「政宗様に申し上げます。武田信玄、及び伊賀と甲賀の長達が謁見の間にて政宗様をお待ちでございます」
「Alright、すぐに行く。小十郎、お前は隣の部屋に追加の座卓を用意して待ってろ。遙と猿飛だけ俺について来い。伊賀の長は、藤林だけじゃなくて、服部と百地も来てるだろうな。そのつもりで宴の準備をさせろ」
「はっ!」
「よし、じゃあ、遙、猿飛、行くぞ!」
「うん!」
「はいよー!」
ここは中奥でも大奥に近いから、表まで少し距離がある。
隣で手を繋ぐ遙は不思議そうに俺を見上げていた。
「ねぇ、政宗。伊賀の長って服部だけじゃないの?服部半蔵でしょう?」
「服部半蔵は家康に仕えてるから、服部家の別の跡取りが今は伊賀の長の一人だな。伊賀衆は、基本的に服部、藤林、百地の三家が治めてて、他の忍達はその三家に従う。雇い主との主従関係は基本的に傭兵のような金銭的な契約関係だ。ただし、忍の忠誠は絶対だから、まず裏切らねぇな。猿飛は、藤林の傘下だっただろ?」
「うん、そうだよ。藤林様は、お館様の軍師、山本勘助の配下の忍だからさ、甲斐の忍はみんな藤林系だよ。伊達の黒脛組は、百地だよね?信長に敵対していたから、その隙をついて政宗様のお父上が一部雇って、政宗様がその後、百地派の半分の忍を黒脛組にしただけじゃなくて、その後更に独自に増強してあれだけの規模にしたんだもんね?」
「その通りだ。諜報と脱税管理だけなら、わざわざ生粋の伊賀衆じゃなくても事足りるから、百地の忍に民間人を鍛え上げさせて増強した。だから、俺の黒脛組はちょっと変わってるか。かすがも、風魔も伊賀衆だな。風魔は生粋の傭兵だからな。かすがも確か猿飛と同じ藤林の傘下の同郷だな。だから、猿飛達は馴染みなんだぜ」
「そうなんだ、知らなかった!だから佐助が給料の文句を言ってたんだね、納得。じゃあ、甲賀は?」
「甲賀衆は、惣という集団の集まりで、民主主義的に里の方針を決定する。元は六角氏に仕えてた忍衆だ。その後、信長、秀吉に仕えたか。甲賀衆は特定の主にしか仕えない忍衆だな。主に医療や薬に精通していて、薬売りをしながら諜報活動を行う。黒脛組に組み込めれば理想的ではあったが、俺は甲賀衆の主君の秀吉を討った身でもあったし、その他の国内外政策で手が回らなくて、甲賀の里の独立保護監視で精一杯だったな。黒脛組は十分にいるし、甲賀衆まで雇わなくても事足りてたからな」
「そうなんだ。じゃあ、何で、伊賀衆の佐助に医術の心得があるの?」
「俺の医術なんて、基本中の基本だよ。そもそも伊賀と甲賀は、雇用形態と得意分野が違うだけで、術の独占とかはしてないからさ、甲賀衆の知識も俺だって多少はある。でも、やっぱり本場の甲賀衆の知識には敵わないよ。今なら負けないけど。何せ、遙レベルの医術を今は持ってるからね!」
「全然知らなかったよ。じゃあ、政宗が全員雇えば済むだけなんじゃない?」
「結論はそうだが、忍にもしがらみはあるからな。出来れば禍根は残したくねぇし。だからこその、説得会だ。よし、ここが謁見の間だ。俺と遙が上座に座るから、猿飛は下座に座れ」
「うん」
「了解!」
俺達は、くノ一に促されて、それぞれ上座と下座に座った。
下座には、信玄を筆頭に、伊賀衆三家と甲賀衆の長と信玄の親衛隊が頭を下げて控えていた。
遙は部屋の絢爛さに驚いたように、部屋を見回した。
俺はくすりと笑って、皆に声をかけた。
「遠路はるばるご苦労だった。顔を上げろ」
「はっ!」
信玄と目が合うと、信玄は機嫌良さそうに相好を崩した。
「政宗公にまたこうしてお会い出来、恐悦至極に存じ奉る。我が娘、遙も元気そうで何よりじゃ」
「ああ、信玄、俺も嬉しいぜ。今回の首尾には感謝する。伊賀衆三家も、甲賀衆も、ご苦労だった」
「はっ!ありがたきお言葉!」
「信玄も忍達も、甲斐から馬飛ばして来たんだろ?少し茶でも飲んで寛いだら、早速宴だ!せっかくならゆっくり羽を伸ばしながら話をしようぜ!おいっ!煎茶と茶菓子を振る舞え!」
「かしこまりました」
