焔は電卓にアプリを切り替えると、素早く計算して微笑んだ。
「穴の大きさを直径1メートルの半球で培養土の比重が1.7と仮定致しますと、穴の中の土は約0.45トンで、得られる硝石は約4.5kgでございますね。せっかくですから培養土中に飽和状態に多く溶け出した硝石の成分も抽出して、結晶化させましょう。培養土にたっぷり水を加えて数分間煮詰めて、粗熱を取った後にしっかりと綿などの布で絞って漉して、得られた上澄み液を、氷室か乾燥した冬場の屋外にて10℃程度まで冷やせば、最大で合計約12.5kgまで硝石の結晶が得られる見積もりでございますね。もし、1000件の民家で一斉に硝石を作れば、全部で約12.5トンの硝石が得られるというお見積もりでございます」
不思議そうな顔をしている小十郎達に、俺と遙が単位の換算の話をすると、綱元は声を上げて目を大きく見開いた。
遙が怪訝そうに首を傾げた。
「綱元、どうしたの?」
「いえ、今の農民と屯田兵を合わせた人口を考慮致しますと、これは驚くべき数になると思いまして!!換算に不慣れで困っております…」
「今の農業人口は全国でどれくらい?」
「現在、全国で約2700万人でございます。ひと家族平均的に6人の計算で農家は少なくとも約450万戸でございます。もし仮に屯田兵も含めた全農家が養蚕をし、硝石を作れば、5年後に得られる硝石の量は、12.5kg×450万の計算になります。トンの単位の換算が分かりませんが」
「綱元様、俺が代わりに計算致します。5万6250トンでございますね。トンはキロの千倍です。これは、8万4375トンの火薬が作れる硝石の生産高でございます。遙様と美紀様に分かりやすくご説明致しますと、9gの弾丸1つ打つのに必要な火薬の量は3gでございますから、8万4375トンの火薬では、281億2500万発の弾丸が打てる計算でございます。戦での殺傷力的には、現在の銃の精度的に1人殺傷するのに30発の銃弾が必要との想定で、9億3750万人分の殺傷力の硝石の量でございます。現在の日本の人口をはるかに上回りますね。川の広さ的に打ち上げるのが困難ではございますが、800メートルの大きさの花火が打ち上がる4尺玉では400kgの火薬を使うので、21万937発分の4尺玉花火の火薬量に相当致します。相当な数の大玉花火でございますね。湖上や海上の安定した大きな船上や、水上の小島でしか打ち上げられない大きさの花火でございます。遙様の世界では危険性の問題から、花火の玉の大きさに関わらず、使用出来る火薬の上限が80kgと法律で制定されておりますから、実際には打ち上げられる花火の数は少なくとも5倍の1054万4685発でございますね。大変な数の花火と硝石の量でございます。しかし、この火薬は黒色火薬で海上防衛での大砲に使うには、大砲の精度に問題が生じるので不向きでございます。大砲向きの無煙火薬につきましては、また別の機会にお話致しましょう。無煙火薬により、大砲の威力と精度が上がります。海上及び陸上防衛には無煙火薬を利用致しましょう」
俺は驚きのあまりテンションMAXになった。
遙と美紀は絶句して驚いている。
こうなったら、絹も完全自給自足だ!!
「マジか!?少なくとも5万6250トンってのはそんなにやべぇレベルなのか!!そんなにデカい花火がそんなにたくさん作れるなんて思いもしなかったぜっ!!マジでやべぇレベルだぜっ!!もっと火薬作って花火大会やりまくりてぇな!!防衛力だってそれだけあれば銃であれば十分だ!!絶対に養蚕は推奨だっ!!まだ日本は絹を明からの輸入に一部頼ってるから尚更だ。高級な絹のみだけどな。焔、最上級の絹の生産法は?」
「繭から取れるそのままの生糸は化学染料に非常に向きますが、現在の草木染めでは練糸と呼ばれる絹の方がよく染まりますね。練糸は光沢が芳醇で柔らかく、最上級の絹糸でございます。明からの輸入の物がこれに当たります。練糸は生糸に藁のアクを加えて精製する事で得られます。生糸よりも虫に強く、現在の染めに向いている上等な絹でございます。灰汁練りという方法を使って精製致します。政宗様、灰汁練りの細かな方法は、後ほど綱元様にお知らせするのでよろしいでしょうか?」
「藁なんかでそんなすげぇ事が出来るのかよ!?是非、後で綱元に伝えてくれ。養蚕と灰汁練りは、絶対に全農家でやらなきゃならねぇな!!硝石と最上級の絹の完全自給自足と絹の大量輸出に向けてな!!農民から伊達が直接買い取ってやる!!農民もこれで懐が豊かになるな!!農民達もこれで色々な物が買えるようになるな!明には絶対負けないぜっ!!俺は絹の輸出でも明を超えてやるっ!!海のシルクロードを俺が作ってやる!!何ならヨーロッパにもシルクの輸出だっ!!イギリスが香辛料を輸入しなくなるなら、代わりに火薬と絹を輸出してやるぜっ!!」
「流石でございますね、政宗様っ!!手配は全てこの綱元にお任せ下さいませっ!!」
「すげぇな、梵!!これでお前は世界最強だっ!!世界の伊達政宗だぜっ!!」
俺と綱元と成実はガッツポーズをした。
硝石と最上級の絹の大量生産に、俺は大興奮だ!!
