麦酒と牛乳。
事務所は相も変わらず殺風景かつ小綺麗にされてあった。
「お前のマグカップとかはまだちゃんとあるからなー。」
ああ、そういえばクマのマグカップでよくミルクティーを飲んだっけ。
夏深は己の既に音を発しない端末にコードを刺し充電をしながらふと思う。
「ありがとね。ああ、今晩は此処で泊まらせて。明日のお昼には荷物届くだろうし…。」
メールを見ると宅配業者から2通。
少しの下着と少しの私服、最低限の生活必需品が押し込まれた荷物の送り先は無論、新隆の部屋である。
20になった頃から2人で同棲をしてはいたものの、2年ですっかり一人暮らしに慣れてしまった自分のドライさ、そして順応性に悲しくなる。
8で出逢い、14で恋を知り、16で結ばれ、20で同棲し、28まで一緒にいるが未だ彼から"結婚"という単語は余り聞かない。
結婚したい、とはよく言うが具体的な話は本当に出ない。
夏深は意外と乙女であった。
心の中のナレーションが脳に響く。そんな甘い女子みたいな…。新隆をちらりと見るとやっぱり14年経っても恋心は宿り木のように心に絡みつき締める。
恋人から夫婦になるとこれは変わるのか?だなんて自分が恥ずかしくなるような事ばかり考えている。
「てか、俺んとこに荷物運んだんだろ?なら、お前がいないと業者が面倒だろう。配置とか判子だってお前まだ桐島な訳だし?」
この人は本当に霊能力なのかもしれない。
いや、本当は違うのだけれど。
「あ、新隆の部屋いいの…? 急だし申し訳無いなあ…って思ってた。」
時刻は17:57で少し早いがビールのタブを開ける。ああ、この匂いだ。夏深はじーんとアルコールと麦酒の香りを身に染みらせた。
茂夫も茂夫で先程買って貰ったパックの牛乳とチョコチップクッキーをさぞ嬉しそうに食していた。
「ふふ、なら後で新隆の部屋に行く。 少し歩かなきゃならないけど。」
私があげた小さな観葉植物はまだ生きているだろうか、ダブルベッドに窮屈ながらも2人で密集して抱き合って眠った日々も懐かしいし、愛おしい。
「お前が居ないとベッドが広いから安眠だったけどな。」
この人は何故、私の考える事をこうもズバズバ当ててくるのだろうか。
夏深は溜息を漏らす。
「私も、貴方が居ないからろくに働く事も出来なかった。 慰めてくれたり、叱ってくれる人がいないと、私何にもできないもの。」
私達の顔が赤いのはお酒のせいで、モブの顔が赤いのは牛乳のせい。
「ほ、ほらモブ。今日の分だ、暗くなるから気を付けて帰れよ。」
話を逸らすように300円を茂夫に渡す。
「今日は働いてないので…」
「それくらい、受け取ってあげて。 新隆からの些細なご褒美なんだから。」
18時。少しアルコールが入った男女と律儀に礼をする中ら学生がそこにいた。
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