ほどなくして、煎茶と茶菓子が運ばれて来て、皆の前に配膳された。
「遠慮せずに、寛いでくれ。それから、信玄には猿飛から報告がある。猿飛、ちょっとこっちに来い」
「了解!」
猿飛は、俺のそばまで来ると座って、信玄に向き直って一礼をした。
「よし、猿飛。お前の思うように信玄に報告してやれ」
「政宗様、ありがとう!」
猿飛は俺を振り返ってへらっと笑うと、信玄に向き直った。
そして、もう一度深々と一礼をすると、背筋を伸ばして話し始めた。
「お館様にご報告があります」
「うむ、申してみよ」
「はっ!お館様もご存知の通り、俺は前々から南蛮の騎士に憧れていました。それこそ、遙に騎士のように忠誠を誓い、命を懸けて守りたいと思っていたほどに。政宗様は、俺をイギリスに凧で遣いに行かせて下さっただけでなく、イギリスでエリザベス女王に俺と紫苑がおもてなしをされるようお取り計らいをし、エリザベス女王は俺に本場の騎士について色々教えて下さっただけでなく、特別に本場の騎士の色々な儀式を見せて下さいました!俺は猛烈に感動して、政宗様にお仕え出来て本当に良かったと思っております!!全てはお館様が、俺を忍頭の業から解き放ち、政宗様にお仕えするようご命令下さったお陰です。お館様には感謝の言葉もありません!」
信玄はにこにこと微笑みながら、猿飛の報告を聞いて頷いていた。
「そうか、それは誠に良かったのう!お主がそのように嬉しそうなのは珍しい。政宗公にお主が大切にされておって、わしも感謝の言葉もない。誠に良き取り計らいをしたと思うと、わしも感無量じゃ!」
「お館様にもそうおっしゃって頂けて、俺は本当に嬉しいです!それから、遙の策ではありますが、キリスト教の世界最高権力者のローマ法王の前で美紀と婚儀を挙げる事になりました!政宗様にしかご用意出来ない世界最高の婚儀の舞台です。その上、ローマに行く前に、イギリスのバッキンガム宮殿で、エリザベス女王から選りすぐりの騎士団をもらい受け、俺がその騎士団長として任命され、王様である政宗様へ忠誠を誓う儀式を、エリザベス女王直々に執り行って下さるそうです。俺、まさか本物の騎士になれるなんて思ってもいなかったから、超感激!しかも、騎士団長だよっ、お館様っ!!全て、お館様のお陰でございます。ありがとうございます!!」
信玄は驚いたように目を瞠った。
「まさか、佐助が憧れていた騎士になるとは!!それも、本場のイギリスの騎士団長とは!!して、政宗公が王様とは…?」
俺は、焔と俺の策について話し、そのために帝を譲位させる事にしたと言うと、信玄達全員が驚きの声を上げた。
「何と!!それでは、伊達の血筋が世界最高の家柄になるという事であるか!!流石は政宗公じゃ!!武田の血筋も、公卿の家柄を超えるとは驚きじゃ!!」
「それは焔の策だけどな。他にも焔は色々と思い付いてくれて、小十郎と新大陸の開拓について策を練ってくれている。だから、遙の養女縁組が終わったらすぐに帝は譲位させ、東宮を即位させてすぐに俺は王となり、焔を俺の宰相とする。民間人としては最高の位だ。焔には今回のローマ出陣に俺の宰相として同行させ、猿飛の騎士団長就任の儀式と婚儀を見せてやるぜ。猿飛の幸せを一番望んでいるのが焔だからな!」
信玄はまた驚いて、薄っすらと涙を浮かべた。
「まさか、焔の幸せまで考えて下さるとは思わなんだ。あやつの一番の望みは佐助の幸せよ。政宗公には感謝してもし切れぬ」
「焔も遙の命の恩人なんだ。これくらいじゃ足りねぇくらいだな。猿飛の配下の忍には、みな幸せになって欲しいぜ」
俺がそう言うと、伊賀衆三家と甲賀衆の長の口から感嘆の声が出た。
伊賀に残した百地の跡取りが、深々と頭を垂れた。
「流石は政宗様でございます!黒脛組を忍頭の業から解き放っただけでも驚きでございましたのに、このように忍隊を大切にされて、本望でございます!!藤林も良かったな!服部も政宗様に助けが必要とあらば、お仕えせぬか?」
「ああ、佐助がそのように大切にされていて、俺はとても嬉しい!!」
