革命のエチュード -1-

綱元は大急ぎで部屋に戻って来た。

「お待たせして申し訳ございません、政宗様」
「いや、構わねぇ。そんなに待ってねぇよ。焔、これが今の世界地図だ」

俺は焔の前に世界地図を広げた。
焔は何か考えるようにじっと地図を見つめている。

「政宗様、ヴァチカンの宗教会議ではどの宗派を呼び寄せるおつもりでございますか?」
「遙は全宗派のつもりらしい。俺は東教会までは呼ばなくてもいいと思う。ロシアが遠過ぎるし、将来的に共産圏のリーダーになるからキリスト教はあまり関係ねぇ。現在はモスクワ・ツァーリ帝国だな。第2代皇帝だ。俺の予想では共産主義が起こらなければ、ロシアは未来に渡ってロマノフ朝が栄える感じだと思うぜ。東教会の懐柔策はあるから、まずは西教会をまとめる必要があるな。今のツァーリの右腕は手強いしな」
「懐柔策でございますか。それがあるならば大丈夫そうです。東教会と西教会は古代ローマ時代に和解しておりますから。今は西教会について考えます。ヴァチカンの会議では、政宗様のおっしゃる通り、カトリック、ルター派、カルヴァン派、イギリス国教会で十分でございます。戦略と致しましてはアウグスブルクの宗教和議の後と考えられますので、最も過激なカルヴァン派を3宗派で結託して説得すれば間違いございません。まずはルター派から丸め込みましょう。カトリックに近いイギリス国教会の最高権力者であるエリザベス女王がリードして、緩衝材になる形で折り合いをつけましょう。ルターが翻訳した聖書は東教会の物でございます。ルター派の聖書第一主義と万人祭司説を強く支持しつつも、聖書の原点をアタナシウス派の三位一体説まで回帰させれば東教会を含めた全ての宗派に共通ですから、ルター派を懐柔出来るでしょう。そうすればまず三十年戦争が防げます。確認でございますが現在西暦何年でございますか?フロンティアの形成はその4つの宗派の合同でございますね?」
「ああ、そうだ。現在、西暦1584年だ。俺も流石にルター派の原典が東教会とは知らなかったぜ。お前は本当に頼りになるな。確かにアウグスブルクの宗教和議の後だ。よし、その手で行く」
「かしこまりました。確かに時代の前後がございますね。では、ビザンツ帝国の影響が強い東ヨーロッパまで新しい聖書を取り入れさせるよう誘導致しましょう。聖書を各国対応の口語訳にして、活版印刷で大量発行するだけで事は運びます。ルターが取った、核心を突いた方法です。正直、思っていたよりも世界が広く、忍隊の規模が小さ過ぎます。ユーラシア大陸、アラブ、アフリカ大陸に渡る国々と交流し、商人に混ぜて忍を派遣し、現地の人々を懐柔して配下の忍に置く必要がございます。簡単に言えば、それぞれの王国の王と政宗様との交流が最も効果的でございます。それならば怪しまれずに忍を派遣出来ます。南アメリカはフロンティアから得た忍で偵察出来ます。スペインとポルトガルが支配しておりますから」
「焔、すごいね!知識を願って本当に良かった!頼もしいよ!!」
「やるな、焔!頼もしいぜ!全ての王国と交流する手はもう考えてあるから安心しろ。美紀がヒントをくれた」
「美紀様が!?それは大変素晴らしい事でございます。流石でございます」
「えー!?私は何も詳しい事は言ってないよ?遙が私のヒントを掴んで、政宗が勝手に話を盛り上げたんだよ?過去かつてないほどのノリノリで」

確かに調子に乗っていた事を思い出して、俺は笑ってしまった。

「政宗様、この小十郎、政宗様の策が気になって仕方ありません。とても楽しそうでございます」
「俺も梵がそんなにノリノリになったの超気になる!」
「俺も世界の王族全てと交流する策など想像もつきません。政宗様の策が気になって仕方ありません」
「お前ぇら、順番に話すから、待ってろ。今は焔と練れる策を優先させる。出陣まであまり時間がねぇからな」
「承知」
「仕方ねぇな、okay」