5年ごとに5万6250トンの硝石が手に入る!
医療と農業革命で人口が増えたらもっと伊達の屯田兵も、硝石も絹も手に入る!
最早、感動の嵐でしかねぇっ!!
「綱元、人口が増えたら、更なる屯田兵の展開と開墾だっ!!硝石と明のクオリティを超える絹を大量生産してやるぜっ!!何なら囲炉裏端の穴の数を2つにさせろ。それで11万2500トンの硝石の生産だ!!余裕で毎年芸術花火大会が出来るぜ!!」
「承知!!伊達の力がますます強化されますね!!」
「こうなったら数年以内に今の2倍の200万人規模の常備軍だぜっ!!もっと農民に兵法と武器を与えて俺の配下に置けっ!!」
「お任せ下さい、政宗様っ!!」
俺と綱元が盛り上がると、遙と美紀は感心しきったように、俺と焔と綱元を交互に見ていた。
俺は、次に下水道の話が詳しく聞きたくなった。
こういう勉強会なら大歓迎だ!
俺は芸術花火大会がやりたくてたまらねぇ!!
次は人口増加に向けて、国民衛兵のための下水道だ!
古代ローマのような下水道はどうやったら日本で可能なのか、皆目見当もつかない。
「なぁ、焔。日本で古代ローマみたいな下水道ってどうやって作るんだ?あんな材質、俺の時代の日本で見た事ねぇぞ?遙の世界ともなんか違う」
「左様でございますね。古代ローマのコンクリートは石灰石と火山岩を砕いた物と水を混ぜる事で生コンクリートが出来ます。簡単に言えばでございますが。江戸からは秩父の石灰石産地が一番近く、日本でも有数の規模で伊達領内でございますね。また、武田領内の草津で硫黄と火山岩がいくらでも手に入りますから、お館様のご協力さえ頂ければ火薬もコンクリートもいくらでも作れます。古代ローマで使われていた水道橋もそうして作られたコンクリートでございます。ギリシャ、イタリアは石灰石の産地でございますし、イタリアには火山がありますから。その技術を応用致しましたら、下水道の整備が可能でございます。その際、恒久的に使うのであれば、微生物に分解された汚水からの最終生成物である硫酸にコンクリートが腐食されないよう、十分な広さと厚みが必要でございます。雨水が下水に流入すれば汚水の濃度が下がりますから、硫酸の濃度を抑えられます。せっかくならオーストラリアの鉄鉱石から得られる鉄を使って、鉄筋コンクリートに致しましょう。その方が丈夫で地震にも強いです」
「焔、すごいね!考古学と科学の融合か!歩くGoogle先生だ!」
「焔、お前、すげぇな!信玄とすぐに交渉するぜ。美紀も何かアイディアあるか?」
そわそわとしている美紀を促すと、挙手をして答えた。
「私もある!日本史を思い出してた。足尾銅山事件を防ぐために公害対策の徹底ね!赤潮対策もだ」
「美紀様も流石でございます。開発と同時に公害対策と赤潮対策も展開させて行きます」
「流石だ、美紀。焔、伊達領内の足尾銅山は貨幣鋳造に使っているから早急に対策してくれ。他には何かあるか?」
遙、美紀、焔を見やると、焔が頷いた。
「政宗様、人手が足りませんので、この焔が得た知識を全ての俺配下の全ての忍達に願って下さいませ。政宗様のお言付けは俺配下の忍達に任せます。国内政策は俺配下の忍達に全てお任せ下さいませ。政宗様の医師団の忍達の力で新大陸でも農業の展開が可能になり、原住民達とも上手くやって行けます。遙様は若草にならば、言付けやすいはずでございます。美紀様のためにも、あえて佐助様には今のままでいて頂きます。それから、農業革命は2大陸とニュージーランドで同時に起こして参りましょう。アメリカ大陸ではカリフォルニア、オーストラリア大陸ではビクトリアとニューサウスウェルズでございます。エリザベス女王にニュージーランドのオタゴはお任せ致しましょう。カリフォルニア、ビクトリア、ニューサウスウェルズは全て伊達直轄地でございます。そのための技術者の人数分を同じ知識で黒脛組に願って下さいませ」
