えんがわ



お父さんはお母さんの話をするとき凄く優しい顔で話すの。私の頭をなでながら、お前を産んだ俺の嫁はなって。今の私にはお母さんが3人いる。でも、私を産んでくれたお母さんがもう一人いた。私を産んで死んじゃったから会った事はないけど私はお母さんにそっくりなんだってお父さんが頬っぺたを撫でながら教えてくれた。


「お前は本当になまえに似てる」
「お母さんも髪がまっしろだったの?」
「ああ、性格も派手に似てるな」
「どんな人だったの?」
「お前みたいに派手にぶっ飛んでたな」
「いぇーい!派手にぶっ飛ばすぞー!」


似てる似てるって笑ってくれるお父さん。本当にお母さんの事が大好きだったんだなって思う。だって凄い優しく笑ってるんだもん。



「あ、天元様!何はなしてるんですか?」
「おう、須磨。こいつになまえの事を話してたんだよ」
「なまえちゃん?なまえちゃんはね、料理はあんまり上手じゃなかったけど優しくて可愛くて、それに天元様みたいにとっても強かったんですよ!」
「お母さんも?」
「そう!だから二人がケンカした時とかもう、すごかったんですから!」
「えっ、お父さんとお母さんもケンカしたの?」
「まあ、一度二度しかないがな」


生前、任務中の宇髄に次の仕事が家に届いた事があった。それをなまえが受け取り、これだったら自分1人でも大丈夫だと勝手に受け、怪我をして帰ってきたことがある。



「お、まえ、その傷どうしたんだよ」
「ええと、み、民間人救助の…」
「俺は言ったはずだ。俺が一番大事なのはお前らだって。忘れてねぇよな?」
「わかってるよ」
「わかってねぇよ。んな傷作ってんだからな」
「…やだやだ、こんな雰囲気」
「いやダメだ。今回はわかるまで付き合ってもらうぜ」

手を振ってなまえは通りすぎようとしたが宇髄に腕を捕まれいつもより幾分か低い声で名前を呼ばれる。
ぱしっと音を立ててなまえは宇髄の手を払う。



「やだ」
「おい、随分好戦的だな」
「話すより拳の方が今はわかるんじゃない?」


普段、殺伐とした雰囲気を好まないなまえが宇髄にピシャリと言われてから、目の色を変え眉をひそめる。周りにいた須磨たちも何か危ないものを感じたのか、おろおろと行き場のなくした手を前に出していた。

久しぶりに体を名一杯動かしたいしね。

そう、呟いて宇髄となまえは裏山に姿を消した。そして、二人が戻ってきたのは二日後。二人ともボロボロの姿になって戻ってきた。最初の腕の傷どころの話ではなかった。全身痣だらけ、須磨たちはすぐにかけより手当てをするために家まで連れ戻した。



「こわ…」
「本当にどうしようかと思いましたよぉ」
「まあ、一番派手なケンカだったからな」
「仲直りできたの?」
「ああ、その晩にはもう一緒に寝てたな。しかし、あそこまで派手に怒っていたなまえは初めてだったな」
「そうですね」


ああ、でも……と須磨が口から出した言葉に宇髄は身を固めた。

なまえとの間の子はその後、須磨に連れられて遊びに外へと向かった。その様子を縁側から眺める。
本当ならあいつとこの光景を見ていたはずだ。あんなに二人で育てようと言ってたのに、全くわかってねぇな。まあ、ケンカでも何でも結局は俺が折れて終わるんだけどな。



「なまえらしいな」

なまえの最期の言葉を今でも覚えている。あの時のケンカ最中でも言われたあの言葉。



「ねぇ、天ちゃん」
「なんだよ」
「わたしね、幸せだよ。赤ちゃん抱っこ出来たし」
「そうか。俺もお前に会えて幸せだ」
「ふふふ、天ちゃん」

布団に寝たきりのなまえの手を掴む。それに安心したのか、頬を緩めて笑った。


「つぎ、湿っぽくなったら、ぶっ叩くからね」

そういって、俺の頬に軽く手を当ててなまえは俺と赤ん坊を置いていった。



「最期まで敵わねぇな、嫁さんには」




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