俺は焔と練れる策について優先順位を付けた。
どう考えてもヴァチカンの宗教会議を乗り切らない事には、前には進まない。

「カルヴァン派を抑えて統一な聖書を作るのはお前も知ってるな?そのための策を練ろ」
「えー?政宗、私にもう作戦はあるよ?」
「だったら、今すぐ話せ」
「ヤダ!当日までの秘密にしたいから。政宗に読ませる参考文献だけ焔と相談したいな。その方が政宗、きっと楽しいよ?爆笑するよ?お楽しみがなくなっちゃうよ?それでもいいの?」
「いや、それは良くねぇな。お楽しみなら取っておかなきゃな。せっかくなら爆笑したい。参考文献について焔と相談しろ。それを聞いてわくわくする」
「分かった。じゃあ、焔にだけ分かる、カルヴァン派の厳しい戒律の話をするね。それを暴露してカルヴァンを絶句させるのが目的なんだ。アメリカの東海岸の一部でいまだに州の法律になってる、前時代的な信じられない法律の事。それを突き付けたら、政宗もエリザベス女王も爆笑するよ?そんな法律」

焔は3秒ほど考えて、爆笑をした。
続いて美紀も爆笑し始めた。
俺には全然分からねぇが、こんなに笑えると思うとわくわくする。

「あははっ!遙、それすごい突破法だね!それは政宗、大爆笑だよ?私も超見たい!」
「でしょう?」
「遙様、それは流石のこの焔でも笑わされました。ははっ!絶対に政宗様なら大爆笑をなさり、遙様の口を塞ぎにかかるでしょう。しかし、政宗様、あくまでも遙様の自由にさせて下さいませ。そうすれば会議は必ず成功致します」
「俺が遙の口を塞ぎにかかる…?その上大爆笑?全然想像つかねぇ。だが、会議の成功がかかってるなら仕方ねぇな。口は塞がねぇよ。お前ぇらがそんなに爆笑するから、俺もわくわくしてきた」
「それにしても、遙様。カルヴァンはこの時代に生きてるのでございますね?」
「うん、政宗が読ませてくれた文献に書いてあったから間違いないよ。スイスのジュネーブにいる」
「かしこまりました。しかし、その事実を突きつけただけでは、何の解決にもなりません。政宗様をどう誘導なさるおつもりですか?」
「流石、焔、話が早い。焔が考えるカルヴァン派の最大の影響って何だと思う?」
「そうですね。一言で申し上げますと、帝国主義に走らせたきっかけであり、その結果、冷戦の構図まで走らせたという読みで間違いないと思います。全ては生きながらの火あぶりの処刑が発端でございます。あの過激な思想が、全世界を狂気に走らせたのでございます。あくまでも俺の解釈でございますが。あとは狩猟民族の性と農村地帯の貧富の差の拡大の影響もございますね」
「やっぱり焔もそう思う?だから、政宗が読む最初の文献は、世界史の資料集と教科書」
「その策には俺も同感でございます。流石は遙様でございます。政宗様は、遙様なりの解釈の世界史をご存知でございますか?」
「うん、半日もかからないでダイジェストで話したよ」