「なるほどな。それはいい考えだ。お前には言付け過ぎたし、お前の知恵がまだ必要だから、お前にはまだ控えていて欲しい。アメリカ大陸とオーストラリア大陸に派遣する黒脛組の人数は350人ほどだ。イージス艦1隻分だ。アメリカでの稲作に関しては、長曾我部の空母1隻と屯田兵を借りるしかねぇな。俺の手持ちの空母が減るからな。俺が長曾我部軍とその家族の全ての言語能力を願う。だから、遙、お前はイージス艦1隻分の黒脛組と猿飛の忍隊に焔と同じ能力を願ってくれ。それから最新の採掘の道具と金属探知機を鉱山の規模分、それぞれの本拠地に願え」
「うん!」
俺と遙は祈りをしばらく捧げていたが、祈り終わった。
「政宗、大丈夫だよ」
「俺もだ。遙、よくやった。遙、美紀、他には何かあるか?」
「政宗、アメリカの首都はニューヨークなのと、オーストラリアの首都はシドニーに変更ね。ワシントンD.C.とキャンベラは海から遠過ぎる。エリザベス女王に大西洋を掌握を任せて、政宗が太平洋を掌握すれば効率がいいよ。イギリスも日本もそれぞれの海に面しているから。これで4つの海が同時に制覇出来る。エリザベス女王にニューヨークに拠点を置いてもらって、政宗がシドニーに拠点を置けば、南北で一気に開拓して行けるよ。そうしたら、地理的歴史は首都しか変わらない。稲作の普及状況もほぼ同じだ」
「遙様、流石でございます!その策にはこの焔も賛成致します。確かにワシントンD.C.とキャンベラは海からのアクセスが悪く、未来にてニューヨークとシドニーの方が発展しております」
「俺も賛成だ、遙。流石にオーストラリアの首都は知らなかったぜ。他にはあるか?」
遙はそこで少し悲しげな表情になって言いにくそうに呟いた。
「甲斐で疱瘡の村で、鶏の数がとても少なくて栄養確保にすごく苦労したから、地鶏の養鶏を大規模に全ての農業地帯で展開して行きたいな。みんなに卵が行き渡るね。みんなタンパク質に関しては貧しい生活してたから。何なら黒毛和牛も全国的に広めて行ってもいい。アメリカもオーストラリアもだ。アメリカ牛とオーストラリア牛を日本は主に輸入するようになるから、どうせなら質のいい物がいいな。魚と肉と野菜をバランス良く食べれば健康的だし、鶏の屠殺頻度を減らせる。豚肉もそろそろ導入しても大丈夫かな。貴重なビタミンB群の供給源だ。完全に火を通す事を瓦版で周知すれば良い。畜産は全然分からないな。焔、どうすればいい?」
悲しそうに話し始めた遙に、焔は優しく微笑んで話しかけた。
「遙様は本当にお優しいですね。甲斐の貧しい民の事を思い出していらっしゃるのでございますね。卵の大量生産ですか、それは全く良き考えでございますね!卵はタンパク源の中でも最も優れた動物性タンパク源ですから。しかも地鶏であれば鶏のストレスになりませんね。では俺の考えられる最善の策をお話致しましょう」
痛ましげな表情で話していた焔はそこで言葉を切り、悪戯っぽく微笑んだ。
何かすげぇ政策が聞けそうでわくわくする。
小十郎達も身を乗り出すように焔を見つめた。
焔はみなを見回して、軽く頷いて話し始めた。
「まずは餌を全て有機的な材料で構成すれば味が良くなりますし、卵が長持ち致しますから商業にも最適でございます。この時代でも実現可能でございます。飼育数と致しましては、それぞれの民家でひと家族分の2倍少しのメスの地鶏と適度な数のオスの地鶏を飼育すれば、農民達も1人当たり毎日1つか2つは最低でも卵が食べられます。食べない分は、孵化させれば地鶏が増えますね。十分に卵が行き渡って余り、鶏が増えすぎるようならば、メスとオスの鶏を食べ頃に屠殺し鶏肉とすれば良いのでございます。これで卵と鶏肉が確保出来ます。飼料は殆ど農業改革の原料と共有出来ます。牡蠣殻、米ぬか、大麦、小麦とその殻、乾燥させた魚の粉、木酢液、海藻の粉末、木炭の粉末、乾燥させたおから、蟹殻、硬度の高い綺麗な水の以上でございます。全て伊達領内で入手可能です。