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椋×水鈴

 俺にとって先輩は『完璧』で『憧れ』の人だった。だったという表現は少し、語弊があるもしれない。今でも、先輩は憧れの的で、俺の手が届かないような完璧な存在だ。けれど、そんな先輩――水鈴さんにも、隙がある。
 テレビを前に、コントローラーを握る水鈴さんの背中を見る。今作は今までと操作性が違い、戦闘がターン制ではない。判断力や記憶力は申し分ないどころか、俺よりも優れている水鈴さんだが、細かい操作や反射的なアクションは不得手だ。実戦ならともかく、ゲームとなると、水鈴さんはどうにももたついてしまうらしい。そういうところも、俺からすると可愛いところだと思うわけだが、本人に言えば首を傾げられてしまうのだろう。
 普段なら水鈴さんのデータを用意するところ、今回は俺のデータで遊んでもらっている。最初は遠慮がちにしていた水鈴さんも、俺が「コーヒーを淹れている間代わりに」とコントローラーを渡したら素直に受け取ってくれた。
 水鈴さんがお気に入りのキャラクターは今作にはいないため、代わりの子を外に出して、マップ内を歩き回ることにしたらしい。ああいう、自分の後をついて回るというのが好きなのだろうか。水鈴さん、面倒見いいもんな。
 もう少しだけ、純粋にゲームをしている恋人の姿を楽しみたくて、俺はテーブルに軽く腰をかけて眺めることに決める。水鈴さんのことだから、俺がわざと声をかけていないことにも気付いてるかもしれないけれど。

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