「ああ、遙と離れる直前の9日間で、遙は知りうる限りの帝王学を俺に教えてくれた。あれでマジで出来る女だって感心したぜ。ほとんど楽をして治世の策が練れた。世界史なんて本当に半日で網羅したからびっくりしたぜ。解説を聞いてから教科書を速読したら、2時間で読み終わって暗記だ。大した女だぜ。それから毎日教科書を速読して、忘れないように資料集だけもらった。あれで惚れ直したし、ますます離れたくなくなったな」
「左様でございましたか。誠に素晴らしいですね。この焔も遙様を見習った教育を施して参る所存。政宗様は全てを遙様に託し、エリザベス女王と共に遙様の策に全力で乗っかってカルヴァンを翻弄すれば、間違いなく会議は上手く行きます」
「分かった。つまりは、俺が異世界の未来に行った事をバラすという事だな?」
「流石は政宗様でございます。その通りでございます」
「Okay!」
「タイミングは全て遙様にお任せでございます。では、遙様、新しい聖書はどのようにお作りになるのでございますか?聖書はとても長く、1日ではとても終わらず、全ての章の聖書作りに付き合うのは大変非効率的でございます。政宗様と遙様がずっと張り付いている必要など、全くございません」
「うん、焔、その通りだよ。だから、1つの福音書を解説しながら作るのを見届けて、使徒行伝の解説をして、すっ飛ばしてヨハネの黙示録の解説をすれば、短くて済むでしょう?この作戦なら、下手したら半日で終わって、ローマ法皇のコレクションを眺めながら、ローマを散策して遊べるよ?1日かかっても、翌日からずっと遊べる。政宗には1つの福音書を読んでもらって、残りの3つの福音書の名前だけ覚えてもらって、使徒行伝とヨハネの黙示録はwikiだけ読んでもらう」
「遙、やるね!福音書は確かに1つでいいし、使徒行伝とヨハネの黙示録のコンセプトだけ分かってれば十分だ」
「遙様と美紀様のおっしゃる通りでございますね。福音書は簡単に言うとイエス・キリストの生涯を書いたストーリーで、キリスト教の基本でございますから。では、福音書はルカによる福音書をお選びになってはいかがでございましょう?ルカによる福音書はキリスト教初心者向けの福音書でございます。後は遙様のお考え通りで間違いございません。キリストの弟子達に触発された使徒達、ヨハネとパウロの記録が使徒行伝でございます。ルカによる福音書とペアでございますね。それから、キリスト教徒を恐怖で縛り付ける究極の預言、ヨハネの黙示録でございますね。その選択で間違いございません。旧約聖書につきましては、モーセ五書を読めば充分でございます。究極的に言えば、失楽園までの創世記、創世記のノアの方舟、続くバベルの塔、出エジプト記は十戒の授与までを押さえればユダヤ教の本質に迫り、キリスト教が戒律による教えのユダヤ教が時代背景にあると言うお話が出来ます」
「焔、お前、マジですげぇな!遙も美紀もついて行ってるのがマジでやべぇ!よし、これで会議の道筋は見えたから、次の話題だ。ちょっと茶を飲ませてくれ。休憩だ」
「もちろんでございます。政宗様、どうぞお休み下さいませ。遙様も美紀様も」
「うん!」

