キス (赤衣→登坂)






「しょうくんはキスした事ある?」



 唐突にそう聞いたのは理由があった。

 高校生になった僕としょうくん。幼馴染である僕と彼は、同じ高校に進学した。もっと簡単に言えば、僕がしょうくんと同じ高校に進学した。クラスは別で、お互い部活も入っている為、一緒にいる機会が減った。けれど部活がない日はいつも一緒に下校した。
 今日も部活がない日だった。空がオレンジ色に染まり、多くの学生たちが下校していた。だが家が近付くにつれて、人は減っていき、いつの間にかその道には僕としょうくんだけになっていた。
ちょうどその時だ、僕があの質問をしたのは……。



******



 理由を話そう。事の始まりは、今日の昼休み。しょうくんとクラス別になった僕だったけど、友達はすぐに出来た。その、しょうくん以外で初めて出来た友達とご飯を食べている時だ。

「キスした事ある?」

 友達の一人がそう言った。もちろんこの場にいるメンバーは僕も含めて、キスなんてしたことはない。
 だが僕たちはもう高校生だ。彼女も出来て、いつかキスをするだろう。彼は「高校1年の間にキスをしたい」と言った。その時、この中の誰かがしょうくんの名前を出した。

「アイツって女の子から人気高いだろ? チャラ男だし、俺達がこうしている間にも、きっと何処かでやってるんだろうな〜」

「まさか〜」

「確か赤衣って、登坂と幼馴染だよな。ちょっと聞いてくれね?」

「な、なんで僕が……」

 どうして僕に頼むかな……と思った。幼馴染だから彼に何でも聞けると思っているのだろうか。幼馴染だとしても、聞けない事がある。
 でも正直、僕もその事に興味があった。知って何かあるのか? と聞かれたら、確かにそうなのだが、それでも僕は気になった。だから質問した。



******



 僕の質問を聞いて、しょうくんはキョトンとした表情で僕を見た。

「何だよ、急に」

「別に。ちょっと聞いてみただけ」

「ふ〜ん。キスねぇ……俺、まだやった事ねぇや。魔狼はどうだ?」

「ないに決まってるでしょ」

キスをしたことがない―――しょうくんはそう言った。まぁ予想通りだった。
ちょっと安心した僕がここにいた。なぜ安心したのか、僕はよく分からなかった。

「でもさ、いつか出来たらいいよな。まぁ俺が本気出せば、キスの1つや2つ楽勝だ!」

「そうだね。しょうくんなら、絶対できるよ」

 しょうくんの初めてのキス―――つまり、ファーストキスかぁ。一体どんな人が、しょうくんのファーストキスを貰うのかな。しょうくんの言う通り、彼が本気を出せばキスをする日もそんなに遠くないはず。

“キスをした”

 いつか、しょうくんの口からその言葉を聞かされる日が来るのかな。

(いやだなぁ……)

 その瞬間、僕は考えるよりも体が先に動いた。僕より一歩前を歩くしょうくんの腕を掴む。彼が振り向くと、僕は少し背伸びをして、彼の胸倉を掴んだ。
 
そして僕は、彼にキスをした―――。



 ファーストキスの味はレモン味―――そう言った人は嘘つきだ。レモン味なんてしない。しいて言うなら、彼が食べていたのであろうリンゴ飴の味がした。

(甘いなぁ……)

 強引にしょうくんの口の中に舌を入れる。無理やり彼の舌と絡めさせる。時々、身体がビクッと震えるしょうくんが、可愛いと思った。

「ま、ろ……んっ」

 お互い初めてのキス。初めてやってみたけど、上手くいくものなんだねと思った。でも苦しくなって来たし、そろそろ離そう……そう思った時だ。

「っ!?」

 痛みが走った。慌ててしょうくんから口を放すと、口の中が血の味がした。少し口から血が流れた。しょうくんに舌を噛まれたってすぐに分かった。しょうくんの顔を見ようとすると、しょうくんは思いっきり僕の頬を殴った。初めてしょうくんから殴られた。すごく痛い……ここで、僕は我に返った。
 しょうくんは少し呼吸を落ち着かせて、口を開いた。

「お前、何やってんだよ……冗談にしても、笑えねぇよ」

 何やってるの……か。それは僕も知りたいよ。でもしょうくんが、誰かと、僕以外の誰かとキスをすると想像したら、体が勝手に動いたんだ。
悲しくなった。それはしょうくんに殴られた事じゃなく、拒絶されたからではなく、しょうくんが誰かと“キス”をすることを想像したから。



「……ごめんね」

「お前が、どんな気持ちかは知らねぇけど、俺は、お前を“友達”として見て来た……それ以上も、それ以下もねぇよ。だから、お前の気持ちには答えられねぇ」

 知ってるよ。
 僕もしょうくんを“友達”として見て来た。それ以上もそれ以下の感情はなかった。君は僕の憧れで、僕の大事な友達だ。それは今も同じだよ。同じだった……。

「気持ち悪いんだよ……」

 彼がボソッと呟く。彼の言葉はちゃんと僕の耳にも届いた。僕は彼の顔を見る事が出来なかった。
 しょうくんは僕に背を向けた。

「……じゃあな」

 彼はそう言い残し、歩いて行った。僕はその場から動かずにいた。動けなかった。その時、ボロボロと涙が流れだした。
 別に、しょうくんに拒絶されから泣いてる訳じゃない。しょうくんにキスをしたことを後悔してるわけじゃない。頬が痛くて泣いてるわけじゃない。正直、泣いている理由が分からない。分からないのに、涙が出てくる。

 しょうくんに殴られた頬より、心がすごく痛かった―――。


 END


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