「なんでてめぇら腕組んでんだよォ…あ?」
「あ、実ちゃん!義勇さん、お兄ちゃんです」
「俺に兄妹はいねぇ!!」
「………おにいさん」
「ん"あ"っ!?テメェは違ェだろ!!!!!!」
今、騒がしいここは町に近い藤の紋の家。町に近いだけあって任務から帰ってきた隊士。これから任務にいく隊士と、利用が多い。
そこで出会ってしまったのが不死川実弥と冨岡義勇、そして不死川の妹のなまえだ。
状況としては、風呂上がりの冨岡に同じく風呂上がりのなまえが腕を絡めて密着して廊下を歩いていたところにおにいちゃん登場。他人から見れば修羅場である。
「質問に答えろ」
「…兄でないなら答える必要は…「夫婦なので!」………」
「…………夫婦だァ?」
久しぶりに見たアイツは前よりでかくなっていて、体つきなんかも女になっていた。男の冨岡と並んで立っていると女という感じが一層強まっている。
「いいから、離れろ!鬱陶しいんだよォ!!」
「いいじゃん!実ちゃんにも報告したかったんだけど、中々会えなくてねぇ」
「うるせェ。お前に報告される必要はねェいいからそいつから離れろ」
「玄ちゃんに報告した時は顔を真っ赤にして可愛かったのに」
「うるせェ!!とにかく離れろっつてんだよ!!!」
おかしな事を言っている自覚はある。関係ない、必要ないと言うがこいつが冨岡とくっついているのが並んでいるのが気にくわない。
その矛盾が自分でわかっているからこそ、余計にイライラが積もっていく。
「落ち着け」
「てめェもしれっと肩抱いてんじゃねェ」
近づいて引きはがそうすると冨岡の野郎はなまえの肩に手をおいて自分の方に引き寄せる。まるで俺から遠ざける様に。
「義勇さん?」
「なまえが作る鮭大根は美味い」
「は?」
「それに、なまえといると……いや、お前には必要ない話だった」
「そこまで言って止めんじゃねェよ!!!」
いきなり脈絡のない話をし始めたかと思うといきなり話を止める。本当にコイツは俺を怒らせる天才かよ。
「ねぇ、義勇さん……安心する。ですよね?」
「あぁ」
「うぜぇえっ!!目の前で引っ付いてんじゃねェよ!!!お前ェも、んな陰気くせぇ奴と一緒にいると陰気が移んぞ!こいつの何処がいいのか理解できねぇな!」
俺の苛立ちが限界を超え、口を開くとなまえの目の色が変わり、俺を見る。それはたまに見る自分の顔によく似ていた。
「おい…お兄。義勇さんの悪口言わないでくんない?」
「んだ?やるかよ。やられんの目に見えてるのに馬鹿な奴だな」
「ぶっころす」
冨岡の腕から離れたなまえは足首を回しながらこちらへ向かってくる。そうだな、前から足技が得意だったなコイツは。飛んでくるであろう足技を受け流す為に構えをとるが、アイツの後ろにいた冨岡がなまえの名前を呼ぶ。
「なまえ」
「…なぁに?」
「いつも付けている髪飾りはどうした?」
「……あっ!お、落としたかな…?脱衣所だ!ちょっと待ってね、取ってくるから!」
「ああ、構わない」
機嫌が悪そうに冨岡に返事をしたが、頭に手を乗せられるとなまえの眉間からはシワが減り、更に髪を撫でられると完全にアイツからは負の感情はなくなっていた。
そして、髪飾りの事を指摘されるとサッと顔を青くしてこの場から1人いなくなる。
冨岡と二人にするとか頭湧いてんのか?
「…出会った頃から、付けてたあの髪飾りには……まだ勝てたことがない」
「は?」
「紫の牡丹と紅色の飾り紐が拵えてある」
「……」
紫の牡丹、赤の飾り紐。それはどれも身に覚えのあるものだ。
「兄から貰った、髪飾りにはまだ勝てた事がない」
「………柱のくせに、んなもんに負けてんじゃねぇよ」
「俺はそれでもいいと思う。なまえの大切な物も大切にしてやりたい」
「勝手にしてろ」
「いずれ俺が勝たせて貰うが」
「あ?」
アイツに視線を飛ばすとこちらを見ずにまた口を閉ざす。さっきまであんなにベラベラ喋ってたくせに、本当にムカつく奴だな。
「ごめんねー!お待たせしました!」
牡丹の髪飾りを頭に付けて、紅色の飾り紐を揺らしながらこちらに手を振って近寄ってくる。
ああ、アイツには藤色がよく似合う。
「よく似合ってる」
「ありがとう、義勇さん」
「弱い者同士かってにくたばってろ」
俺には言えない。あんな笑顔にすることは出来ない。俺にはできない。それなら…
「ありがとう、実ちゃん」
何を思って、その言葉が出てきたのかはわからない。けれど、背中を向けた俺は振り返る事が出来なかった。
きっと、アイツは笑っていたから。