熱い煎茶を飲むと、更に気分が良くなった。

「梵も遙ちゃん達もマジでやべぇな!梵のアジア政策が上手く行ってる理由がようやく分かったぜ」
「だろ?」

俺はタバコに火を点けてゆっくりと吸い始めた。
ざっと頭の中のばらばらの考えをまとめる。
最後にF1とヴィクトリアシークレットの話をしないと、日比谷公園周辺の開拓が出来ない。
遙がインドネシアについて分からなかったから、焔に説明をする必要がある。
それから、遙が憲法について話していたから、焔に憲法の相談だ。
遙から政治経済について習った時に、どうしても法律でつまずいた。
甲州法度次第が引き起こした信玄の悲劇を考えると、法律制定の実行には移せなかったし、そもそも俺は分国法を尊重している。
条例なんかよりずっと重みがある。
民衆の時代じゃねぇから、国会もお預けだ。
とりあえず、タバコを吸い終わったら、焔に相談だ。
俺は考えがまとまったので、ゆっくりとタバコをふかして熱い茶を楽しんだ。

「政宗が選ぶ飲み物と食べ物は何でも美味しいね!幸せだな!」
「そうか?お前と好みが似ているだけだと思うぜ?」
「政宗も切り替え早いね!さっきまで深刻だったのにもうリラックスしてる」
「ちゃんと息抜きしねぇとやってらんねぇからな!お前もリラックスしてるぜ?似た者夫婦だ」
「お前ぇら、本当にラブラブだな。早くディズニーランド行こうぜ?クリスマスシーズンだろ?登勢はまだ動けねぇし、美紀ちゃんも猿飛がいねぇから、俺、美紀ちゃんとペアで付き合ってやるからさ!なぁ、美紀ちゃん、いいだろ?」
「うん、成実のノリ、好きだし、別に成実ならいいよ?遙と政宗の写真たくさん撮ってあげなきゃいけないからね。一緒にダブルデートしようよ」
「美紀ちゃん、いいノリしてんねー!ローマ出陣前にみんなでディズニーで遊ぼうぜっ!」
「うん!」
「政宗様と成実は本当に仲が良いな。正直この小十郎はディズニーランドに行かなくても十分かと。野郎共と遊んで来て下さいませ」
「何だ、小十郎、お前行かねぇのか?俺は行きたいぜ。視察も兼ねてな。嫁と子供達を連れて行ったら絶対喜ぶ。お前も嫁と子供達とたまには遊んでやれよ。ただでさえ政宗様につきっきりなんだ。長曾我部様がこの2年ずっと政宗様と遊んで下さったから、お前も姫に恵まれただろう?嫡男も次男も姫も絶対に喜ぶから、お前はディズニーで嫁と遊べ。俺が付き合ってやる」
「はぁ、綱元にそこを突かれると、俺も弱ぇな。つくづく嫁に惚れた弱みだ。お前ぇが付き合ってくれるなら、俺も我慢してディズニーに行く。だから、お前ぇは俺と絶対にはぐれるんじゃねぇ」
「お前の嫁はまだ若ぇんだ。政宗様の1つ上だろ?まだまだ子に恵まれる。俺も嫁がまだ三十路だから、ディズニーで口説き落としてその気にさせるぜっ!誰にも邪魔はさせねぇ!あと3人は子供欲しいからな!」
「じゃあ、俺も負けてらんねぇな!四男くらいまでいねぇと、政宗様のお世継ぎ達をお守り出来ねぇからな!その喧嘩、俺は買ってやるぜっ!」
「そうだ、その調子だ、小十郎。お前も頑張れよっ!」
「わぁい!綱元が小十郎を説得してくれた!小十郎もディズニーランド行ってくれるんだ!みんなでクリスマスツリーを見てアンバサダーにお泊りしよう?」
「遙、お前、良かったな!俺も小十郎がその気になってくれて超嬉しいぜっ!流石は綱元だ!小十郎を焚き付けられるのは綱元だけだ!綱元を今日呼んでマジで良かったぜっ!」
「うん!政宗、綱元の位は?」
「小十郎と同じ三位中将だ。正確に言うと、2人とも大納言だ。後鳥羽上皇の時代は6人も大納言がいたくらいだから、複数人いるのが通常だ。ギリギリ公卿の位だな。小十郎が一の大納言で一番権力を持ってる。他の大納言達は公家共だな。あんまり伊達が官職を独占すると平家物語みたいで嫌な予感がするからな」
「そうなんだ!政宗、流石だね!じゃあ、みんなで参内出来るね!」
「いや、江戸を空けるのが長過ぎるからな。綱元には江戸に残ってもらうしかねぇな。小十郎がいるから大丈夫だ。大納言が1人欠けてもお前の養女縁組に何の問題もねぇ」
「そっか。私が色々提案しちゃったからか」
「まあ、それもあるけど、俺だって京なんて好き好んで行く訳じゃねぇから、長曾我部と遊びでもしねぇとやってらんねぇよ。だから、いずれにせよ、綱元は置いて行くつもりだった。お前のせいじゃねぇよ」
「だったら良かった」
「こんな小十郎新鮮で超楽しい!綱元マジで東山紀之に似てるのにもっとイケメンで超ノリがいいね!みんなでディズニー行けるのマジで嬉しい!プレゼンした甲斐があった!」

そんな事をみんなでわいわいと話しているうちにタバコが短くなったので、俺は火を消して、熱い茶を飲み干したら満足した。
気を利かせて小十郎が茶を足してくれる。
そろそろ次の話題に移ってもいい気分になった。

「よし、焔、息抜き出来たから次の話題だ」
「政宗様、相変わらず政宗様と伊達三傑は仲がよろしいですね。偵察の時、笑わないようにするのが大変でございました。切り替えの早さもよく存じておりますよ。次の話題とは何でございましょう?」
「遙が憲法を作りたがっているから知恵を借りたい。遙、焔にお前がアメリカの独立を防ぐために取った策を教えてやれ」
「うん」

