04
「おい、なまえ。面貸せ」
え、私何かした…?
久々に見た不死川さんのお顔は機嫌がよろしくないようで。いつも、ムってしてることが多いですが今日は特に眉間にシワが寄っている。目も合わない。
今日は非番だったんですよ。
私のお師さん、育手は薬剤を扱っている人だったので私にも薬について知識がある。だから、蝶屋敷にお手伝いに呼ばれる事があってここ1ヶ月くらいずっと呼ばれていた。
やっと、一段落して家に帰ると誰もいないはずの玄関前には人がいた。私の想い人、不死川さんだ。不死川さんは戸にもたれて腕を組んでいた。そして、目が合うなり、面を貸せとお呼び出しの言葉を頂いたわけです。
ね、思い当たる節はないですよね。
あと、関係ないと思いますが不死川さん、今日は隊服じゃなくて着流しで、とても素敵だと思います。前がはだけ過ぎなのはどうにかした方がいいと思うのですが…目のやり場に困ります。
「こんな、表でお待たせしてしまいすみません」
「いいからとっとと着替えてこい」
「は、はい!」
よくわからないけど、これは静かにイライラしている時の不死川さんだ。あんまり待たせてしまうと怒りが爆発してしまうので一刻も早く戻りましょう。
あれ?着替えて来いって何?隊服じゃダメって事…あ、接近禁止だからか。
「お待たせ致しました」
「……行くぞ」
「あ、はい!」
着物に着替えて髪も結い直す。必要最低限のおめかしをして玄関で待っている不死川さんの所へ行くとなんだか少し怒りが落ち着いているようでした。
今ならどこに向かうのか聞けるかもしれない。
「不死川さん、どちらに行かれるのですか?」
「………」
「不死川さん?」
「………うるせぇ…」
「はい」
ダメでした!撃沈ですね!
大人しく黙って後ろに着いていくと、見慣れた風景か視界に入ってくる。
「ご自宅に忘れ物ですか?」
「ちげぇ」
何だろうと思っていると不死川さんはこちらを振り返り親指で玄関を指す。
「入れ」
その後は意味のわからないまま家に入り昼餉を作り、洗い物をして掃除をして……人の家で何してるんですかね、わたし。
ただただ、雰囲気に流されて家事をしているわけですが、別にいいんですよ?不死川さんがやれって視線を送ってきているのでやるのは別にいいんです。
「………」
「…すー……」
ただ!こればっかりは心臓が持たないので、勘弁して頂けないかと…。
だいぶ空気が冷たくなってきたと思いながら座布団をお借りして廊下に敷き、日の光で体を休めていたんですよ。
すると、後ろからずんずんとこちらに迫ってくる足音が聞こえたんです。やべって思いましたよ。廊下掃除の途中にサボったのですから。しかし、不死川さんの手には座布団がもう1枚。お顔もそんなに怒っていらっしゃる様子もなく、ボフンと私の隣へと投げられる座布団。
その上に腰を降ろしたかと思うと、ゴロンと寝転がって来たんですよ。私の膝の上に。
そこから私の記憶は途切れてしまいまして、気がつけば不死川さんはすやすやと夢の中。
「………」
起きる気配はなし。不死川さんのお顔をこんなにもゆっくりじっくり拝見出来る日がくるなんて…睫毛なが……。
ずっと眺め続けて、どのくらい時間が経ったのでしょうか。空も夕焼けに染まってきたところで干していた洗濯物の事が頭に思い浮かぶ。声をかけようと今一度、不死川さんを見る。はーー、顔整いすぎじゃないですか?何ですか、この美男子?…ダメだ。これじゃ、また眺め続けてしまう。
収拾がつかなくなってしまう。控えめに不死川さんの名前を呼ぶ。
「し、不死川さーん…?」
名前を呼んでも起きない不死川さん。肩を軽く揺さぶるが目は閉じたまま。これ、お顔触っても起きないのでは…?
そんな事を考えてしまったのがいけなかった。
ゆっくりと伸びる手は不死川さんの頬に触れる。眠っているせいか以外と暖かくて柔らかい不死川さんの頬を撫でる。何だか、かわいい…。
もっと不死川さんの近くにいたくて、背を丸める。
「……そういえば、不死川さんと会うのお久しぶりでしたね。だから今日は1日一緒に居れて嬉しかったです」
最後に会ったのはあのおはぎ事件の時なので1ヶ月ほど前ですかね。
寝息をたてている不死川さんにそっと話しかける。いつも振り回されている気もしない事もないですが、私は貴方が好きなので何だって嬉しいんです。
大好きな不死川さん、今なら接吻しても見つかりませんかね?
「……おい」
「あ、さすがにこれはダメでしたか」
「ケンカ売ってんのか?」
「違います!違います!すみません!不死川さんの頬っぺたが以外と柔らかいなと思って!」
額がくっつきそうになった瞬間、思いとどまった。さすがに寝込みを襲うのは良くないと。
そこで何を思ったのか自分は頬を引っ張ってしまったんですよ。
「なんで止めたんだよ」
「……何がですか?」
「接吻しようとしてただろ」
「……………………い、ん…はい…」
いいえって言おうとしたんですよ。でも、口が勝手に嘘は良くないと肯定してしまったんです。
やーーーー起きてたなんて…いつからですか。
「なんで止めた」
「ね、こみ、襲うのは良くないと思いまして」
「はっ、なら今なら出来るよなぁ、なまえ?」
「え、無理に決まってるじゃないですか!」
「………」
あっ。何か怒ってる感じがする。
「あ、あの、目を…目を閉じて頂ければ頑張ります」
「………」
さすがに即答してしまったのは、気分を害してしまったなと思い、視線をずらして口を開く。本当は目を閉じて貰っても恥ずかしくて出来ない。けど、好意を伝えたくて…。
「なまえ」
「あ、はい…………」
頭を上げて見えたのは不死川さんの手、次に暗闇。腕を引かれ、唇に柔らかい感触がしたかと思うと音をたてて離れていく熱。
隠されていた視界が明るくなるとニヤリと笑った不死川さんが思った以上に近くにいました。
「こうやってやんだよ」
「…は、はい」
いや、絶対出来ないですよ。