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言われるがまま、百式とともにホールへ向かう。ホール中央に設置された円卓には、隊員たちのほぼ全員が静かに座っていた。それだけでものすごい圧を感じるし、雰囲気が重苦しい。
「ガンダム、お前はこっちだ」
空いていた場所に適当に座ろうとしたところを、ガルマザクに手招きされる。大将の左側に座れと言うのだ。
「え、いや、オレはここでいいよ」
「お前は今回の話の中心になる。ここだ」
強く言われ、覚悟を決めて座ると、隣にいるメタスが「ごめんね、私が頼んだの」と耳打ちしてくる。視線を感じてそちらを見やると、少し離れた席にいるゼータがじっとこちらを見つめて、頷いた。やはり、この二機は何かを知っているようだ。
「今回集まってもらったのは、∀についてだ。ウイングゼロ、シャアザク、バンシィ、ユニコーンは哨戒を続けているため欠席とする。じゃあまずは∀の現状報告から、サザビー」
名指しされ、サザビーが立ち上がる。
「∀は今、電源が落ちている状態です。オーバーヒートが原因と思われますが、特定には至っていません」
「スリープモードじゃなくて、電源が落ちたのか」
ガンダムはとっさに机に手をついて、立ち上がりたいのをなんとか押さえ込み、サザビーの顔を見やった。
「オレがいた時はまだ意識があったはずだ。急に、なんで」
「その後に落ちた。今はヅダが側について、再起動させているよ」
クラ、と視界が揺れる。隣に座る大将の顔を見るが、彼は首を横に振った。
「∀の元に行きたい気持ちは分かるが、今はダメだ。会議が終わるまで待ってくれ」
その回答に肩の力が抜け、サザビーの「報告を続けます」という声を、静かに聞く。
「∀のストレージ内から出処不明のデータが発見されています。抽出および分析を試みましたが、電源が落ちたため、抽出できませんでした。ヅダが再度、∀の起動とデータの確認を試みています」
それを聞いたメタスが「やっぱり」とつぶやいたのを、ガンダムは聞き逃さなかった。メタスの腕をつついて、できるだけ小声で「どういうことだ」と聞いてみる。
「会議が終わったらちゃんと説明するから、もうちょっと待って」
大将にも、メタスにも待てと言われてしまった。頭の上でばかり会話が進んでいるようで、やきもきする。
「大将、∀に関して一つ報告があります」
手を挙げたのはジ・オだった。大将が「なんだ」と聞くと、彼は立ち上がり、「∀のエネルギー補給頻度についてです」と切り出してきた。
「ここ一週間、∀は毎日エネルギーの補給をしていました。そのデータを処理するためにエネルギーを使っていたのかと推測されます。本人に自覚がなかったことを踏まえると、そのデータはバグか、ウイルスの可能性を考慮するべきかと」
「だが、憶測で物事を進めるわけには」
「分かっています」
ピリピリとした空気が、ホール全体を包む。一機の機体の運命が掛かっている以上、無意味な会議はできない。大将が小さく唸ると、「違う」という誰かの声がホールに響いた。同じ声の主が、サザビーを呼ぶ。
「∀の内部ストレージの出処不明のデータの名前、CかChってやつでしょ」
「ちょっ、ちょっと待ってゼータ」
驚いたように立ち上がったメタスが、ゼータを制する。だが、それを無視する形でサザビーが「そうだ」と続けた。
「データを表示した時、確かChって名前だった。何か知っているのか、ゼータ」
ゼータは、「やっぱり」とつぶやいて、ゆっくりと深呼吸をする。メタスが「言うのはまだ早いよ」と制するが、彼は首を横に振った。
「いや、もう時間がないと思う。∀、妊娠してる」
ゼータの言葉に、メタスが頭を抱え、ホールにいる全員がどよめいた。その中で一番驚いていたのは、他の誰でもない、ガンダムだった。あまりの衝撃に、ひっくり返りそうになる。
