04


(side アルバ)

この3ヶ月、学園は4月にやってくる編入生の噂でもちきりだった。

なにせこの国に知らない人はいない有力貴族エトワール家の養子だ。
エトワール家に嫡男がいないこと、正室が亡くなってから後妻を取る気配のないことから、養子の座を密かに狙う家(生徒)も多かった。
なみいる養子候補を押しのけてその座を勝ち取った生徒とはどんな人間なのか。
関心の高さは分かることだろう。

注目されていたところに入ったニュースは、さらに生徒達を驚かせるものだった。
『編入試験で全教科ほぼ満点だった』
『学園主席も真っ青なレベルの魔力保有量』
一体、何者だエトワールの養子。

まあ、俺自身はさほどこの天才編入生に興味はなかった。
ダグラス家はもう末端も末端貴族、天才有力貴族と関わることなどないと思っていたからな。貴族然としたかの編入生に変に目をつけられることは避けなければならないな、くらいのものだった。
ある程度エトワール家に近い立場の家の生徒達は、4月が近づくに従って馬鹿みたいにそわそわしていた。
――まあ、俺には関係ない。

……と、思っていたのだが。
「ダグラスくん。編入生の学舎案内役、君に頼むよ」
「……は?」
1週間程前。俺にそう頼んで、いや命じて来たのはクラスで暫定案内役と決まっていた筈の有力貴族の息子、イリス=リドル。
ウェーブがかった淡い金髪に翡翠の大きな瞳は大変見目麗しいのだが、まあ性格の方は良くも悪くも典型的貴族といった感じだ。
今も言葉の節々に『ダグラス家ごときがこのリドルの頼みを断ったりしないよね?』みたいな上から目線が透けて見える。
「何?まさか断るの?」
ほらな。
俺は心中ため息をつきながら応じた。
「いえ、断るだなんてそんな。ただ気になっただけです。リドル様は編入生と仲良くなるのだと張り切ってらっしゃいましたよね?それを、なぜ?」
俺の問いに、リドルサマは口ごもった。
どうにも要領をえない答えをなんとか理解する。曰く。

天才編入生と近付きになりたいのは山々だが、どんな人かも分からない今無策で会って変に反感を買うのは避けたい。
まずしばらく様子を見てから近付きたい。
だからお前、デコイになれ。

……面倒なことになった。
まあ、当たり障りなく振舞ってそれ以降は深くかかわらないことにしよう。
そんなことを考えて引き受けた。




こうして、半ば(というか8割以上)嫌々引き受けさせられた案内役。
目の前に立つ編入生は、とても特徴的な容姿をしていた。

この国では滅多に見ない真っ黒な髪。
黒曜石のような瞳が俺の姿を映す。
顔の作りはシャープな方向に整っており、学園のネコちゃん達に非常に人気が出そうだ。
目線の高さは俺とほぼ同じか、少し低いくらい。
肌は白く、長距離を歩いたことにより微かに色付いた頬が妙な色気を感じさせた。

――ま、どんな容姿だろうと俺には関係ない。とっとと終わらせよう。
そう思ってした丁寧な挨拶に、

「なんで敬語使われてるんだ?」

思ってもみなかったツッコミが入った。
いや、いやいやいや、敬語以外でどう接しろっちゅーねん。
「俺、平民の出自だからな?」

……いや、いやいやいや!
お前のような平民がいてたまるか!
そんな心の叫びはダダ漏れだったらしい。
思わず出てしまった素の口調に、編入生の笑い声が重なる。

「どうしても敬語じゃなきゃ落ち着かないってわけじゃないんだろ。頼むよ」

俺の脳裏を、怒りに震えるリドルの顔や有力貴族様を見て怯える末端仲間達の顔が駆け回る。

――さらば、俺の平凡な日陰者生活。

「あー、もう、やめだやめ!猫被りは性に合わねえよ」

多分、今後今までのように平穏な底辺生活はできないだろう。……でも、しょうがない。
気に入ってしまったものは、しょうがない。

俺はついてこい、と顎で示してノエ=エトワールの前に立って歩き始める。

「助かる」

俺についてくるこの編入生の嬉しそうな声音に、なんだかくすぐったい気分になった。

(side アルバ 終)


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