米ぬかは熟成の必要はありません。伊達領内で最も硬度が高い綺麗な水は、龍泉洞の水でございます。鶏の飼料も伊達専売とすれば良いのでございます。ブレンド配合はお任せ下さい。木酢液は害のない殺虫剤になりますから、手広く生産すべきでございます。伊達領内に工場を作り、これも専売に致しましょう。因みに田の除草には合鴨が最適でございます。食べ頃に屠殺し、食用とすれば無駄がございません。栄養過多で脂肪肝気味なので合鴨のフォアグラが楽しめます。おからと蟹殻は廃物利用になりますね。蟹殻につきましては、日本海側の伊達領内でも手に入りますが、是非、前田、上杉領内からも回収すべきでございます。蟹の名産地でございますから。旬の今のうちから春まで集めましょう。龍泉洞の水は雨が入らないような屋根のついた水飲み場を作りましょう。エサ場も同じですね。鶏が隠れられる十分な大きさの屋根も建設でございます。良い日陰になります。龍泉洞からは焼酎で消毒した樽で運べば龍泉洞の水は傷みません。何なら手っ取り早く消毒用のエタノールを願って下さいませ。城内でも大規模な養鶏を行います。大規模な町の郊外では広く囲い込んで地鶏の養鶏をし、それによって日本の人口分の鶏数と卵がカバー出来ます。羊よりは小規模でございますが、日本版エンクロージャーでございます。羊よりは小さな囲いをいくつも作りましょう。鶏肉の確保の仕方は農村と同じでございます。これで地鶏の卵と鶏肉が自給自足出来ます」
俺はあまりにすげぇ政策に驚いて息を呑んだ。
遙も目を大きく見開いた。
「え!?まさか日本でエンクロージャーやるとは思わなかったよっ!!」
「焔、お前、やるなーーー!!まさか日本でエンクロージャーをやるとは思わなかったぜ!その専売には俺も賛成だ。そうか、木酢液で殺虫剤になるのか。そう言えば、渋谷の東急ハンズの園芸コーナーで見たな。だから聞いた事があるのか。俺の時代にはまだねぇな…。この7年間、聞いた事ねぇぞ」
「政宗、よく覚えてるね。小十郎が野菜作りが好きだから、政宗、熱心に肥料とか殺虫剤とか見てたんだね?」
「ああ、そうだ。お前とのデートは全部なるべく忘れねぇように頑張ったからな!春日山城の戦から帰ってからすぐに詳しい日記まで書いた。だから歌まで詳細に覚えている。歌詞まで別冊で日記に書いたからな。祝言の後のハネムーン用の買い物で、渋谷の東急ハンズに寄ったから尚更覚えてるぜ。あそこはすげぇ楽しかったからな!全部の品物が欲しかったぜ!肥料と木酢液は流石に重いから持って帰るのを諦めた」
俺と遙が驚いて声を上げると、焔は更に笑みを深めた。
小十郎が顔色を変えて真剣な顔で聞いている。
「左様でございますか。木酢液の発明は19世紀でございます。木酢液の原液では強過ぎますので500倍で希釈して使います。この濃度が作物の育成も助け、害虫駆除になり、作物の病気の予防にもなりますし、その上、人体にもミミズにも無毒でございます。かなり薄めれば入浴剤になるほど安全です。遙様の世界では過去に動植物の遺伝子を傷付ける可能性ありとの事で、農薬としては禁じられておりますが、それは濃度や頻度や元となる植物の種類の選択の問題で、政宗様が東急ハンズでご覧になった通り、販売許可が出るほどに安全で実際に効果がございます。農薬としての販売が禁じられているだけでございます。濃度を変えれば、家畜の糞尿の肥料作りもスピードが上がりますね。その場合は、100倍希釈がよろしいですね」
「マジでか!?そんなに用途があるのか!!」
「そんな便利な殺虫剤があるのか!?病気も防げるなんて最高だ!!肥料作りにも使えるなんてますます最高だ!!是非、教えてくれ、焔!!作り方と使い方だ!!今すぐだっ!!」
小十郎が一気に身を乗り出した。
元々怖い顔がもっと怖いくらいに真剣だ。
焔はあくまでも柔らかい笑顔で続けた。
