どっちがかわいいでしょう



「あーーーもうっほんっとムカつく!」

朝から紅陽の大声がレッスンルームに響く。
レッスンルームにいるのは紅陽ところんだけなのでうるさいと咎めるものもいないのだが。

「どうしたのくーちゃん」

イライラしているユニットパートナーにころんはそう訊ねる。
かわいい顔が台無しだよ、と言おうとしたが彼はきっと「怒った顔もかわいいからいいの!」と言うだろうし、事実かわいいものだ。

「夢城大樹だよ!ほんっとムカつく!」

夢城大樹……2期生として入学してきた彼らと同じ、いわゆる男の娘というやつだ。
彼も紅陽と同じように自分が世界一かわいいと自負しており、そう振る舞う。
この世に1番は2人もいらない、とお互いにライバル視していた。

「絶対僕ところんの方がかわいいんだけど!?」

紅陽は自分ところんが最強のかわいさを誇っていると主張する。

「この前あいつになんて言われたと思う?!」

「なんて言われたの?」

「C×Cより僕の方がかわいいーだって!そんなわけないじゃん!!」

ころんは1人で怒り続ける紅陽を見つめ、どうやったら機嫌治るかなー、と考えていた。





一方その頃。
CANDY×CREAMのいるフロアのひとつ上のレッスンルームでは、夢城大樹と水無月宵が話していた。

「ほんっとわけわかんないんだけど!!」

「わかったわかった」

「なにがわかったんだよ!!」

大樹が声を張り上げる。

「絶対一宮紅陽より俺の方がかわいい!!」

「お前ちょっとくらい周りの迷惑考えろよな」

「周りってお前しかいねえだろ!」

確かにこの部屋には2人しかいない。
が、頭に血が上っている大樹と違い、宵には先程の紅陽の怒鳴り声が聞こえていた。
下のフロアとはいえこちらに聞こえたのだから向こうにも聞こえるかもしれないのだ。
そうなればまた大喧嘩になることは避けられない。
面倒ごとはごめんだと宵はため息をついた。

「頼むから俺を巻き込むなよな」

「そもそも宵はなんで自分に対して自信もねえ癖にそれなりにかわいい顔して……」

「巻き込むなって言ってんだろうが!」

「まあ俺の方がかわいいけどな!」

「うるせえよ!」







その数日後、2組は事務所の廊下で鉢合わせる。

「うわ……」

「人の顔見るなりうわって何さ、失礼じゃないの?水無月宵」

「……すいません」

「まあ隣にもっと失礼なやつがいるけどさ」

そういって紅陽は隣に立つ大樹に目をやる。

「あれー?失礼なやつって誰のことですかねー?もしかして3人目が見えてる?こわーい」

「そういうところほんとうざい、かわいくなさすぎ」

かわいくなさすぎという言葉に大樹の目の色が変わり、そして紅陽を強く睨みつけた。

「はー?俺がかわいくなかったら全世界みーーんなかわいくないですけど??」

「残念だけど僕ところんの方がお前よりかわいいから!ね、ころん!」

苦笑いを浮かべてはいるがそこはやはりユニットバートナー。
こうなった時の紅陽の扱いを心得ているのか「そうだねー」と軽く言い放つ。

「あ?どう考えても2人合わせても俺の方がかわいいだろ!なあ宵!」

「は!?」

突然巻き込まれ戸惑う宵。

「俺に振るな!てか巻き込むなって言ったろ!」

「なんだよ!役に立たねえな!」

「知るか!」

そして大樹の目はころんを捉える。
大樹は紅陽を指さしながら言い放った。

「ころん先輩!どっちがかわいいと思いますか!!」

「え?」

突然の流れにころんと宵は驚いた。
が、紅陽はこれに便乗する。

「絶対僕に決まってるじゃん!ね、ころん!!」

「いくらユニットでも俺の方がかわいいってのが事実ですから、嘘つかないでもらっていいですか?」

「は?ふざけたこと言わないでくれる?」

なおも言い争う2人。
だがしばらく言い争ってから2人同時にころんの方を振り返る。

「うっわ大樹お前今めちゃくちゃブスだぞ」

「そんなわけないだろ、怒った顔もかわいいんだよ俺は!宵は引っ込んでろ!」

「ねえころん、どっち!!」

「えー……」

詰め寄ってくる2人を見比べて悩むころん。

「どっちもかわいいよ、じゃだめー?」

「「だめ!!」」

2人同時に否定され、やっぱりー?と呟くころん。
しばらく悩む素振りを見せたあと、宵と目が合う。
しかしすぐに紅陽と大樹の方に向き直った。

「くーちゃんも夢城ちゃんも言い争ってばっかりだからかわいくない!」

かわいくない、その言葉に2人はまた怒り出すかと思いきや少し大人しくなる。

「だって俺の方がかわいいし……」

「はあ!?ふざけないで!僕の方が……」

「だってじゃないのー」

不満そうな顔をする2人。
宵にはころんがかっこよく見えた。
が、

「1番かわいいのは宵ちゃんだよー」

「「「は?」」」

3人同時に呆気に取られる。
しかしすぐに状況を理解し、宵は青ざめる。

(この人全部俺に投げやがった!?)

ころんと目が合うとにこやかにウインクを返される。

(まじかよ!!)

一瞬でも尊敬した自分をぶん殴ってやりたい。
そう思って2人の方を見ると、案の定めちゃくちゃ怖い顔で睨みつけられていた。
やべえどうやって逃げよう……、そう思いつつ後ずさる。

「宵が俺よりかわいいわけないだろ?」

「初めて意見があったね、僕もそう思う」

「俺もそう思うけど……」

黒いオーラを放つ2人に自分もかわいくないと思うと告げるがそれでも2人の怒りは収まらないらしい。
行き場のなくなった怒りが一直線に宵に向けられる。
後ずさる宵の背後にいつの間にか壁が迫っていた。

(終わった……)

「じゃあさ水無月、君がどっちがかわいいか決めなよ」

「同感だな、ほら宵、言ってみろ」

どっちをとっても後々面倒なことになると悩み続ける。
そしてこれはころんに投げ返せばいいのでは!?ところんのいた方を見ると、そこに既に彼の姿はなかった。

「ねえ、どっち?」

「答えろよ」

尚もじりじりと迫り続ける2人に宵は覚悟を決めた。



END

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