くわれる


「おいィ」

「ご、ご多忙な柱の方がこちらへいらっしゃるなんて、め、珍しいですね」
「んなこたァどうでもいいんだよ!!」


ひぇっなんでこんなに怒っているんだろう。一緒に任務に来ていたもう1人の隊員は先に戻ると言って、今日泊まる予定の藤の紋の家に向かった。完全に見捨てられた。くそぉ、鬼から守ってやったのに…。

彼の頭には今にもはち切れんばかりの血管が浮き出ている。


「し、不死川さん?どうなさったんですか?」
「惚けてんじゃねェよ!テメェさっきの奴とはどういう関係なんだよ」
「え」
「さっさと答えろ!烏から聞いてんだよ!」


え、じゃあ答える必要なくない?なんて事は言えない。だって凄い怒ってるし。
実は今のこの状況、彼の刀が私の顔のすぐ横に刺さっているのだ。たぶん、汗ではないものが、頬に伝っているから刀が頬を掠めたのだろう。また、傷が増えちゃったなぁ。


「特にないですが、強いて言うなら仲間ですか?」
「ふざけてんじゃねェよ!!」

えーーーっわかんないわかんないよ。だって彼とはこの任務始まってはじめましてだし、実は血の繋がった兄妹なんてそんな落ちもない。本当にわからない。分からなすぎて涙が出てくる。


「し、不死川さん…私、何かしましたか?すみません、本当にわからないんです…ごめん、なさい……」

ああ、情けない。あなたに心配されないくらい強くなるって言ったのにこんなことで涙をながしてしまうなんて。

暫く、沈黙が私たちの間に流れたが、ゆっくりと彼が話はじめてくれた。


「……お前、あの男と浮気してんだろ?」


は?………よく、声に出さなかった私。今の心でこぼれた間抜けな声。口から漏れていたら、絶対なぐられてた。は?じゃねーよって。


「いえ、してませんよ」
「烏が見てんだよお前らが抱き合って、口づけてるとこをな!」
「何ですか、それ。初耳ですが…あ」
「あ?心当たりでも見つかったかよ」

ええ、わかりました。


「不死川さん。それ、今回倒した鬼ですよ」

ギロリと睨んでくる不死川さんに今回の任務であったことを伝える。
今回の鬼は擬態が非常に上手い鬼だった。1人いなくなってしまった彼を探して見つけた先で彼は私と一緒にいたのだ。擬態で私の姿をした鬼と。


「私が駆けつける間にそんな事があったんですね」
「……」
「と、言うわけで私と彼は潔白ですよ」

あと、もうひとつ気になってしまったことがある。何やら大人しくなった不死川さんに問いかける


「それに、私、付き合ってる方もいないので浮気も何もないと思うのですが…」
「は?」

は?って、不死川さんは知ってるはずなのに。私が想いを寄せているのはあなただって。


「それ、本気でいってんのかァ?」
「だっ、そうです!私はまだ誰とも付き合った事なんてないですよ!」
「お前、俺のこと好きっていったじゃねェか!!」
「言いましたよ!」
「じゃあ俺と付き合ってんじゃねェか!!」
「へっ!?」
「へ、じゃねェよ!!」

ごめんなさい。今回は間抜けな声は押さえられなかったです。そして、やっぱり怒られて胸ぐら捕まれました。



「だっだっだって、お付き合いするって言葉、頂いてないじゃないですか!私が強くなるから、早くしろよって」
「………」

また、暫くの沈黙。不死川さん。その表情は読めないです。どういう事ですか?


「おめェ馬鹿だろ!?口づけして、夜まで構いに行ってやってんのに付き合ってないと思ってたのかよ!!」

確かに。私が想いを告げた時からすごく構いに来てくれるようになったなって思ってたんですけれど、あれって、付き合ってたからなんですか…?えっ、じゃあ、待ってください。じゃあ、私、言ってましたよ。お付き合いして頂けませんか?って。強くなってからじゃないと言えないと思ってたんですけど。


「おい、なんか言えよ」
「し、仕方ないじゃないですか…」
「ああ?何がだよ」
「は、初めて…だったんですから…こういった色恋は…」

お恥ずかしい話、そう、初めてなんです。あなたに想いを寄せてから、初めて恋を知ったんです。ああ、顔、きっと、赤いだろうな。彼の顔がまともに見れなくてうつ向いてしまう。

だから、気がつけなかった。彼の手が伸びてきていた事に。彼の体が近づいてきた事に。

壁に体が押し付けられて、腰に手が回ってくる。顔に影が落ちてきたと思ったら、頬にぬるっとした感覚と少しの痛み。
腰に回っていた手はいつの間にか首もとの隊服のボタンを外して彼の手が私の鎖骨を這う。徐々に隊服が肩にずれていったところではっとする。……這う?


「し、不死川さん?」
「黙ってろ」
「いや!何処で何しようと思ってるんですか?!」
「ここで性「ここ外ですよ!ダメですよ!」

面倒くせェって顔をしないで下さい!というか、初めてなんですって言った相手にここまでするんですか?!これが普通なんですか?!
なんで、私のベルト外れてるんですか!いつ外したんですか?!


「家ん中ならいいのかよ」
「えっ…と」
「返事がおせェ!!」
「はいぃっ!!」

よし、って言った不死川さんはさっさと歩い行ってしまう。藤の紋の家に。え、私の今の返事、どういう意味で受け取ったんですか?で、不死川さんも藤の紋の家に泊まるんですか?

これは完全に私、食われた。



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