遙はキリッとした表情になり、俺に教えてくれた通りの策を焔に伝えた。
焔は感心したような表情でじっと聞いていた。

「なるほど、鮮やかな読みでございますね。民衆の心の動きをよくご存知でございます。しかしながら、遙様。このままでは民衆は満足しきって王権が続きます。遙様ならば、産業革命と共に労働基準法を徹底し、そのための労働基準監督署を設置するはずでございます。民衆の暴走は確かに防げますが。また、他国に技術を盗まれないために、秘密裏に産業革命を起こすので、鉄道は走りませんね。産業革命以降の科学の進歩が心配でございます。人口爆発による貧富の差の拡大も、所得税や住民税の税率の調整で乗り切るはずでございます。民主主義の機運が高まるかも危ういかと存じます。クリーンな発電は実現されるとは思いますが」
「はぁ、焔、流石だね。その読みは正しいし、確かに夢の中でも指摘された。ハングリー精神が生まれないって」
「俺も焔の意見に賛成だ。だが、一方で遙の取る策もよく理解出来る。焔、お前はどこまで俺達の策を知っている?」
「政宗様が日本と大陸2つを民主主義の機運が高まるまで統治するという所まで存じております。フロンティアの下りは全て知っております。今なら完全に理解出来ます」
「分かった。じゃあ、その先の未来と、俺達の考えた策について教えてやるから、何かお前も策を練ろ」
「かしこまりました」

俺は、スクリーンに映っていた男が話した未来の問題と、俺達が考えた策について全て話をした。
成実と美紀がラクダのF1とファッションリーダーとCreeping Deathの所で大爆笑をした。
シェイクスピアのコーランでは、美紀は転げながら爆笑していた。
焔はじっと考え込んでいた。

「遙様、完全に理解をする事が出来ません。俺には芸術と音楽とファッションの知識はございますが、大学教授が網羅している訳ではございませんので、特に音楽について、ほとんど分かりません。かろうじてクラシックが分かる程度です。俺に全ての音楽と芸術とファッションの知識を願って下さいませ。政宗様、よろしいでしょうか?」
「ああ、焔、是非頼む。遙、願ってやれ」
「うん!」

遙はまた祈りを捧げて、焔の能力を願った。
途端に焔が笑い出した。

「政宗様、流石にユダヤ教の賛美歌のCreeping Deathは傑作でございます!宗教にまさかスラッシュメタルを取り入れるとはっ!!インペリテリなら旋律的にクラシックに通じるものがございますが、まさかのスラッシュメタル四天王でも最も力のあるメタリカでございますかっ!!過激過ぎて笑いが止まりませんっ!あははっ!!しかも、必ずや問題回避出来るだけに余計に笑えます!まさか政宗様直々にファッションリーダーになって清に辮髪を辞めさせるのも傑作でございますっ!確かに飴と鞭政策の予防にはなりますが、やり方が伊達男の政宗様らしくてっ!あははっ!」
「お前、そんなに笑うなっ!俺だって必死に考えたんだっ!」
「政宗様、焔がそのように笑うのは余程の事でございます。是非この小十郎もCreeping Deathについて知りたいと存じます」
「政宗様、俺もでございます。成実が大爆笑をし、あまつさえ、焔まで爆笑をしていると、気になって仕方ありません」
「仕方ねぇな。じゃあ、ユダヤ人の歴史とユダヤ教についてざっくり説明した後に、メタリカのCreeping Deathのライブを見せてやる。そうしたらお前ぇらも分かる」
「はっ!」
「とりあえず、Creeping Deathの舞台はユダヤ人の長い歴史の中で一番最初の苦難の出来事に基づいて書かれた歌だ。だから、そこだけ話すぜ。ユダヤ人は元々メソポタミアの辺りに生まれた。丁度オスマン・トルコの領土の西の辺境だ。始祖はアブラハムだったか。アブラハムに率いられてユダヤ人達はカナンの地に移住する。場所はパレスチナの辺りだな。それもオスマン・トルコ領土の中心付近だ。しばらくはそこで遊牧生活を送って幸せな日々を送っていた。やがて、エジプトに移住した時、エジプトの王、ファラオと言うが、ファラオの奴隷に民族ごとされて苦難の歴史を辿り始める。その時に現れるのが、預言者モーセだ。預言者ってのは神からの命令を受ける人間の事だ。ここからユダヤ教の話に移るぜ。モーセはスーパーな預言者だ。神の命令を受けてエジプトのユダヤ人達を救うんだ。ファラオはエジプトにいるユダヤ人の嫡男を皆殺しにするよう命じる。その時、モーセは全てのユダヤ人達を率いてエジプトを脱出して神に約束された安住の地、約束の地を目指す。海に阻まれた時は杖をかざして海を真っ二つに割る奇跡すら起こして、エジプトから脱出する。他にも奇跡はあるが省略だ。これが、出エジプトだ。やがてシナイに逃れ、神からの啓示、十戒を授けられる。長いから省略だ。これがユダヤ教の戒律の原点だ。しかし、モーセは40年彷徨ってもついに約束の地一歩手前で死に絶える。これがCreeping Deathの舞台だ。後は歌詞をよく聞き取って、ファラオへの怒りのDieコール、死にやがれコールを聞けば分かる。綱元は日本語訳をiPhoneで見ながら聞け」
「政宗、上手にまとめるね!聞き惚れちゃった」
「政宗様、大変面白い舞台でございますね。是非また流行らせて歌舞伎にして下さいませ」
「綱元、お前ぇ、家中に関しては石頭なくせにつくづくノリいいな。確かに政宗様からそんなお話もお伺いしたな」
「俺もよく覚えてるぜ、梵!海を真っ二つがかっこよかったからな!」
「遙、出エジプトまで政宗に教えてたんだ!うちの世界史の先生もノリ良かったなぁ」
「政宗様のご説明はほぼ完璧でございます」
「だろ?じゃあ、iPad出すのが面倒だから、美紀、お前がライブ動画をかけろ」
「オッケー!遙、どのライブがいい?」
「2009年のメキシコ。ライブ一発目がハイスピードのCreeping Deathだから」
「ラジャー!」

