も俺がよく把握している。俺の口から伝えた方が、遙は傷付かない。だから、お前は黙ってろ」

焔はくすりと笑った。

「流石は天下人、黒脛組を統括する政宗様でございますね。政宗様に全てお任せ致します。その方が遙様が傷付かないのは確かでございます」
「お前、俺を誘導しただろ?」
「左様でございます」
「流石だ、焔。お前をお抱えに出来て俺は本当に嬉しいぜ。正直、猿飛よりもお前が欲しかったくらいだからな」
「光栄でございます」
「政宗、焔の奥義って?私が傷付くって?」
「なるべくお前が傷付かないように簡単に言う。泣いたらお仕置きだからな。お前が泣いたら焔が悲しむ。だから、お前も傷付くな。これは、お前が手術のために、人の身体を切って傷付けるのと同じ忍の仕事だ。だから、それを割り切って聞け。いいな?これはあくまで仕事だ。俺もお前を傷付けたくねぇし、焔も傷付たくねぇ。くノ一達もだ。だから、仕事として聞くって俺に約束しろ」

じっと遙の目を見て言うと、遙はこくんと頷いた。
遙が真剣な眼差しで俺の目を見つめたのを確認して俺は話し始めた。

「忍の仕事は大きく分けて3つある。暗殺、諜報、主の護衛だ。俺の黒脛組は基本的に諜報専門だ。お前の護衛のためにくノ一達を用意したけどな。城の護衛分も適度にいるな。風魔が暗殺専門だな。かすがも主に暗殺か。諜報も多少はこなすけどな。かすがが謙信の護衛をしているな。猿飛は全てをこなす、最強の忍隊だ。数も多いだろ?俺の黒脛組は30倍以上の規模だけどな。マルサを兼ねている。お前も水戸黄門で知ってる通り、くノ一達はお色気で惑わせて相手を籠絡する。あれはテレビだったから温泉に入る程度しか見せなかったが、実際は身体を使う。身体を重ねたら情が移る事もあるから、忍頭は絶対に裏切らないようにくノ一達の処女を奪って、全ての快楽を身体に刻み込んで忍頭を忘れられないようにする。お前に俺を忘れて欲しくなくて、一生忘れられないくらいの快楽をお前に何度も刻んだだろう?抱き締めた温もりでお前の心を縛っただろう?何度もお前を口説いて愛の言葉を囁いたから、お前は他の男を拒み続けたはずだ。7年経っても、俺が与えた快楽も温もりも、愛の言葉を囁く声も忘れられなかったはずだ。俺はお前を愛してたから望んでそうしてたけどな。ただ、お前に触れていたくて、いくら愛してるって言っても足りなかったからな。要するに忍頭の業というのは単純に仕事でくノ一達をそうやって手懐ける事だ。他の男なんて絶対に想えない、悲しいくノ一達の運命だ。だから、猿飛のくノ一達は猿飛の与えた快楽の虜になっている。甲斐で猿飛が業から解き放たれたいって言ったのは、本気で美紀を幸せにしたかったからだ。だが、猿飛は望んで女を抱いた事がねぇから、本当の意味の愛や恋が分からねぇんだ。くノ一達が変な気を起こさねぇように夜伽以外の恋愛もした事ねぇしな。全部くノ一達を手懐けるためのテクニックで演技だったからだ。だから、美紀が俺達にどうすれば猿飛と恋愛出来るか相談に来た。お前ならその気持ち分かるだろう?」

遙は驚いて目を瞠って聞いていたが、真剣な眼差しのまま頷いた。

「佐助の業って何だろうって思ってたけど、そういう事情だったんだ。佐助、純愛に弱いから辛かっただろうね。私が政宗を忘れられなかったのと同じ手を仕事で使ってたならそれは辛いよ。政宗の黒脛組も同じ?」
「いや、俺はお前の世界から帰還してすぐに禁じた。その代わり俺の人望で縛り付けた。お前との恋で情に勝るものはねぇって学んだからな。報酬も弾んだし、よく褒めてやったぜ。俺自身誰からも尊敬されるように努めてたしな」
「政宗がそういう手段を取ってくれて嬉しいな」
「お前を悲しませたくなかったからな。例え離れていても」
「遙様が佐助様の事をよく理解して下さって、俺はとても嬉しいですよ」
「よし、遙、この調子で続けるぞ。次に焔の籠絡方法だ。焔は身体は絶対に使わねぇ。お前もよく知ってる通り焔は心を読んだり、心を掴んで誘導するのが上手いだろう?焔は諜報相手の女を心を上手く読んで、自然に親密になって恋に落ちさせる。恋に落ちた後は焦らしてもっと恋をさせる。どうしようもなく女が焔に恋をした所で諜報内容を聞き出して、最後に褒美の唇への甘いキスで女との別れだ。その別れ方も自然で女の一生の思い出に残る。焔は全てのパターンの恋の仕方を知っていると言ってもいい。だが、全部仕事だし、本心は冷めた気持ちでやっているし、恋愛の全パターンを知っているから、焔は絶対に恋を出来ない。恋と愛をよく知ってるのに恋も出来ないし、愛する事も出来ない。これが焔の抱えた秘密で焔の奥義だ。これなら手を汚さなくて確実に女が落とせる。最も効率がいいから、こなした諜報の数も多くて難易度も高いし猿飛よりはるかに多いんだ。身持ちの固い女でもキスまでなら許すからな。遙、分かるか?」

