坂道雨天と五十里海の出会い
“次のニュースです。実の子供を虐待し、海に捨てたとして子供の父親と母親が逮捕されました。子供は無事に保護され、今は病院で入院中の事です。”
―――少年は沈む。海の底へ。
―――少年は沈む。暗い場所へ。
―――少年は考える。自分の生まれた意味を。
―――少年は願う。“生きたい”と。
******
俺様が住む場所は山に囲まれた村。人口は少なく、お年寄りばかりで俺様と同年代の子供は一人もいなかった。唯一の子供と言う事もあって、村人たちは俺様を孫の様に可愛がってくれた。
そんなある日、隣の家に子供が来たという話を両親から聞かされた。孫でも、実の子供でもなく、容姿として引き取ったのだと聞いた。俺様より4つ年上の子供らしい。
(と言う事は9歳か……)
俺様は好奇心から、その子供の様子を何度か見に行った。けれどもその家の主にいつも追い返され、結局姿を見る事も出来なかったことが何回も続いた。
ある晩の事。深夜の1時くらいに俺様は目を覚ました。起き上がり、何となく窓の外を見ると、ひとりの子供が歩いているのが見えた。すぐに分かった、隣の家の子供なのだと。俺様は親にバレない様にこっそり家を出て、その子供の後を追いかけた。その子供は山の方へ向かって歩く。こんな時間に、子供たった一人で山に行くのがどれだけ危険か、5歳だった俺様でも分かる。
山の入り口である鳥居の前で、俺様はやっとその子供に追いつき、腕を掴んだ。
「ね、ねぇ。何処にいくんだよ。こんな時間にやまにいくのはだめだよ」
俺様がそう言うと、その子供は振り返る。その時俺様はゾッとした。何と言うか覇気がない感じがしたからだ。今にでも自殺してしまいそうな、虚ろな目で、今まで幸せを感じたことがないくらいの目をしていた。
「キミも、こんな時間にであるいてたら危ないでしょ。早く帰りなよ……」
「そ、それはお前も同じだろ!早くもどらないと、パパとママにおこられるぞ」
「平気だよ。おこられるのも、たたかれるのも、けられるのも慣れてるから……それに、あの人たちは俺の父さんや母さんじゃないから……」
俺様はロボットと会話しているのか……そう思った。そう思うくらいにその子供は、ソイツは、無表情のまま、表情一つ変えずにしゃべり続けたからだ。
「で、でも……」
「キミ、隣の家の子だよね。毎日おれに会いにきてくれてた……ごめんね。あの人たち、おれを他の誰とも会わせようとしないんだ。外にでることも、誰かとおはなしすることも許してくれない。だから毎晩こうやって外に出てる」
「じゃあこれが初めてじゃないの?」
「ストレスになるんだ。部屋にずっといると……」
「すと?」
「ん〜、なんて言えばいいのかな。イライラしちゃうって言えばいいのかな……」
「元気じゃなくなるのか?」
「まぁ、そういう所かな……」
そいつは俺様と目線が合うようにしゃがみ、笑った。あ、こいつでも笑うんだ……その時はそう思った。
「なまえ、教えてくれる?」
「い、いかり……いかり かい、です」
「坂道 雨天。よろしくね、海ちゃん」
「うみじゃなくて、“かい”なんだけど」
「どっちも一緒だよ。“うみ”も“かい”も……じゃあ、帰ろう」
「え? かえるの?」
「帰ろうって言ったのはキミだよ。まだ小さいキミを一人で帰すのはあぶないから、今日はおとなしく帰るよ」
その後、俺様はそいつ―――雨天の手を握りながら一緒に帰った。これが雨天との出会いだった。
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