「にっ、にんっ!? え? なんで、え!?」
「その様子だと、メタスも気付いていたんだね」
「さっき、∀の様子を見に行ったときにね。でも、このことは……」
「こうなった以上は仕方ないよ」
二機だけで話が進みそうなところで待ったをかけたのは、ガルマザクだった。
「わたしたちを置いていかないでくれ。わかるように説明してほしい。まず、妊娠というのは確かなのか」
「そのChっていう名前のデータが確たる証拠だよ。前兆はあったから気にしてはいたけど、まさかそんなに大きくなっていたとは思わなかった。メタス、ちょっと頼んでもいいかな」
「うー、分かった。確か、ゼータの部屋にいたよね。大将、ちょっと抜けます」
バタバタと慌てたようにホールを出て行ったかと思いきや、メタスは脇に何かを抱えてすぐに戻ってくる。
「順を追ってちゃんと説明したいけど、あまり時間もないから、さわりだけでもいいかな」
ガシャ、と一機の小さなモビルスーツが円卓に置かれる。
「SDの……ガンダム? 今朝、ゼータが言ってた子か」
「さっき一旦完成させた。この子には、まだAIを入れてない。本当は、これから先改造しようと思ってたけど」
「それじゃ、間に合わないかもしれない」
時間がない、間に合わない。さっきからゼータもメタスもかなりの焦りが見える。まるで、このままだと問題が起きるような口ぶりで話している。
「お前ら……この子で、なにをするつもりなんだ」
「∀の中に発生したChデータをこの子に移行させる。そして、この子の中でChデータを完成させる」
メタスが「ゼータ、それじゃ」と、彼の言葉を遮る。
「ここでやるしかないよ。この間にも、∀のストレージを圧迫させているはずなんだ。時間がない」
そう返されて、「そんな……」とメタスは声を失った。
ストレージ────記憶領域は、その名の通り、モビルスーツの全ての記憶を司る。簡単に言えば、ストレージのデータが消えた場合、人間で言うところの記憶喪失となる。そしてもし、記憶装置の全てのデータが消えてしまった場合、∀は、∀ではなくなる。
「妊娠したデータを、∀から取り出す……」
寡黙なバルバトスが、おもむろに口を開く。
「つまりそれは……出産、ということか」
バルバトスの言葉に、ホールの中が凍りつく。そんなこと、誰もやったことがないし、聞いたこともなかった。
「か……固まってる場合じゃない! とにかく、その子を連れて∀の元へ行こう!」
ガンダムは立ち上がり、SDのガンダムを脇に抱え込むと、ホールを飛び出して格納庫へ駆け込んだ。周りの隊員たちもバタバタついてきて、∀の横でディスプレイを見つめていたヅダが「なんだなんだ」と思わず腰を浮かせる。
「なにをすればいい、ゼータ!」
「まずChデータの確認がしたい、∀のストレージ内を可視化したいんだけど」
ヅダが「それなら」と言うと、全員が一斉にヅダを見る。その気迫に気圧されつつも、目の前のディスプレイを指し示す。
「こ、このまま∀が起動すれば直接ディスプレイに映し出される、が」
ベッドに寝かせられた∀のコネクタには、多数のコードが接続されていた。
「つまり、∀が起きなきゃ分からないってことか」
「∀を起こすにはどうしたら」
「たたけば?」
「リーオーみたいな見た目ならやってたな」
「下手に叩いてエラーでも吐いたら」
「∀だしそんな軟弱でもないっスよ」
「軟弱者! ってか?」
「お前ら一斉に喋るな」
「誰が何を言っているのか分からん」
「機体が多すぎるわ。みんな、一旦ここから出ましょう」
メタスが他の機体たちを格納庫から誘導しているうちに、ディスプレイが突然明るくなって、∀のストレージを示す。
「うるさいなあ、なに?」
「起きたのか、∀!」