遙は驚いて目を瞠っていたが、すぐに頷いた。

「女の人達には可哀想だけど、いい思い出になるなら、焔しか傷付かない方法だね。でも、私は政宗と私の間に起こった奇跡の方を信じたいな。愛は地球を救うレベルだって。時空さえ超えさせるって」
「遙様は本当にロマンチストでございますね。何も心配には及びません。政宗様、ご説明ありがとうございました。思ったよりも遙様が悲しまれなくてホッと致しました。配下のくノ一達が佐助様を忘れられないのは仕方ありません。俺にはその気持ちが痛いほどよく分かります。しかし一方で俺にも仕えておりますから、根底には俺への敬愛の気持ちが根強く張っております。また、俺自身、佐助様の右腕として部下達全てを大切に思い可愛がっておりますから、政宗様と遙様のような恋愛関係にならなくとも、固い主従関係の絆の情で深く結ばれております。俺はくノ一達の悲しい運命を全て受け入れて抱く事が出来ます。もしや、くノ一達も子に恵まれたら遙様の望まれる情に目覚める可能性もあります。俺も子に恵まれたら情が移るかも知れません。くノ一達は基本的に堕胎の薬を飲むので、子に恵まれた事はございません。一部は世継ぎとして産ませます。ただ、俺が取る策は側室を迎えるような多妻制なだけでございます。誰も正室には致しません。俺ならば全てのくノ一達に平等に接することが出来、くノ一達を決して悲しませたりはしません。これでも人の心理を読む事には長けておりますから。それでも遙様はこの焔をお許しになりませんか?」
「はぁ、そんな風にお願いされたら、子供が生まれた時の奇跡にかけたくなっちゃうな。確かに赤ちゃんはどんな子でも可愛いから、焔も全ての子を大事にして教育するだろうね。分かったよ。焔の策には私も脱帽。くノ一達もきっと救われる。だから私は反対出来ない。みんなで東大を作って。私もいい事を更に思い付いたから」
「よし、遙、よく取り乱さなかったな。褒美に今日も優しく抱いてやる。お前、何を思い付いたんだ?」
「うん。まずは願う知識は全ての学問の教授レベルの知識。それを焔と焔が娶るくノ一達全てに与える。他にも与えたい知識はたくさんあるけど。政宗、寺子屋は全国にある?」
「ああ、あるぜ。読み書きそろばんは基本だからな。それこそ幼子まで寺子屋に通ってる」
「じゃあ、全国の優秀な7歳までの子を選抜して東大に集める。規模は100人くらいかな。何なら10歳までならまだ間に合う。東大に全寮制の塾を作る。安田講堂を潰せば簡単に作れる。そこで、14歳までに全科目最難関の高校レベルまで終わる英才教育をする。外国語教育も同じ。大国の外国語教育は全て思春期までに終わらせる。つまり14歳まで。その時期までの子供達は外国語教育に最も効果的。カリキュラムをいち早く終了した子は飛び級で東大に入学。その後、東大に入学し、19歳までに博士課程まで終了。前期教養課程では理系文系まんべんなく必修科目とする。研究者をしばらく残す訳にはいかないから、全員伊達の官僚になる。募集は毎年かけて、英才教育を続ける。多分、くノ一達だけでは手が回らないから、成長した子供達が後輩達の面倒を見るチューター制度を敷く。そうしたら、子供同士の絆も深まるし、くノ一達の手間も省ける。そうだな、塾の運営は3人いれば十分だ。私も塾の先生が大好きでたまらなかったから、子供達は塾の先生を絶対に慕って、政宗の命令を決して裏切らない。学問の秘密も絶対的に守られる。これなら、将来的に絶対的に安全な核の運用に漕ぎ着けられるという読みだよ」
「やっぱお前、すげぇな!お前、そんな塾に行ってたから頭いいんだな!それだけ人材が確保出来たら、しばらくは時間がかかるが後々は新大陸の官僚に回せるぜ」
「遙様、流石でございます。正直、理解に及びませんし、娶るくノ一の人数を決めるためにも、今すぐ全ての学問領域で教授レベルまでの知識をお与え下さいませ」
「うん、いいよ」