「家康の事は、服部半蔵と一部の精鋭で十分だな。服部家は政宗様にお仕えする事に異存はない。むしろ、政宗様の世界掌握に力が必要とあらば、いくらでもお力添えする所存。百地、藤林、伊賀衆の全忍が政宗様にお仕えする事に異存はないな?」
「ああ、もちろんだ!」
百地と藤林が力強く頷いた。
伊賀衆を掌握するのに手間取らないのは想定済みだ。
俺は、いまだ感心し切ったように俺を見つめている、甲賀衆の長に視線を移した。
「どうした?そんなに意外か?」
甲賀衆の長は、ハッとしたように我に返って深々と頭を下げた。
「政宗様の懐の深さを今まで見誤っておりました事、深くお詫び申し上げます。伊達と豊臣との戦で、多くの甲賀の忍が豊臣の盾とされ、伊達に多くの同胞が討たれた事に憤りを感じておりました。しかし、過去は過去。未来は未来でございますね。甲賀の忍は情に厚く、一人の主君にしかお仕えしない事は政宗様もよくご存知ですね。伊達を恨むのは筋違い。むしろ、豊臣に加担をした我々の選択が誤りでございました。秀吉にこのような平和的な策が取れたかと思い返しますと、竹中半兵衛主導の、恐怖に満ちた未来しかなかったように思います。世界を平和的に開拓し、楽しみに満ちた政策で、争いのない世界を作ろうとなさっている政宗様こそ、我々甲賀衆がお仕えする主君として相応しいお方でございます。猿飛佐助と焔がこれほどまでに政宗様を慕っている事からも、火を見るよりも明らかでございます。政宗様がお望みとあらば、里に帰還し次第、全ての惣を招集して会合を開き、次の主君を政宗様としてお仕えする話し合いをしたいと、存じ奉ります!」
本当は、宴の最中に、焔に説得させようと思っていたが、予想外に宴前に全てカタがついてしまった。
これは、これ以上はないほど好都合だ。
「お前がそう決意してくれて、俺は本当に嬉しいぜ。出来れば、豊臣との戦も被害は最小限にしたかったが、相手があの竹中半兵衛だったからな。伊達も総力戦にせざるを得なかった。多くの犠牲者が出てしまった事は、詫びても詫び切れねぇ。それでも、甲賀衆は、俺についてきてくれるか?」
「政宗様の目的が世界の平和のためで、そのための諜報や暗殺ならば、我々は政宗様の手足となる所存でございます!猿飛佐助、お前もそういうつもりで政宗様にお仕えしているのだろう?」
「まあね!それに、政宗様には世界最高の平和主義の策士、遙がいるからね!遙がいる限り、伊達の戦の犠牲者は最小限、下手したら皆無だよ。遙は7年前から政宗様の婚約者なんだ。遙は誰も死なせないって強い信念を持ってるからね!」
「それは誠か!?ますます我々の主君に相応しいな!政宗様、豊臣に仕えていた我々ではございますが、これからは政宗様に絶対の忠誠を誓います!!」
「よく言った!猿飛も援護、感謝だぜっ!これで決まりだな!あとは、お忍びでイギリスからエリザベス女王が来てるんだが、日本の忍隊を欲しがってる。忍法が得意で、くノ一中心の規模が大き目の忍隊を編成してくれねぇか?諜報と護衛に長けた忍隊がいいな。精鋭で固めてくれ。伊賀衆と甲賀衆の共同でもいいぜ?エリザベス女王と、騎士団と忍隊の友好的な交換を約束しているからな!それは宴の時に話し合って決めてくれてもいい。いい気分で宴が出来そうだぜ!今日は特別な料理を用意したから、楽しみにしてろよ?じゃあ、みんな、部屋の移動だ!」
「はっ!」
遙をちらりと見遣ると、感心し切ったように俺を見つめていた。
「なんか、お館様の説得、いらなかったね。政宗って本当にすごいよ!これで、全忍隊掌握だね!」
「そうか?猿飛がいい感じの流れを作ってくれたから、楽勝だったぜ!さあ、お前の楽しみにしてた松坂牛のすき焼きだぜ?Let's party!」
俺は立ち上がると、遙と手を繋いで部屋を移動した。
その間に、必要な数だけの機材と肉を宴の部屋に願った。
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