「原材料は木炭です。最高に適している炭は長曾我部様の備長炭でございます。伊達領内ではございませんが、長曾我部様ならば必ずやご協力下さるでしょう。日本最古の木炭の産地とも言えますね。鶏の飼料にも備長炭が最適でございます。長曾我部様の特産品でございます。木炭を燃やす際に、湯気や煙が逃げないように密閉された容器から管を延ばして、別の冷えた容器に繋ぎ、そこで冷えた液体を採取致します。それを3ヶ月以上放置して熟成させた物が木酢液の原液でございます。原材料の植物にもよりますが、約200種類の有機成分が含まれており、作物の葉や根元に撒くだけで効果があります。頻度は14日間隔で十分です。それ以上では悪影響が出ます。収穫前は散布後14日以上経過している事をご確認下さい。葉に散布すると、光合成が盛んになります。要するに植物のエネルギー生産が盛んになるので作物の色艶が良くなり、旨味も増します。作物の育ち方も格段に良くなります。散布に霧吹きが必要ですね。忍の技術にございますが、遙様の世界の百均の霧吹きが優秀ですね。大型農園には噴霧器を使いましょう。全て遙様に願って頂きます。これが木酢液の作り方、使い方、効果でございます。追加で多くの害虫の駆除と作物の病原体の駆除の効果がございます」
「最高じゃねぇかーーーー!!!」
小十郎がガッツポーズをしながら城中に響く勢いで大絶叫をした。
こんな小十郎は初めてだ。
野菜作りに命をかけているだけの事はある。
何しろかかしのデザインが俺がモデルなくらいに、俺と野菜作り命だ。
「おい、焔。すぐに木酢液の生産に取りかかれ。それは完全に伊達の専売にして、使い方を厳しく指示しなきゃならねぇな。それこそ法律を作って管理をしろ。一歩間違うと危ねぇからな。もちろん農業革命の中に含めろ。いくら丹精込めて野菜を作っても、味を追求する限り、害虫の予防は絶対に出来ねぇ。虫が寄らねぇのは唐辛子とにんにくと根菜くらいだ。病気が流行ったら一網打尽だからな。こいつは肥料より大事な問題だ。肥料ももちろん大事だがな。農業政策は木酢液と窒素系有機肥料と合鴨の三本立てで行け。田の雑草抜きも重労働だからな。雑草抜きは大抵夏だし、田は水に浸かってるから、暑いし歩きにくい。これで農民や屯田兵の負担も減って、生産量が増えるだけじゃなくて、見た目も味も良くなるなんて、これ以上の策はねぇ!史上最高の策だっ!政宗様、いかがでございましょうか?」
小十郎の力説が熱烈でキレッキレだ。
ハイスピードな立て板に水な力説だ。
かつてないほどキレがいいくらいに筋が通っているし、飲み込みが早い。
すぐにゴリ押しの初法律が出来そうだ。
もはや卵の事をすっかり忘れている。
俺は思わず笑ってしまった。
遙も美紀も笑っている。
「小十郎、全くお前の言う通りだと思うぜ?そんなに希釈して使えるなら、武蔵に一つ木酢液作製の工場を作って、そばで鶏の飼料の作製工場も作るか。全部伊達専売でな。そこは厳重警備だな。警備のために堀でも掘らせるか。足りなかったら工場地帯の増設だ。江戸ぎりぎり郊外で大規模な鶏の柵をいくつも作って鶏を囲い込んで養鶏だ。囲い込むからエンクロージャーと言う。イギリスに羊のエンクロージャーがある。それがモデルだ。そこで養鶏の効果が見られたら、大名達に大規模なエンクロージャーによる養鶏を提案したらいい。同時に農村部で各民家での養鶏だな。小十郎、綱元、どう思う?」
「政宗様、流石でございます!是非、早急に工場地帯とエンクロージャーの建設をご許可下さいませっ!」
「小十郎が興奮するのもよく分かるぜ。これは確かに斬新で効果的な策だ。木酢液に関しては絶対に盗まれちゃならねぇ技術だからな!使い方によっちゃあ危険極まりねぇ。いっそ生産ごと東大管理下に置いた方がいいくらいだぜ。鶏の飼料くらいなら、エンクロージャーの柵のそばでもいいだろうけどな。東大が伊達の秘密基地ならそこに隠すくらいの機密情報だぜ」
