いい子

「ちょっと、宇髄先生。どうするんですか?」
「派手にやらかしたな」

本当に困った。こんな、好きな先生と体育倉庫に閉じ込められるとかどんな恋愛マンガですか。そんなに恋愛マンガなんて読んだことないですけれど。

そもそもこんな事になってしまった原因は今、隣にいるこの先生のせいである。



「明日、弁当作ってこいよ」
「いきなりですね」
「彼女の弁当食いたい」
「そういう言い方ずるいなぁ」

大人の、いや、恋人の特権だろって笑う先生は本当にずるいと思う。
私と先生はそういう関係で、学校にはもちろん内緒だから二人仲良くお弁当ってわけにもいかない。体育館倉庫なら誰も来ないからそこで渡してくれって言われていたので持ってきたのに…。で、お昼、すでに倉庫の中で待っていた先生にお弁当を渡せば今日も平和に過ごせたのに。



「なんでこんな校舎から遠い倉庫に荷物なんか持ってこなきゃかな」
「まあまあ、早く戻って飯くおうぜ」
「おう」


誰も来ないはずの倉庫にこんなに会話が聞こえてきたんですよ。だから、先生と身を潜めてたんです。足音も遠ざかって良かったと思ったら外からガチャリと重い金属の音が鳴り響く。



「せんせ?」
「おう」
「鍵持ってるんですよね?」
「おう、持ってるわけねぇだろ」


何で倉庫に場所を決めておいて鍵を持って来ないんですか。っていうか、どうやって開けたんですか……。
不満気に宇髄先生に視線を向けると自慢気な笑顔を返された。



「ピッキングが出来るからな!」
「えっそれいいんですか?」
「学生の頃って派手に憧れるだろ?こういうの。やったら案外簡単だったな」
「わぁ、教壇に立つ人ォ…」


でもよ。と、続けた宇髄先生は扉に指を指していた。目線をそちらへ向けると何の変哲のない扉がぴったりの閉まっている。そう、ぴったりと。


「先生?」
「なんだ?」
「鍵穴なくてもピッキングって出来るんですか?」
「できねぇな」

じゃあ、何で鍵もってこなかったんですか?
どうしても同じ質問が頭に浮かんでしまう。確かに今時にしては珍しい、あの、倉とかにありそうな錠前が外にありましたね。私も今時珍しいとしか、思いませんでしたけど!



「午後の授業始まっちゃうじゃないですか」
「まあ、俺は授業ないけどな」
「わたしは真面目でいい子なんです。授業サボったことなかったのに…」


成績もそこそこ上で、授業もサボったことはないし学校を休んだ事だってない。割りといい子でやって来たのになぁと思うと悔しくて少し目が潤んでくる。

それと、突然ですが、ここの倉庫には高い位置に窓があって、昔ながらの倉と言うような雰囲気が出ている。そんな高い位置にある窓から丁度光が指しているところに私はいた。それなのに、いきなり私の顔に影がさしたのだ。それはもう、突然。
気がついたら、目の前には宇髄先生の顔。口元には暖かくて柔らかい感触。



「いい子は先生とこんな関係にならないんだぜ」
「…先生も先生なのに生徒に手を出して悪い大人だと思います」

「強がんなって」

にっとした笑いをこぼして私の頭を撫でてくる先生は本当にずるい人だと思います。

先生の大きくて分厚い手は私の頬と腰あたりに添えられる。その行動で、なぜそうなったのかわからないけれど、先生がそういうモードになってしまったのを感じる。
いや、今真っ昼間ですよ?しかも学校ですよ?!腰に添えられた手を退かそうと自分の手を重ねるけれど、まあ、力が強いこと。


「おい、煽るなよ」
「どうしたらそう思えるんですか?!」

先生の口元は私の首もとにあって見えない。しかし、声が笑っていたので絶対にえっちな顔で笑ってる。わかる。
それよりもどうやってこの人を止めるかを考えなければ。


「っひ…んぁや…だ」
「声は抑えろよ」

あーーーっ耳元で喋らないで笑わないで舐めないで下さい!!止める方法を考えたいのに、先生のする行動が一々、頭のなかを掻き乱してくる。


「先生っやだっ」
「誘うような声出してるのによく言うぜ」
「だっ、だって……が、我慢出来なくなっちゃうから、やだ!」

「ーーっ!……お、ま、え、なっ!」


さっきまで頬に優しく添えられていた手は私の頬を鷲掴みにしていた。今、絶対へんな顔だ。因みに先生の顔も笑ってるのか怒っているのかよくわからない顔だ。



「それ、派手に!逆効果だからな!」
「いふぃ、わかりゃんでふ」
「地味に天然だよな、お前」


とりあえず、あの雰囲気は一旦落ち着いたみたいなので先生の手をペシペシと叩く。
きっと、そろそろ昼休みが終わる時間だ。本気で外に出たい。神様お願いします。

そう、思った瞬間。扉の外からガチャリとまた重たい金属音が聞こえた。



「あ!よかったー!なまえこんなところでどうしたんだ?宇髄先生も?」
「た、たんじろーーっ!」


神様って本当にいたんですね!!扉を開けてくれた炭治郎に駆け寄って手を握る。ありがとう!!と言いながらブンブンと手を振る私に炭治郎は教科書返しに行ったのに何処にもいなくて。と。
そういえば前の授業で貸してた事を思い出す。彼は鼻がいいから匂いを頼ってここまで来てくれたんだろう。



「なんで倉庫に?」
「ああ、宇髄先生が」
「部活で板が必要だったからな。荷物持ちだ」
「それなら俺が持ちますよ!力仕事なら任せて下さい!」


なんていい子何だろう。
宇髄先生がそれなら奥にある板取ってきてくれって言ったら元気良く返事をして取りに行く炭治郎。
しれっと私の持っていたお弁当を自分の懐に抱え込む先生にため息をついて見ると口元に人差し指を置いて微笑まれた。



「私を悪い子にした責任とってくださいね」
「はは、上等上等」



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