誰よりも君の幸せを願った。




 俺は憂ちゃんが大好きだ。


 小さい頃からずっと一緒で、俺はずっと憂ちゃんを守って来た。


 誰よりも彼女を愛していた。誰よりも彼女の事を想った。


誰よりも彼女の……。



******



「振られた」

 俺の一言に、封月はジュースを飲みながら俺を見た。

 ここはFHC養成所……の屋上。時間はお昼の12時。俺はちょっと話があると言い、封月を屋上に呼んだ。
 封月は俺の気持ちを知っている。と言うか、恐らくFHCの人間ならば全員知っている。知らないのは憂ちゃんか、新人か、超が付くほど鈍いやつだ。中でも封月は俺とよく似た立場の人間だ。だから彼は相談できる唯一の相手だった。

「ふーん。振られちゃったんだ、大好きな憂ちゃんに」

「憂ちゃんの名前、気安く呼ばないで。まぁ、振られたって言うか……別に憂ちゃんから直接言われたわけじゃないけど」

「は?」

「見れば分かるんだよ。憂ちゃんに好きな人がいるって……」

 俺は小さい頃から憂ちゃんだけを見ていた。だから憂ちゃんが今どう思っているのか、誰が嫌いで、誰が好きか。例え小さな感情でも、分かってしまう。分かってしまうから……憂ちゃんが言わなくても、俺は失恋したって、分かるんだ。

「……振られちゃった」

 俺はもう一度、さっきよりも小さな声でそう言った。



******



 一宮 紅陽―――俺と同じFHCに通う、歴とした“男”だ。

 しかし俺と彼は絡んだことはない。まぁ同じ養成所にいるから廊下ですれ違うたびに挨拶はするが、それだけだ。それは憂ちゃんも同じだ。俺と憂ちゃんは四六時中ずっと一緒―――とまで言わないが、ほとんどの時間、彼女と過ごしている。俺が知っている限り、憂ちゃんと一宮が一緒にいる所を見たことはない。

 だが、最近、憂ちゃんは一宮を見つめることが多くなった。憂ちゃんの目線の先には必ず彼がいる。一宮と目が合うと、憂ちゃんはすぐに目を逸らす。分かりやすい反応だ。そこまで分かりやすい反応されたらすぐに気づく。まぁ、一宮は気付いていないみたいだが……。

「一宮くんって、男の子なのに可愛いよね」

「そうだね」

「髪も綺麗だし、お洋服も可愛いし。どこで買ってるのかな?」

「そうだね」

 楽しそうに一宮の話をする憂ちゃん。一宮なんかより憂ちゃんの方が可愛いよって言おうとしたが、なんとか抑えた。
 俺は自分の気持ちを押し殺して、その話を聞いた。



「で、どうするんだよ」

 封月のその言葉に俺はハッと我に返った。封月は「だから」と言って、もう一度同じことを言った。

「このままじゃ憂ちゃん、その好きな人に取られちゃうぜ。お前は、どうしたいんだよ」

「…別に、どうにかしたとかは考えてないよ。俺は憂ちゃんが幸せならそれでいいし」

「お前って、結構すぐに身を引くタイプなんだな。てっきり、憂ちゃんは渡さねぇ!って言って喧嘩でもするのかと」

「お前の中の、俺のイメージってどんな感じなの?」

 正直どうしたいのかよく分からない。封月の言うように相手に喧嘩でも売ろうか……それから、どうする。喧嘩したところで何にも変わらないし、むしろ憂ちゃんが傷つくだけだ。憂ちゃんが傷つく事はしたくない。
 それはなら、俺が身を引けば済む話だ。今まで通り、この気持ちを伝える事なく俺の中で押し殺す。たったそれだけで憂ちゃんが幸せになるのならそれでいい。

 ……あぁ、でも

「やっぱり悲しいかな……」


                                                     END


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