ばかたれ

善逸は今までにないほどの衝撃を受けていた。周りで善逸の名を呼ぶ声がいくつもあるが当の本人には聞こえていない。
それというのも、原因は彼の姉であるなまえの一言からはじまったのだ。



「善逸、私結婚するから」
「………ん"あ"っ?!」


何をするにも一緒についてきてくれていた姉が結婚をする。結婚…??結婚ってなんだ?突然、任務から帰ってきて俺に会いに来て、結婚報告?任務行ってたんじゃねぇのかよ。

放心している俺の肩をバンバンと叩いてくる伊之助。痛いからやめてくれ。俺は今、俺の姉がまたふざけて冗談を言っているんじゃないか見抜こうとしてるんだ。なまえから聞こえてくる音は嘘をついている音はしない。ってことは本当に……。



「あ、へー、へー………いつ?いつそんな相手できたのっあ?!俺を差し置いて!!!ってか付き合ってたのも俺しらないし!どういうこと?!!!!!」
「お、落ち着け善逸」
「うるせぇぞ紋逸!!」
「善逸だばかっ!!!」
「仲良しだねぇ」


ちげぇよ!!と口に出してもこの姉は笑ってまた同じことをいうのだ。
なまえに掴みかかって体を揺らすがヘラヘラと笑ったまま。核心的な事は口にしない。



「まあ、私も付き合ってたの知らなかったから」
「自分の事だろ?!?!つか、誰だよ!!!そのへんのボンクラ男になんて嫁いだら許さないからなっ!!!」

「じゃあ、大丈夫だね」
「は?なんでだよ」
「嫁に貰うのが俺だからな」
「………………………」
「あ、宇髄さん!…え、宇髄さん?」
「いぎゃぁあああああああああああっ!!!!なにが?!!!大丈夫だよっ!!!!!!!」


喉と耳がつぶれるくらい叫んだ。

頭をぶっ叩かれ、落ち着きが戻ってくるかなって思ったんだけど、気にくわないあいつの顔を見てまた発狂しそうになる。なんで寄りにもよってあいつなの?!ねぇちゃん!?!?その男すでに嫁3人もいるんだよ!!わかってる!!?
なまえの顔を確認しようかと思い、視線を向けると困ったように笑いながらあいつと腕を組む姉がいた。



「んっぎゃぁああああっ」
「善逸、あんまり騒いじゃダメだよ」
「そうだぞ。おら、お兄さんって呼べよ」
「呼ぶかっ!!!ばかたれ!!!!!」


どういうことだ。いつ、姉はこの男と会っていたんだろうか。初めて会ったのは遊郭の時だ。しかし、潜入の時は普通だったと思う。その後?その後って、蝶屋敷で治療してたはず…。いや、なまえは俺たちより早く復帰して任務に行っていた。まさか、その時に?




「いや、まっ待って……あ、あのさ…どっちから言ったの?」


この男から言い寄られたらきっと、自分の姉は押し負けてしまう。そう、押しに弱いのだ。自分の姉は。だから、こんな派手男に迫られたらなまえは首を縦に降るしか出来なくなる。きっと、今だって本当は……。



「私からだよ」
「お前からかよ!!!」


なんでだよぉ。こいつ嫁3人いるんだぞぉ……。そ、そうだ。嫁が3人いるんだぞ?!そのお嫁さん達は今回のこの話を許してるのかっ?!



「須磨たちなら大歓迎だってよ」
「お料理とかお裁縫を教える内に仲良くなったんだよね」


この対人力高い姉がっ!!
打ちのめされている俺の肩に炭治郎が優しく手をおく。



「善逸、まずはお祝いの言葉をあげなきゃ。なまえさんは善逸にお祝いの言葉が欲しくて今日来たんじゃないのか?」

「た、炭治郎………お前だって禰豆子ちゃんが何の前触れもなく結婚するって言ったら混乱するだろ」

「………あ、相手は?」
「ほらぁっ!!!!!」


炭治郎も少し考えた後に、怖い顔で返事をする。やっぱり炭治郎だって兄妹がいきなり結婚するなんて言ったらそうなるだろ!!



「しょうがないなぁ。善逸、こっちおいで。二人で話をしよう」


そういってみんなから離れていくなまえに俺も後ろについていく。見えないところまでくると、草の上に座って自分の隣をポンポンと叩いている。言う通りにゆっくり隣に腰を掛ける。



「本当にアイツでいいの…?他にお嫁さんたちもいるのにさ」
「まあ、好きになっちゃったからさ。まきをさんたちも可愛がってくれるし」


落ち着いて聞いても、やっぱりなまえの意見は変わらない。そう思うと手が勝手になまえに伸びていた。ぎゅっと抱きつくとなまえはわかっていたように俺の背中に手を回してくれる。


「…………俺を1人にするのかよ」
「そんな寂しそうな声出さないでよ」


死んで会えなくなるわけじゃないしって言うけど、今までずっと一緒だったんだ。親の代わりに沢山、俺を愛してくれて俺が借金まみれになったときは凄いぶっ叩かれたけど、俺を見捨てることはなかった。じぃちゃんのとこに行った時も最終選別の時も、ずっと一緒だったのに。



「ねぇちゃん」
「善逸はもう1人じゃないじゃん。私の代わりにぶん殴ってくれる友達がいるでしょ」

「……俺はいいんだ。ねぇちゃんだよ。ちゃんと幸せになれる?」
「善逸は相変わらず優しいね。うん、幸せだよ」
「安心しな、善逸。それに、そんなに寂しいなら俺の家を第2の実家だと思ってもいいぜ」
「……………」


なまえに抱きついているといつの間にか俺ごと姉を抱き込んでいるアイツがいた。勢いよく振り替えると思った以上に近くにいたので押して姉から体を離す。



「抱きつくなっ!なまえの事を泣かせたら許さないからな!!」
「惚れた女は大事にするって決めてるからな」
「大事にすると泣かせないは違う!!」
「!」
「へぇ、派手に言うようになったじゃねぇか」


俺をなまえから引き剥がすと真っ正面から顔を合わせる様に俺の顔を掴んでくる。



「心配すんな。お前のねぇちゃんは絶対ぇ幸せにしてやる。まあ、泣かせることはあるかもしれねぇけど」
「なっ!?」
「嬉し泣きでな」
「〜〜〜っ!!!やっぱりお前嫌いっ!!!!!」


ねぇちゃんが幸せならいいかなって思ったけど……
絶対に邪魔しに行ってやる!!!


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