かほご

「義勇さん、お話いいですか?」
「…なんだ?」

2週間ぶりに帰ってきた義勇さんの為にお風呂を沸かして、好物の鮭大根を用意して、一緒に座ってご飯を食べる。いただきますの挨拶をしてから義勇さんに話をふる。こういう風に話始めるのは珍しい事ではないんです。いつもの事なので流されるまでがいつもの光景。でも、今日はきっと驚いてくれる。



「なまえ、いつもより量が少ない気がするが」
「ごはんですか?継ぎ足しましょうか?」
「いや、お前のだ」

なんと、鋭い人ですね。


「今日はこのくらいでいいんです」
「そうか」

口ではそうかって言ってますが、あんまり納得してる様子ないですね。まあ、この話はおいておいても大丈夫なので、


「それより、義勇さん、少し驚かせてもいいですか?」
「…あまり、いや、なんだ?」

「私、赤ちゃんが出来たんです!」

そう言った途端に聞こえたカランカランと言う乾いた音。義勇さんの持っていた箸が落ちた音だ。大変、と思い立ち上がって義勇さんの元へ行くと視点がぐらつく。



「少し、どころじゃない」
「ぎ、義勇さん?」
「だいぶ、驚かされた」

私の視界には義勇さんがいつも身につけている羽織の柄が広がっていた。わー、久しぶりにこんなに近くにいるな。義勇さんの匂い、落ち着く。

やっと、動かせるようになった手を義勇さんがしてくれているように私も背に手を回す。



「何度も鎹烏を飛ばしただろ…何故、言わなかった?」
「お顔をみて、伝えたかったんです。どういったお顔を見せてくれるのかなと思いまして」

「…そうか、満足いく顔だったか?」

「うっ…はい…」

今の表情は、刺激が強い。一旦、体を離したかと思うと口元を緩めて私の頬に手を添えてきた義勇さん。驚いた顔も見たかったけど、これ。この表情は不意討ちですよ。


「なまえ、言葉足らずのこんな俺と添い遂げてくれると言ったお前にまだ何も返せていない。それなのに、お前はこんなに、俺に色んなものをくれる」

「いいえ!こんな素敵な、幸せを頂きました!」
「……」
「義勇さん。なまえは幸せですよ」

義勇さんの肩にすり寄って抱きつく。義勇さんの顔は見えないけど、添えてくれている手が暖かくて優しい。


「お前が幸せなら、俺も嬉しい」
「義勇さんが嬉しいなら私も嬉しいです」
「そうか」

暫く、幸せに浸りながら寄り添っていたので、ご飯が冷めてしまった。これは、申し訳ない。温めなおしますね。と言って立ち上がるが、肩を捕まれてしまう。


「いや、俺がやる」
「えっ、いいですよ」
「俺がやる。お前は座っていろ」

ん?なんだろ。ちょっと違和感があるんだけど、何に違和感を持ったのかわからない。まあ、こうなった義勇さんは何を言っても聞かないので、大人しく待つことにして、一緒にあたたかいご飯を食べた。


「ごちそうさまでした!」
「皿も俺が洗う」
「え、いいですよ。私がやります」
「座ってろ」

まただ。


「風呂の掃除もやっておく」
「朝食の下ごしらえも終えた」
「布団も敷いてある」

も、もしかして…。


「義勇さん、家事は女の仕事です。そんなにして頂かなくても大丈夫ですよ」
「…今は、体を大事に」
「そんな座ってばかりいたら私、豚になっちゃいますよ」

すごい、義勇さんこんなに、過保護になって。大事にされているのはわかるけど、どうしよう。家主にこんなことを続けされるわけにはいかないし、私も申し訳ない気持ちがすごい。


「しかし、」
「義勇さん、過保護過ぎですって」
「お前に何かあってからじゃ遅いんだ」
「ありがとうございます。でも、私も義勇さんに美味しいご飯を作りたいんです。お日様の匂いのする布団を、用意してあげたい。義勇さん、交代制にしましょう」
「しかし」
「義勇さん、じゃないとまた仕事場まで着いていっちゃいますよ?」
「………わかった」


一度、ケンカをしたことがある。すごい下らないことだったけど…。その時、怒った私はずっと義勇さんについて回って、鬼狩りの時まで着いていったことがある。それで、怒られてわんわん泣いた事がある。泣いた私に、義勇さんはそれはもう、困っていた。


「義勇さん、2人でこの子を育てていきましょうね」
「ああ。なまえ」
「なんですか?」
「夕飯は何がいい?」

わ、わかってないと思う。
しかし、優しく笑う義勇さんに私は何も言えなかった。


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