遙は胸の前で手を組み祈りを捧げた。
焔も目を閉じて、何かを考えている様子だ。
そして、しばらく経って少し驚いたような表情の後、焔は微笑んだ。

「なるほど、遙様と美紀様の平和主義も、先ほどのお話も全て理解出来ました。これほどまでの学問を幼子の頃から学んでらしたんですね」
「ううん、私は仙台にいたから、宮城最高峰の学校でもたかが知れてるよ。親が日本一の高校の灘高出身の東大出身の、しかも現役医師の開業医の家庭教師を無理矢理付けてくれたから、私は賢くなれたんだ。私が願ったのは、灘中学校と灘高校の全科目の先生の知識とテクニックだよ。私が学んだのよりすごい知識。ちなみに日本最古のキリスト教の女子高の流れを汲む、女子学院のキリスト教の知識も願ったよ。牧師の院長先生のね。女子学院の子達はとても明るくて楽しくて自由だったな。キリスト教精神と自由の国アメリカの精神を突っ走ってたな。何せ制服がないから浴衣で学校に行ったら、先生が怒って制服を作るんじゃなくて、学校に来るならちゃんとした訪問着で来なさいって諭したらしいから。ちなみに美紀の出身校が女子学院だよ。政宗によく似合うと思うよ?」

俺達は遙の言葉に爆笑してしまった。
浴衣はダメだから訪問着だなんてcoolだ。
あの世界の事を考えるとありえねぇ!

「あははっ!訪問着は傑作だ、遙。確かに俺好みのジョークだ。美紀の出身校らしいぜっ!それから他に何を願った?」
「そろばん一級とインド式数学とSAPIXっていう子供向けのスーパー英才教育の塾の全教科の先生の知識とテクニック。SAPIXの先生はすごく面白いからね!覚えられない暗記モノは歌にして覚えさせるからね。私も近所のSAPIXでバイトしてたし、高校生に世界史を教えた時は、中国の王朝の名前をアルプス一万尺の替え歌で教えてたからね」
「何だよ、そのアルプス一万尺って。面白そうだからやってみろ。俺、明まで把握してたからそんな面白いの聞いてねぇぞ?」
「うん、じゃあ、まず、元のアルプス一万尺を美紀とデモンストレーションするね」

遙と美紀は一斉に子供の手毬唄のような物を歌いながら踊り出した。
俺達は感心しながら聞いていたが、焔だけ堪えられないようにくすくすと笑っている。
遙達がデモンストレーションを終えると焔はますます堪えられないように笑い出した。

「遙様、最高に面白いですね。その歌で覚えたら、子供でも中国の王朝の名前が一生忘れられません。ククッ…」
「でしょう?」
「すげぇ面白そうじゃねぇか!焔がこんなに笑うなんて珍しいぞ?奇跡だぞ?早く聞かせろ!」
「うん、美紀も覚えてるね?」
「もちろん!せーの!」
「殷、周、東周、春秋戦国、秦、前漢、新、後漢、魏蜀呉、西晋、東晋、宗、斉、梁、隋。五胡十六、北魏、東魏、西魏、北斉、北周。隋、唐、五代十国、宋、金、南宋、元、明、清!」

遙と美紀はノリノリで振り付けをしながら歌った。
出だしから俺達は大爆笑で、机をバンバン叩きながら笑った。
小十郎まで机を叩いているレベルの大爆笑だ。
ちゃんと北朝と南朝を網羅して隋に繋いで歌い直すのが面白くてたまらない。
しかも漏れもない。
更に、最後に綺麗に清で終わったのがたまらなくツボで、俺はしばらく机を叩きながら笑い転げた。

「政宗、水戸黄門のテーマでもぴったり合うんだよ?」
「遙、止めろっ!」
「遙ちゃん、超面白い!あははっ!」
「この小十郎、人生でこれほど笑わされた事は今までございませんっ!ははっ!」
「遙様、俺も人生で一番笑わされました。あははっ!」

俺達の笑いが収まるまで随分と時間がかかった。

「はぁ、随分と笑わされられたぜ。遙、他に何を願った?」
「アメリカのペンタゴンの軍略とNASAの宇宙科学のテクニック。それから国連の事務総長の理念とWHOの保健政策かな。多分、東大の教授を網羅したら、カバー出来ると思ったけど、日本は核兵器がないし、スペースシャトルも打ち上げてないから。あと、花火を作って欲しくて、日本一の花火師のテクニックも願った」
「なるほどな。俺の知る限り日本の知識としては完璧だな。何なら、アイビーリーグとMITとCalTechとパスツール研究所のテクニックと知識も願え」
「そうか。アメリカが支配下に入るし、フランスも服従するからその手もあったか。今から願う」

