05



蝶屋敷の方々、そしてそこにいる隊士の方々からの突き刺さってしまいそうな視線を受けながら廊下を歩く。

ハッキリ言って幸せだった気持ちがその視線と前を歩いる爆発物の様な方のせいで薄れてしまい、笑っていいのか焦るべきなのか、きっと今の私は微妙な顔をしていると思います。



「胡蝶様、失礼します。みょうじです」


目的地の胡蝶様の診療室に声をかけると、柔らかな声で「どうぞー」と返事が聞こえる。
相変わらず前にいる方は不機嫌な雰囲気を醸し出している。わ、たしのせいでもあるので文句が言え無いんです。私のせいじゃなくても言えないんですけどね。

横を失礼して私が代わりに扉を開ける。今の不死川さんには難しいと思うので…そして、ぶれる視界。扉の開く音。膝と両手に床の感触。痛い。めっちゃ痛いです。
振り返ってみた不死川さんは最高に機嫌がよろしくないようで…。

状況、私の考えがわかったのか不死川さんは膝の裏を勢い良く蹴飛ばしてきたんです。痛い。



「余計な事してんじゃねぇよ!」
「うぅ…すみません…」
「………まあ…」


中にいた胡蝶様は椅子に座っていて、今の光景を口に手を当て見ていまして…恥ずかしい。

胡蝶様は私に近づいてきて手と一緒に口からはとんでもない言葉を添えてきました。



「まあまあ、入籍前にお子さんを作っていたなんて……」


おこ、さん…?お子さん…子供……。
立ち上がり、血鬼術のせいで自分の腰丈程の身長になってしまった不死川さんを見る。



「ちがっ!!!!!……ひ…あ、えっと…」


わかりますか?私の気持ち。

不死川さんとの子供を想像して恥ずかしくなって否定をしようとして、ふと思い出してしまった不機嫌な不死川さんの存在。赤くなった顔が一気に青くなりましたよね。



「っち…てめぇ、ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞォ?!」
「し、不死川さん!落ち着きましょう?私が謝罪しますので!私の説明が遅いばかりに気分を害してしまいすみません!落ち着きましょう!」
「うるせぇ!!」

「冗談ですよー」


ふふふと、この怒鳴り声を聞いても笑ってる胡蝶様はさすがです。尊敬します。


「最近、子供になって運ばれて来る隊士が多いので知っていますよ。今は寺子屋の様に子供が沢山なんです」


確かに廊下で感じた視線は子供が多かったですね。


「体ばかり縮んでしまって精神年齢はそのまま。1日、2日すれば元に戻る様なので放っておいて大丈夫ですよ」
「え…薬ないんですか?」
「はい」
「し、不死川さん…」

「まさか不死川さんが血鬼術にかかるなんて思いもしませんでした!」
「胡蝶様ーーー!!!お願いです!!私が悪いので!ごめんなさい!!お口を、閉じて頂ければと…ごめんなさい!!」


期待を…不機嫌な不死川さんを治してくれるとここに来たのに………更に機嫌を悪くしてしまった不死川さんの後について部屋を出ていく。



「うぁっ!」
「あ!ご、ごめんなさい!えっと…すみません、お怪我は?」
「だいじょうぶ」


扉から出てすぐに男の子にぶつかってしまったのですが、この子は、いや、この人?血鬼術にかかってしまった人なんですかね?
とりあえず、起こしてあげてよく見ると膝を擦りむいてしまっていました。



「すみません、お膝痛いですよね。ちょっと待ってくださいね。えっと、これ、痛み止めと止血剤が混ざってますので失礼します……はい、これで大丈夫です」
「あ、ありがとうございます…えっと、みょうじさん」
「え、あの、こちらこそすみませんでした」

「おぉいィ?」

「「ひっ」」


何故、名前を知っているのでしょうかと考えていましたが、横から聞こえてきた高いようでドスの聞いた声に男の子と肩をビクつかせてしまう。
や、だって、子供からこんな圧のある声出るなんて想像出来ませんよ。



「ヘラヘラしてんじゃねぇよ、さっさと行くぞ」
「は、はい!すみません、失礼しますね」


結局、男の子の事はわからず蝶屋敷を後にした。
名前を知っているぐらいなので恐らく会ったことはあるんでしょうね。いやー、誰だろ。蝶屋敷でお手伝いしてた時にでも会ったんですかね?