「綱元、いい事、言うね!それなら伊達の兵士に警備させて、東大本郷キャンパスの道挟んで隣の弥生キャンパスが丁度農学部だし広いから、そこで木酢液の生産を一括管理したら安全だよ。あそこ広いから。手っ取り早く遙に願ってもらったら、遅くとも3ヶ月半後には木酢液が出来上がるよ?」
「綱元も美紀もやるなーーーー!!遙、手っ取り早く、木酢液の工場と百均のスプレーと噴霧器を弥生キャンパスに願え。薪で火を燃やす仕様にしろ。お前が教えてくれた小中の理科の実験と勝手は変わらねぇから、それの大型版だ。当分の薪と備長炭も願え。お前なら設計出来るだろ?エタノールは後回しだ」
「それでいいなら出来るよ?焔、合ってる?」
「一応、こちらの図を参考になさって下さいませ」
焔がiPadの図を見せると、遙は思案顔で見つめて質問をした。
「木炭1キロ当たり、どれくらいの木酢液が取れるの?」
「約250mlでございます」
「結構効率いいね!政宗、一度に20リットル作れる機械をとりあえず5機でいい?時期をずらしたローテーションで、安定して生産出来そうだよ。500倍希釈したら機械1機当たり、10キロリットル分の殺虫剤が作れるよ?百均のスプレー5万本分だよ?足りなかったらまた増設でいい?」
「そうか、そんなに効率がいいのか。それなら、全国の農家分の百均スプレー満タンの木酢液が作れたら理想的だな。単純計算で、450万戸の計算で90機だな。次々に木酢液を作れば量はこれで調整出来るはずだ。とにかく大量に備長炭を願え。ついでに東急ハンズで売ってた、家庭用の備長炭の木酢液の特大サイズを目の前に願ってくれ。小十郎が絶対に喜ぶぞ。正確な希釈用の道具と大きめのスプレーもだな」
「政宗様、誠でございますか!?是非木酢液を願って頂きたいと存じます!!」
「ふふっ!小十郎がそこまで喜ぶなら絶対に願わなきゃね。流石、政宗、計算が早い。じゃあ、結構大規模だけど、先に東大を整備してから、目の前に木酢液と希釈の道具とスプレーを願うね」
遙は目を閉じて祈りを捧げた。
10秒ほどして、小十郎の目の前に、45リットル入りの木酢液と1リットルの巨大ビーカーと少し大き目のスポイトとスプレーと木酢液の希釈液用の保存容器が現れた。
みなが、おおお、と声を上げる。
早速小十郎はパッケージに書いてある説明書を真剣に読み始めた。
綱元も成実も覗き込んでいる。
「政宗様、土壌改良にも使えると書いてございます!焔の肥料との合わせ技で相当良き土壌が作れそうでございます!これは相当な農業革命になります!早速、明日の朝から出来る範囲で畑で実験したいものでございます。遙様、誠にありがとう存じます!!」
「分かった。空母とイージス艦の食料積みは俺に任せておけ。何なら明日はやらなくても構わねぇ。1日くらいどうって事ねぇからな。俺も農業革命の方が圧倒的に大事だ。畑は誰よりもお前が詳しいからな。お前に任せた。成実も長曾我部もいるから軍備の事は心配すんな」
「政宗様、ありがとうございます!農業革命はこの小十郎と焔にお任せ下さいませ!!」
「ああ、頼んだぜ。後は、黒毛和牛と豚の飼料だな。これで畜産は完璧なはずだ。焔、合ってるか?」
「合っております。乳牛は当面は保留致しましょう。現在の飼育数で流通可能でございますから。しかし、牛や豚の食肉は大変慎重に飼育頭数をコントロールしないと、過剰飼育により世界的な穀物の食糧難を招きますので、それだけはお気を付け下さい。遙様ならお分かりになると思いますが、草食動物の食物連鎖のトップに牛や豚がいるからでございます」
遙はハッとしたように顔色を変えた。
「それは絶対に慎重にやらなきゃダメだ…。インディアンやアフリカ人から穀物を奪ってしまう…」
