間が悪い




他人が私たちの事を見た時、私と彼の間には言葉が少ないと思われる事が多い。


「ゆーちゃん」
「……」

私が目を合わせて彼の右を見ると彼はすぐに刀を構え後ろから迫って来ていた鬼の首を落とす。その間、私は血鬼術で産み出されていた複製の鬼の首をはねる。
さらさらと消えていく鬼。


「す、凄いですね!どうしたらあんな動きができるんてすか?!」
「鍛練だよ、炭治郎くん」
「………」
「義勇さん?」
「はいはーい、あの呼び方はするなってことでしょ」
「…」
「炭治郎くん、夕ご飯食べに行こうってさ」
「え、はい!」


スタスタと歩いて行ってしまう冨岡の後ろを二人で歩く。
炭治郎は兄弟子二人を見ながら不思議に思っていた。何故片方が無言なのに会話が出来ているのだろうと。



「なまえさんは義勇さんとどのくらい一緒にいるんですか?」
「鱗滝さんのところで修行してた時からだよ!」
「じゃあ、錆兎とも一緒に修行してたんですね!」
「……錆兎の事、知ってたんだね」
「はい!」
「私ね、錆兎の妹なんだ」
「…えっ?!」

確かになまえの髪色は錆兎と同じ宍色の髪をしている。それに錆兎はあまり笑った顔を見せなかったが、表情がそっくりだ。

夜でも開いていた出店に禰豆子も合わせて4人で腰を掛けうどんを食べる。その間も義勇さんは無言でなまえさんの方をちらっと見るとなまえさんは七味を義勇さんに渡していた。もしかして、義勇さんの声が俺だけ聞こえないのではないかと思える行動を連発するなまえさん。
家でもこんな感じなのかな…あ…。




「あと、もうひとつ聞いてもいいですか?」
「なーに?」
「なまえさんと義勇さんってお付き合いされてるんですか?」
「ーっ」
「あー、ゆーちゃん汚い」


俺の言葉に口から飲み込めなかったうどんをこぼす義勇さん。なまえさんは手拭いを取り出して義勇さんに渡していた。



「だ、大丈夫ですか?」
「…ああ」
「ゆーちゃんとは家族だよ。そういうのはないかな」
「…………」


ぎ、義勇さん。今は義勇さんの気持ちがわかります…。義勇さんから凄く落ち込んでるような諦めの様な匂いがするので!女の子から嫌がられた善逸と似たような匂いがする。



「義勇さんは」
「炭治郎、うどんが冷める」
「あっはい!」


横を見たら義勇さんもなまえさんもうどんを食べ終わっていた。あと、義勇さんの視線が痛い。ちょっと怒ってるような。


「ご馳走様でした!」
「じゃあ、家行こうか!ここからなら家が近いから炭治郎くん泊まっていきなよ。疲れてるでしょ」
「いいんですか?」
「大丈夫だよね、ゆーちゃん」
「………」
「いいって!」
「歓迎されてる匂いはしないんですが」
「大丈夫って、なんか知らないけどちょっと機嫌悪いだけだから」


なまえさんに手を引かれて行こうと促されるので、お言葉に甘えようと思う。義勇さんは1人先に歩いて行ってしまっているが、なまえさんの言うようにあまり機嫌がいい感じはしない。

まだ夜も明けてないので禰豆子もなまえさんに手を引かれて歩いている。

家に付いてからもなまえさんは一緒にお風呂に入ろう!と禰豆子を連れて先に行ってしまう。俺と義勇さんは部屋で待っているのだけれど、義勇さんの機嫌があまり良くない。



「……炭治郎、お前は恐らく気がついたんだろうがあいつはそれを望んでない。黙っていろ」

…な、なんだろう?何を黙ってればいいんだろう。あいつって言うのはなまえさんだと思う。けど、話が突然すぎて義勇さんの言葉の全てを理解できない。


「なまえは、今の関係を続けていくつもりだ」
「あっ…」

出店の時の事か。



「義勇さんはなまえさんが好きなんですよね?」
「………」
「なまえさんの気持ちは聞いたんですか?」
「…さっき、お前も聞いただろ。それにあいつは親友の妹だ」
「でも…っ」


これは言ってもいいのかな。なまえさんが何であんな風に言ったのかわからないけれど、あの時なまえさんから漂ってきた匂いは…。



「やだ、恋ばな中だった?ごめんね。お風呂あいたからどうぞ」
「「………」」


なんて間が悪い。なまえさんも禰豆子も帰ってくるのが早くないか?