美紀はすぐに検索してライブ動画をみんなに見せた。
俺の知ってるCreeping Deathの1.5倍くらい速ぇ!
これはノレるぜっ!
ラーズが立ったままドラムを叩いている!
やべぇ、このライブ超気に入った!
成実もノリノリだ!
そして、待望のDieコールでは拳を振り上げて観客とノリノリになりながらDieコールをした。

焔と小十郎以外の全員のDieコールでテンションが上がる。
しかもメタリカがなかなか歌い出さなくて焦らされる。
これはいい演出だ!
思う存分Dieコールが出来る!
前に見たモスクワライブより断然いい!
オーストラリアで絶対やりたい!
そして、待望の歌が始まって、ラストまでノリノリで縦ノリをした。
超気持ち良かった。

「やっべぇ、梵!俺、さっき大爆笑したけど、この賛美歌がいい!俺、ドラムをハイスピードで叩くっ!今ので完コピしたぜっ!」
「だろ!?やっぱお前は俺の従兄弟だぜっ!流石は成実だっ!早くリハーサルやりてぇな!」
「お前、せっかくなら元親にベースやらせろよっ!小十郎、全然ノってなかったからな。元親ならノリノリになるぜっ!」
「ああ、分かってる。俺も長曾我部にやらせるつもりだからな。それについては後で話してやる」
「また焦らしプレイかよっ!まあ、いいぜ。お前がそうやって焦らす時は必ず面白い演出の時だからな!」
「よく分かってんじゃねぇか!楽しみにしてろよっ!」