「…………」
「…、……」


それより、来たときより明らかに機嫌の悪い不死川さんを誰かどうにかして下さいませんか?少しでも良くなれば何でもいいんです。
そんな事を考えても誰も助けてくれるはずもなく、拳を握り不死川さんに近づく。


「…不死川さん。今回はすみませんでした」
「…」
「…私を庇ったせいでこんな事になってしまって」
「……」
「あ、あの!不死川さんの代わりに家事でも洗濯でも何でもします!だから!」

「…何でもっつったな?」

「はい!…あ…は、はい…………」


まともな応えが来たことに嬉しくて元気良く返事をしてしまったが少し考えて、何か言い様のない不安にかられる。何でもは、ヤバそう……。

しかし、今の不死川さんでは台所に立って料理をするのも洗濯を干すことだって踏み台がなければ難しそうな背丈。あぁ、申し訳ない…申し訳ないのですが、どうしても思ってしまうんです。

とても、可愛らしいと。


「と、とりあえず、昼食を頂きましょう。何処かに寄りますか?」
「行かねぇ」


家に来い。と短く言葉を残すとさっさと歩き出してしまう不死川さん。家で私が作るんですね?わかりました。おはぎも一緒に作りますね。


「……」
「お邪魔します…」


はーーーー家に着いたのですが、玄関の段差上る不死川さん可愛らし過ぎじゃないですか?よいしょって感じで段差に手をついて片足乗っけてぐいって上るの可愛い過ぎじゃないですか?

耐えるのに必死なんですけど。


「し、不死川さん、昼食は何かリクエストありますか?」
「ねぇよ」
「わかりました。ちょっと、台所お借りしますね」


何でも言いとの事なのでハンバーグにしましょう。可愛らしい姿でハンバーグ食べる不死川さん、絶対可愛い。



「ご飯はどのくらい召し上がりますか?」
「適当についておけ」


はい。めっちゃ食べました。おはぎも沢山食べてらっしゃいましたね。あの小さな体によくあれだけのご飯が入りましたねってくらい。



「お風呂沸かしてありますよ」
「……」
「な、なんですか?」
「………おい」
「だっだめですよ!そんな来いみたいな手振りしてもお風呂には行きませんよ!」


何考えてるんですかこの人?
いや、でも、今の不死川さんには湯船は危ないのかな……いや、いやでも…。
目を反らしていると手を引かれる。



「……っう…」
「……」

上目遣いで訴えてくる不死川さん。こんな、こんなん……


「お背中流すだけですよ…?」


断れるはずもなく、頭と体を洗い流し湯船に浸かった事を確認して浴室を出る。不死川さんの機嫌は直っていてちょっと楽しそうな感じでした。
私の顔は終始真っ赤ですけど!体が小さくなったとは言え想い人ですからね。


「ふぅ…お布団の準備しましょう」
「先に風呂入って来い」
「あ、はい。頂きます」

何も考えずそのままお風呂に入ってしまったが、出てきた私に待っていたのは並べられた1組の布団。


「不死川さん?」
「今日はもう何もねぇだろ」


さっさと寝るぞって布団の中に入っていく不死川さん。なんであんなに当たり前の様にしてるんですか?何度かお泊まりはありましたが、部屋別々だったじゃないですか。なんで布団1組なんですか?

あ、違う部屋で勝手に布団を敷いて勝手に寝ろって事ですね。なんだ、この部屋に呼ばれたのはお休みの挨拶だったんですね。わかりました。了解です。



「それでは私は隣のお部屋を使わせて頂きますので、おやすみなさい」
「は?今だったらこれで十分だろ?さっさと来い」
「………そ、そんな…」

「何でも、するんだろ?腕枕しろよ」

「…………」


もう、やけくそです。腕枕して抱きついてやりましょう。弟と寝るようなもんです。そう、そう思いましょう。弟が我儘を言って一緒に寝たがっていると思えばいいんです。

ゆっくりと布団をめくり横になって腕を差し出すとポスっと腕の中に収まる不死川さん。背に手をまわし私の胸に顔を埋めてくる。



「し、不死川さん、私の事大好きですよねー…………なんて…」


あんまりにも子供みたいな動作をした不死川さんについ、ふざけて言葉を漏らす。普段だったらこんな事言ったらふざけてんじゃねぇぞっておっきな声が飛んでくるのでしょうけど、何も言わない不死川さん。寝ちゃった?



「お前もだろ?」


小さな子供のはずなのに、ニヤリと笑う不死川さんが素敵過ぎて…言葉を詰まらせながら返事をするしか出来なかった。

でもね、よく考えてみたら否定もされていない上にお前もだろ?って、不死川さんもって事ですよね。もう、しあわせ過ぎでしょ。


そんな思いも次の日には元の姿に戻った不死川さんに抱き締められながら目を覚ました事に寄って羞恥心が爆発してぶっ飛んでいってしまいました。お風呂も寝たのも子供の姿でしたからね。



「このまま此処に住めよ」
「心の余裕が…もう少し出来るまで待って下さい」






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