いいつけ


「あれ?なまえさんだ!」
「なまえさん?!こんに……ぎゃっぎゃわっいい!!」
「おう、ばばぁ!」

「あ、炭ちゃんたちだ!」

任務の帰りに善逸と伊之助、ちょうど3人揃ったのでせっかくだから、甘味処にでも行こうと探していたところ、なまえさんに出会った。

なまえさんは宇髄さんのお嫁さんの内の1人でたぶん、一番おっとりしている人だ。伊之助にばばぁって呼ばれても、まだそんなにおばあちゃんじゃないんだけどなぁと溢すだけですんでしまっている。

街中を歩いていたなまえさんはいつものくの一っぽい格好ではなくて、華やかで大きな柄の入った着物に赤いリボンで髪の毛を結っていた。白い髪に赤いリボンがよく映えている。
俺は匂いでなまえさんだってわかったけど、姿を見た瞬間に思わず誰だろうと思ってしまった。



「お一人ですか?珍しいですね!」
「じゃんけんに勝ちまして、天ちゃんのお迎えにきたところです!」

ちょっと早く来すぎちゃったな。と言っているなまえさんは眉毛を下げつつ、頬を染めてた。
隣にいる善逸がうるさい。


「炭ちゃんたちはどうしたの?」
「俺たち、甘味処を探してたんです」
「白くて!あの甘ぇやつ!」
「お団子?私も一緒にいい?」
「もちろんです!!!」

善逸、まだ場所もわかってないだろ。そんなことも気にせず善逸はなまえさんは何が好き何ですか?とか話を進めていた。


「私もお団子食べたいな!場所、決まってないなら私が案内してあげるね」
「ありがとうございます!あ、ここ、離れてしまっても大丈夫何ですか?」
「大丈夫!」

ほら、と手を挙げ上に向けた指先を見ると宇髄さんの鎹烏が飛んでいた。あれでなまえさんのいるところがわかるのか。


「なまえさん、隣に座ってもいいですか?!」
「い、……えっ、と、私は炭ちゃんの隣に座るね」

善逸の顔が凄い。どうやってあの表情を作っているのだろう。
何故か善逸の誘いに言葉を詰まらせながら断るなまえさん。すごく困っている匂いがするけど…。でも、俺もなまえさんならいいよーと返事をすると思っていたので、少し驚いている。


「お、俺…何かしましたか?」

直球に聞くな。

「あっいや、全然!善ちゃんの事、避けて、は、いるけど、」
「避けてるんですかっ!?俺知らず知らずになまえさんに失礼な事を!!!」
「大丈夫、大丈夫だよ!してないから!」
「じゃあ、俺、隣に座ってもいいですか?!」
「…えっと、ごめん」

きぇあぁっと奇声を発している善逸をなまえさんから離す。伊之助、早速きた団子を食べてばかりいないで手伝ってくれ。
なまえさんからはただひたすらに困っている匂いがした。


「なまえさん、何か理由があるんですよね?」
「そうなの!だから、善ちゃんの事が嫌いなわけじゃなくて…」
「それって!俺の事が、すっ「んなわけねぇだろ。派手にぶち殺すぞ」…ぴっぎゃ」

興奮し始めた善逸をどう落ち着かそうかと思ったけれど、音もなく現れた宇髄さんに後頭部をぶっ叩かれる。


「こいつ!いつの間に!」
「あ?文句あんのかよ?」

宇髄さん、不機嫌だ。不機嫌な匂いがするし、顔も不機嫌だ。


「天ちゃん、お帰りなさい!早かったね。はい、あーん」
「……おう」

え、なまえさん凄い。あの宇髄さんに普通に接してるし、宇髄さんも差し出されたお団子たべてる…。


「俺待ってる間にガキ3人と浮気かよ」
「はぁあっ?!おまえっ、おまえ!よく他に3人嫁がいるのになまえさんに言えるな!!?」
「あ?」
「天ちゃん今回は1人でお仕事だったから疲れてるんでしょ?ド派手に片付けてきた?」
「まあな」

見ていてこっちがハラハラする。善逸が騒ぐせいで、宇髄さんの機嫌が悪くなって、なまえさんが話しかけて落ち着いてって…そろそろギャンギャン言ってる善逸を止めないと。


「俺の嫁、困らせてんじゃねぇよ。善逸」
「隣に座ってもいいですか?って聞いただけだって!!!」
「そういう事、人の嫁に言うなって言ってんだよ!!まあ、なまえは言い付け守ったみたいだけどな」

言い付け?なんだろう。善逸もわからないのかポカンとしている。
なまえさんは、伊之助とこの団子が美味しい甘いなど話している。俺も出来ればそっちの方に行きたい。けれど、放っておくと、どんどん善逸の頭にたんこぶが増えていってしまう。


「前に、お前にあんまり近づくなって言っといたんだよ」

「……お前のせいじゃん!!!?お前の言い付けせいでなまえさん困ってんじゃん!!!」

「いや、そう言われる善逸にも問題があると思うぞ」
「お!よく言った炭治郎」
「炭治郎!お前まで!!」


だから、なまえさんは言葉を詰まらせてたんだ。私はいいけど、って思ってたんだろうな。

暫く、騒ぎながら団子をみんなで食べて、帰り際になまえさんがお土産にいくつかお団子を持たせてくれた。そのときにやっぱり、善逸が騒ぎ始めたので宇髄さんが殴ってなまえさんの肩を抱いて帰って行った。


「ああやってみると、美男美女夫婦だよなぁ…ああ、羨ましい」
「そうだな」
「よくわかんねぇけどな!」

なまえさんの格好は街中の女の人と変わらないし、宇髄さんも今日は着物を着ていたので、本当に何処にでもいそうな夫婦だった。ああやって2人で寄り添って幸せそうな姿がいつまでも続いて欲しい。


「あっ」
「あっ!!!!?あいつ!!!!!くち、くっち、口づけして!!!?!?」


善逸、うるさい。



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