あ、ああ…義勇さんから絶望的な匂いが…。



「風呂に…行く」
「はーい、いってらっしゃい」


なんでなまえさんは普通なんだろ。義勇さんの後ろを姿が居たたまれない。なまえさんはお客さんなのに最後にしちゃってごめんねーと明るい声を出していたが…


「なまえさん、顔が…」
「やだなぁ、みっともないところ見られちゃった」

なまえさんの顔の赤みはきっとお風呂上がりだからではない。甘くて、少しだけ苦い香りがなまえさんを包んでる。

なまえさんはお茶を用意してくれて、禰豆子を構いながら話をしてくれた。



「炭治郎くんは匂いでもわかっちゃうんだもんねぇ」
「……なまえさんも義勇さんが好きなんですか?」
「好きだよ」
「じゃあ、なんで!義勇さん、あんなに落ち込んで……」

俺がそういうとなまえさんは困ったように笑っていて、苦い匂いが強くなった。



「ゆーちゃんには申し訳ないと思ってる」
「…何か不安な事があるんですよね」


本当にばれちゃうんだ…と言って結っていた禰豆子の髪から手を離すと、片手で口元を隠すなまえさん。



「ゆーちゃんの事はずっと前から好きだったよ。でも、恋人になったらどう接していいかわからなくなっちゃいそうで…戸惑ってる内に捨てられちゃいそうだなって」


べちゃっ



「「「……………」」」


だから、間。間が悪いですって。みんなしてお風呂、早くないか。髪を拭いていたタオルが廊下に落ちている。義勇さんは固まり目を見開いてこちらを、なまえさんを見ている。
この雰囲気どうにかしたいけれど、でも、俺がいたら義勇さんもなまえさんもちゃんと話せない。
ゆっくりと、立ち上がり禰豆子を箱の方へやると大人しく入っていく。



「お、れは…お風呂頂きますね。禰豆子も力を使ったから疲れただろう?箱で少しお休み」


ああ、俺が上がる時にはいい関係になってるといいな。




「間、が、悪すぎない?」
「……お前」
「ごめん、ごめん。混乱させるような事、言っちゃって!家族としての好きって思ってくれれば…」

「お前は隠し事をする時、頬に手を添える癖がある」


冨岡が言った通り、なまえの頬には今、手が添えられている。ギクリと、心の中が穏やかではなあなまえはどうやって乗りきろうかと頭を使おうとするが、衝撃が強すぎて上手く回ってはくれないようだ。頭を悩ませている間にも冨岡はなまえに近づき、肩を掴むまでに至った。



「俺が」
「ゆ、ゆーちゃん?」
「俺が、お前を捨てるはずないだろ!」


久しぶりに冨岡のこんな大きな声を聞いたなと、的はずれなことを考えてしまう。
これ以上、冨岡の言葉を聞いてしまえば二度と元には戻れない。けれど、今までにも感じていた彼の家族以上の想い。見て見ぬふりを演じていたけれど、今の彼を見たらもう無理だと感じた。こんなに、熱い想いのこもった彼を見てしまっては。もう、進むしかないんだ。



「ゆーちゃん、私…」
「錆兎から任されたお前を…こんなにも慕っている大切なお前を、俺が捨てるわけがないだろ」


ああ、私も好きです。
目を見ればお互いの事はわかるけれど、大切なことはちゃんと口にしてくれる貴方が好き。



「ゆーちゃん、好きです」
「ああ、ずっと側にいろ」


ぎゅっと、今まで以上に近い距離に少しドキドキする。でも、もう少しこのままでいたい。やっと、本当の意味で側に寄り添う事が出来たのだから。




「義勇さん、お風呂ありーーーーっーーはぁっ?!し、しつ、失礼しましたっ!!!!!」

「「………」」




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