手を伸ばして成実とタッチを交わすと、残り全員が笑い出して我に返った。
遙はくすくすと笑いながら悪戯っぽい笑顔で話し始めた。

「政宗、私、超いい事思いついちゃった!Creeping Deathの後、マイケルジャクソンのMan in the mirrorと駄目押しのHeal the worldを歌おう?自分を省みる気持ちにさせて他人に優しくする歌と、世界平和の歌だよ?最高の礼拝になるでしょう?」
「お前、やるなーーー!その展開、俺も超気に入った!賛美歌はその3曲だな!」
「遙がマイケルジャクソン選んでくれて、私、超嬉しい!私、キーボード弾く!私達の友情が深まった思い出のアーティストだもんね!」
「ふふっ、そうだったね」
「遙、俺、その話、知らねぇぞ?お前ぇらの友情のエピソードならいくらでも聞きたいぜ。よし、美紀、お前が話せ。大量のメタルとハードロックの中にブラックミュージックやらポップやらが混じっていたのはお前のせいだったのか。まとまりがねぇiTunesだったぜ。俺もびっくりした」
「うん、いいよ。親がさ、マイケルジャクソン大好きだったんだよね。青春時代がずっとマイケルジャクソン絶頂期でさ。兄貴も好きだったし、当然私も好きだったの。小学生にして毎日マイケルジャクソン聞いて、ラップまで完コピするくらい好きだったの。丁度マイケルジャクソンのHistoryの時期だったから、何とかチケット取って家族と4回もライブ行っちゃったくらい。ムーンウォークまで出来るくらいにさ。でも、中学入ってみたら、何かマイケルジャクソンはスキャンダラスだとか男同士のショタコンだとか歌い方が汚いとか、けなしてくる集団がいたの!私、超ショックですごく傷付いたら、面白がって毎日マイケルジャクソンをけなされていじめられたの。悲しくて毎日辛くてたまらなかった。私、中途半端に成績良かったから妬まれてたの。遙みたいにスーパー頭良かったら誰も手出し出来なかっただろうけど、中途半端だと妬まれやすいでしょ?そいつら私に張り合えないくせに張り合ってたからいじめの標的になった。でも、うちの学校、基本的にみんな明るいから、落ち込んだ私を見かねた友達が、外に連れ出してくれてそいつらから隔離してくれたの。その子は学年でもスーパー頭良くて、やっぱ東大入ったよ。その子が私を守るために集めてくれた子達もみんな東大か医学部。その子に影響されて私も東大に入ったよ。いじめてたやつらは遠く離れたレベルの大学入ってせいせいしたよ。でもトラウマは消えなかったなぁ。遙と仲良くなりたての頃さ、遙はメタルばかり聞いてるのも知ってたし、何せ大学祭で女の子にきゃあきゃあ言われるくらいのメタルのギターのスターだったからさ、私もマイケルジャクソン好きって言えなかったんだけど、遙から一番好きなアーティストって誰?って聞いてくれて、勇気出してマイケルジャクソンって言ったんだよね。絶対に遙は受け入れないって思ってたんだけど、よく知らないから、一番好きな歌聞かせて?って言ってくれて、私、超舞い上がって、一曲に絞れなかったから、色々力説しながらマイケルジャクソンの曲をかけまくったら、遙が泣き出してびっくりしたんだよね。私、何か泣かせる事、した!?って思ってさ。でね、よくよく聞いたら、歌詞に感動して泣いちゃったって言ってくれて、私も嬉しくて泣いちゃった。それがMan in the mirrorとHeal the worldだったんだよ。私もよくよく歌詞を聞き取り直したら何か本当に泣けて来て、遙と抱き合って泣いた。その時にトラウマが完全に消えたな。泣き止んだ遙が、何度か聞き直してすぐに歌詞を完コピして歌ってくれて、私も一緒に歌ったよ。それから私は遙に何でも言えるようになったし、遙の事を一生守る親友でいようって決意したの。それが遙と私のマイケルジャクソンの絆同盟だよ」

まるで、俺とエリザベスのシェイクスピアの絆みたいだ。
それに、とても遙らしい。
何せ、悲しくても嬉しくてもすぐに泣くから。
すげぇ心温まる話だ。
今までで最高のエピソードかも知れねぇ。

「すっげぇ、遙と美紀らしいな!それ、俺の一番お気に入りのエピソードになるぜ。そのマイケルジャクソンをけなした女共は、俺がしばき倒してぇな!むしろ言葉でいじめ倒してやるぜっ!あんなにすげぇアーティスト、そうそういねぇぞ?ダンスも歌もピカイチだ!」
「政宗もそう思ってくれるの!?マジで嬉しい!遙を政宗にあげて本当に良かった!」
「政宗様、とても心温まるお話でございます。この小十郎も大変マイケルジャクソンに興味が出て参りました。是非お聞かせ願えないでしょうか?」
「そうだな、小十郎、俺も興味があるぜ。世界平和だろ?遙様が泣くほどだろう?余程感動出来るはずだ」
「梵!俺も梵がそこまで絶賛するなら、超聞きたい!」
「遙様と美紀様らしいですね。確かにあれは名曲でございます。それで友情の絆を深められたとは誠に素晴らしい。流石は我々の敬愛する主でございます」
「よし、俺もノリノリになったから、Man in the mirrorとHeal the world、2曲立て続けで聞くぜっ!おい、美紀、かけろ」
「うん!じゃあ、アルバム版の方が好きだから、それをかけるね」

美紀はMan in the mirrorをかけ始めた。

prev next
しおりを挟む
top