遙はまた手を胸の前で組み、祈りを捧げた。
焔が目を閉じて、知識の受け入れを行なっている様子だった。

「遙様、もう大丈夫ですよ。願いは叶えられました。仰ってらした知識は全て頭の中に入りました。大丈夫でございます」
「本当?混乱しない?」
「この程度であれば問題ございません」
「そっか。良かった。じゃあ、政宗に、本郷キャンパスの総合図書館と霞ヶ関に国会図書館も願ってもらおうかな。総合図書館に全ての参考書とテストを願うよ」
「面倒だから、お前がやれ。東大の構造はお前が一番詳しいだろ?お前が東大を作れ」
「じゃあ、言問通りを挟んで向こう側の土地空いてる?霞ヶ関の国会の辺りも」
「両方空いてるぜ?将来的に農学部と国会を作りたかったからな」
「じゃあ、政宗は、江戸湾に面したいい感じの土地にディズニーランドとディズニーシーを願い直して?あと大阪湾沿岸にUSJも」
「ああ、いいぜ」

俺と遙は手を胸の前で組み、目を瞑って祈りを捧げた。
脳裏に思い描いた場所に、願った物が出現するのを感じた。
そこで俺は祈りを止めた。
遙も祈り終わった。

「よし、遙。これでディズニーデートがいつでも出来るぜ?直前にスタッフを願えばいい。アンバサダーとミラコスタは現地に行ってからお前が祈れ」
「うん!東大も本郷キャンパスと弥生キャンパスが出来たよ。国会図書館も思った通りに設計完了だよ。駒場キャンパスは作らなかったけど」
「よくやった!」
「政宗様、おめでとうございます。ところで、フランスが服従するとは?先ほどの歌の清も気になります」
「よし、小十郎、お前ぇらにこれからの計画を全て話してやる。焔の頭脳は今は遙と美紀よりすげぇから、焔も参加しろ。とりあえず、茶を飲んで一服してからだ」
「御意」

冷めた茶を飲みながら一服し始めると、小十郎が急須を二つ手配した。

「ちょっと休憩時間にいい事を思い付いた。焔、お前、俺が留守の間に俺が敷いた官僚制を洗練させろ。徴税制度もだ」
「官僚制と徴税制度でございますか…。現時点では、政宗様が取られた策は完璧と存じます。天下統一後の会議からまだ2年でございますから、変えるにしても時期尚早でございます。官僚の育成の方が大事でございます。まずはせっかくでございますから、外務省の充実から始める手を考えております。政宗様が世界を短期間で掌握なさるのであれば、国賓が増えるのは明らかでございます。接待に必要な外交官の育成と人数を増やすのが最優先でございます。出来るとしたら効率の良い議事録の作成方法の指導でございます。事務次官を任命し、若手に保管用に詳細な議事録を書かせて、課長レベルに綱元様にご報告するまとめの報告書を作らせて、事務次官の確認後、綱元様に政策のご確認と差し戻しを頂き、政宗様のお許しを最終的に得る形に持って行きます。全てMacBook Airで行えば政宗様もiPhoneでご確認出来ます。それから、新大陸の開拓が始まりましたら、フロンティアの中から選抜で俺配下の忍を育成致したいと思います。11までが良い頃合いでございます。十分に仕込みましたら、政宗様の王の目王の耳と致しまして、ヨーロッパ大陸に派遣し、偵察を行わせます。ただし、その場合、俺は今の世界情勢をほとんど知らないので、まずは現在の世界地図を見せて頂きたいと存じます」
「わぁ、焔、すごいね!そこまで焔が代わりに考えてくれたら、私も楽だな!それ、全部賛成!焔なら忍の卵の子達に優しくしてくれるでしょう?」
「もちろんでございます。俺の主義は、あくまで褒めて伸ばすでございます。厳しくするのは誰でも出来ますから」
「わぁ、やっぱり思った通りだ!」
「分かった、焔。それなら俺も楽になる。その手で行け。今すぐお前に地図を見せたくなった。綱元、政務の部屋から世界地図を持って来い」
「はっ!すぐに戻ります。こんなに楽しい打ち合わせは初めてで、俺もわくわく致します。では、政宗様、失礼致します」

冷めた茶を一気に飲み干して、熱い茶を淹れてもらって少し啜ってタバコを吸い終わると、綱元が戻って来た。

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