「左様でございます。ですから、アメリカにおいては西海岸から開拓しながらインディアンと仲良くなり、主成分であるトウモロコシと苗や種を分けてもらいます。開発した窒素系有機肥料を分け与えれば、喜んでたくさんトウモロコシ農場や種などを分けてくれるはずでございます。伊達領内でトウモロコシ生産に適しているのは常陸と下総でございます。他には武田領内の上野と信濃でございます。一番は蝦夷でございますが、アイヌと友好的に開拓出来るまで厳しいかと存じます。しかし、後々ロシアを牽制するために、樺太辺りまでは日本が押さえましょう。アメリカ大陸は世界一のトウモロコシ産地でございますね。あくまで民の食料を奪わない範囲であり、また家畜の飼料で畑の面積を奪われ過ぎないような、飼育計画が必要でございます」
「なるほどな、よく分かった。日本はただでさえ国土が狭いからな。野菜の種類を充実させながら、生産量を上げて飢饉を回避するのが最優先だ。牛一頭辺りどれくらいの穀物が必要だ?」
「人間10人分でございます。ちなみに豚は人間5人分でございます」
「そうか…。じゃあ、奥州は余剰米が多いから、それを常陸と下総に回してトウモロコシをその分栽培させ、その範囲内で黒毛和牛と豚を飼育すればいい。甲斐については信玄と相談だな。あそこは信濃の佐久を中心とした周辺地域と諏訪での米の栽培が盛んで余剰米がある。それを上野と信濃の空いてる農地でのトウモロコシ畑に回していいかだ。そうすればトウモロコシが確保出来るな。あくまで生活に必要な野菜の生産も十分にさせるがな」
「左様でございます。それならば民の生活を圧迫致しません。もし蝦夷が開拓出来ましたら、牧場の規模はもっと大きく出来ます。他の主成分は大豆でございます。大豆も蝦夷での栽培が適しております」
「なるほどな。アイヌとの交流は真剣に考えた方がいいな。国内では豆腐と味噌と醤油製作を圧迫しない程度にしか飼料に回せねぇ。味噌も豆腐も醤油も基本的に全国に流通したからな。多くが仙台味噌だ。伊達領内は良質な大豆が豊富だからな。後は大豆は徳川家康と信玄から買い取るか。甲斐も駿河も尾張も味噌で有名だからな。そうか、長曾我部もだ。なら、かなりを飼料に回せるな。農業革命がすぐに起こせるから、大豆の豊作が見込めるから尚更だ。トウモロコシもだな。その時の収穫高によって判断するのが妥当だ。トウモロコシと大豆の割合は?」
「主成分がトウモロコシとお考え下さいませ。大豆は確保出来るだけでよろしいかと。大豆が代替えにもなります。それは別の和牛に使います。他にはアレンジ方法と致しまして、トウモロコシの身だけではなくそれ以外の全部分を用いて発酵させて長持ちさせまして、飼料として有効活用が出来ます。サイレージと呼ばれます。トウモロコシの身も大豆も長持ちするように加工致します。まずはトウモロコシの身とサイレージをブレンドして飼料と致します。それから大量の水が必要でございます。これが普通の和牛育成の必須条件でございます。あの味を再現するには、穀物性飼料が欠かせません。遙様の世界では、日本は飼料の90%をアメリカからの輸入に頼っております。アメリカの友好的な開拓が進みましたら、アメリカからサイレージを持ち込めますので、大規模に和牛が飼育出来ますね」
「よく分かった。なら、水は常陸と下総の利根川から水を得る感じでそこに和牛の畜舎を構えるか。水路を作れば簡単だ。それでモデルケースでまずは国内のトウモロコシで何頭養えるか実験だ。人間ベースで見積もれば、お前なら計算出来るだろう?」
「左様でございます。お任せ下さいませ。それならば、民の生活を圧迫せず、食のバリエーションが増えます。流石は政宗様でございます。来年の秋の収穫高を見てから、すぐに飼料作りへと移行すれば、何頭の牛と豚が飼育出来るか見積もれます。利根川流域でのモデルケースを元に、武田領内とアメリカ、オーストラリアで飼育を展開して行けばよろしいと存じます。それならば、世界が食糧難になる事はございません」
焔はそこで言葉を切って頷いた。
まるで小十郎から古典を教わっていた時のような気分だ。
でも、こんな勉強ならいくらでも大歓迎だ!
俺も頷くと焔は微笑んで話を再開した。
「では、松坂牛の飼料についてお話致します。飼料の成分は大豆、小麦の殻、大麦、稲わらでございます。牛の成長過程によってブレンド率が変動致します。とりあえず、鶏の方がタンパク源として間違いなく飼育効率がよろしいので、残りの小麦の殻と大麦を飼料に当てられる分を計算する事によって、松坂牛の飼育頭数を決めれられます。麦の生産が盛んな島津様から大麦の余剰分を買い取り、小麦の殻を回収すれば大規模な展開が出来ますね。その場合、ネックになるのは確保出来る大豆の量です。そもそも一頭育成させるのに、手間暇かかりますので、思っているほどの大量飼育は出来ません。出荷時期は月齢30〜36ヶ月頃が理想的なサシの入り方になります。政宗様もご存知の通り、牛の出産は年一度でございますから、そこからどう増えるかも計算出来ます。せっかく飼育した牛ですから、美味な部位だけでなく内臓部位を焼肉やイタリアの内臓料理やすじ肉を煮込むフランス料理などを取り入れる事によりほとんどの部位が消費出来ます。それならば、多くの人の口に入ります。トウモロコシ主体の和牛と松坂牛の2パターンで飼育していくのが最も効率的でございます。これをアメリカとオーストラリアでも展開して行きます。それならば牛がかなりの頭数で確保出来、日英アメリカ、オーストラリアで和牛の牛肉が共有出来ます。大豆、小麦、大麦はアメリカ、オーストラリアで育ちますし、稲わらはアメリカ、オーストラリアで展開する稲作から入手すれば松坂牛が作れます。つまり松坂牛と普通の和牛が自給自足出来ます。牛は活発には動きませんので広い牧場もいりません。土地の節約でございます。日本では長曾我部領土の松坂でも松坂牛を飼育なさるとよろしいでしょう。豚は基本的に雑食でございますから、残飯や調理や収穫で出た野菜くず、除去した雑草、大麦のから、農地で余った野菜や、作物の茎や根と骨以外の捨てる魚の部位を煮込んだ物などを飼料にする事で対応出来ますので、無駄がございません。そもそも稲作が盛んでございますから、稲わら中心のエサで十分でございます。これならば全国的に豚の飼育が可能ですし、餌も安全な物でございます。川のそばなら水も豊富に確保出来ます。豚肉の全部位の調理は中華料理が最も優れております」
俺は驚き感動のあまり叫んだ。
「焔、お前、すげぇなーーー!めっちゃ分かりやすいぜ!これで農業戦略も畜産戦略も出来たぜっ!畜産計画は全てお前に任せたっ!」
「わぁ、焔すごい!こんなに環境に優しい畜産って出来るんだね!感動しちゃった!栄養バランス的にもいい!」
「焔が超すごい!しかも分かりやすい!これなら遙が考えた塾も成功するよ!官僚の育成もあっという間だ!」
小十郎達も感動して喜んでいる。
「政宗様っ!これで民も飢える事がございませんね!飢饉も回避出来そうですね!!」
「ああ、そうだな、小十郎!」
「俺、まさか今ある物でこんなに色々出来るなんて思いもしなかったぜっ!遙ちゃんの世界ってすげぇな!」
「ああ、遙様の世界の学問とは誠に素晴らしいな、成実!俺は猛烈に感動したぜっ!政宗様、誠に素晴らしき方を奥方様にお迎えになりましたね!7年間操を立てた甲斐がありましたね!!」
「ああ、当たり前だ!!こんなに幸せになれるなんて思いもしなかったぜっ!!俺も遙の世界の学問にはびっくりだ!!また焔が誘導が上手くて、つい乗せられてたらこんないい政策になってたぜ。マジでびっくりした!これで日本も世界も安泰だ!全部、遙と美紀と焔のおかげだっ!」
俺は猛烈に感動して、焔にどうしても位を与えたくなった。
「焔、お前は俺が王として即位した暁には俺の宰相となれ。民間人としては最高の位だ。名実共に俺の政治の相談役だからな。軍事政治の全ての最終的な決定権は伊達三傑と俺が持つ。猿飛は騎士団長だから俺の近衛兵隊長みたいなもんだしな。お前は宰相でどうだ?」
焔は驚いたように目を瞠った。
「まさか政宗様がそこまで思いついていらっしゃるとは、思いもしませんでした。流石は天下人の伊達男でございます。遙様が焦がれて泣くほどに忘れられなかったのもよく分かります。真田幸村と懐の深さの桁が違います。正直このお若さでお館様を超えるレベルです。政策や貿易センスに関しましては日本一でございます!信長を超えます!その頭脳もこの時代におきましては日本一でございます!!大変光栄な事でございます。全ては遙様のお陰でございます。俺はただ、心理戦の応用を繰り広げているにしか過ぎません」
「お前も遙の命の恩人なんだ。素直に宰相の地位を受け入れて世襲しろ。お前のその誘導が俺の政治にとても役立つ。改めてお前への礼は別に考える」
「ありがとう存じます。俺は政宗様と遙様にお仕え出来るだけで幸せでございます。では喜んでその地位を承ります。他には何かございますか?」
「今のところは政策は決まったから、これからエンターテイメントの話だな。世界掌握のエンターテイメントだ!焔、お前の意見が聞きたいから控えてろ。成実、待たせたな!」
「やったぜ!ずっと待ってたぜっ!」
「この小十郎も楽しみでございます!」
「俺も政宗様の斬新な策が気になって仕方ありません!」
みなはきらきらと目を輝かせて俺を見つめた。
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