03
声の主は、俺と同じ制服を纏った男だった。
群衆の中にいても一際目を引くようなイケメンだ。
切れ長の目に青い瞳、白銀の髪をシャギーにしてワックスで整えてある。
身長は俺よりも少し高いくらいか。それなりに鍛えていることが窺える体つきだ。
ネクタイの色が俺と同じ臙脂色(えんじいろ)なのでおそらく同学年なのだろうが、
「はじめましてエトワール様、アルバ=ダグラスと申します。本日は学舎の案内を仰せつかりました。」
彼は口元をほんの少し緩めてそう言うと、優雅に一礼した。
……同学年なのになんで敬語使われてるんだ?
過った当然の疑問は、無意識に言葉に出ていたらしい。
アルバが「え、はっ?」と呆けたような声を出した。俺は慌てて言い直す。
「……あ、済まない。口に出てたか?タイの色を見るに同学年だろ、どうして敬語を?」
俺の問いに、アルバはいくつか瞬きをした後に元の表情に戻った。
「私のような末端貴族の息子がエトワール様のような有力貴族の方とおこがましくもこうして直接会話するなど…敬語以外でどう接しましょうや?」
有力?末端?……なるほど、身分制が学院にも侵食してるのか。面倒なことだ。
もしかしてこの3年間ずっとこんな感じなのか?
俺は迫りくる嫌な予感を振り払うようにアルバに言う。
「どう接しましょうや?…って、いや、普通で良いよ普通で。」
「で、ですが…」
アルバの眉間に皺が寄るが、知ったことではない。
エトワール様ァ、なんてあがめられて遠巻きにされる3年間なんて御免被る。
「いや、アルバが知っているかは分からないけど俺、平民の出自だからな?本来ならこっちが敬語使わなきゃいけない立場だろう」
俺の出自を聞いた途端、アルバの目がぱちっと見開かれた。そして、
「えっ?……いやいやいや、嘘だろう。あのエトワール家の養子で、とんでもない魔力保有量で、編入試験で全教科ほぼ満点を叩き出すような奴が平民出身なわけが、」
早口でまくしたて、
「…ないじゃねえか、……あ、し、失礼いたしました!」
ハッと我に返るや90度のお辞儀。
その百面相っぷりが面白すぎた。
我慢できずに噴き出せば、アルバも困ったように頭を掻いた。
「やっぱりそっちが素だよな。…はは、そういうのの方が楽だよ」
「あー…その、」
声を上げて笑う俺を気まずげに見やるアルバ。
俺はじっと目の前の同級生を見つめて、頼んだ。
「どうしても敬語じゃなきゃ落ち着かないって訳じゃないんだろ。頼むよ」
「…………」
アルバは暫し考えたり頭を掻いたりこめかみを抑えたりしていたが、やがて
ぱん!
自分で自分の頬を叩くなり、肩の力を抜いて声を上げた。
「あー!もう、やめだやめ。猫被りは性に合わねえよ」
「すぐに剥がれたけどな」
「煩い!」
俺の茶々入れは食い気味に遮られる。拗ねたようなどこか安心したような表情を浮かべ、アルバは改めて俺に向き直った。
「そういうことだ。俺の名前はアルバ=ダグラス。今から新しくできたダチのお前に学舎を案内してやるよ」
びし!と俺の方を指さし、決意表明のように言い放つ。
「助かる」
思わず苦笑しながらお礼を言い、既に歩き出している友人の背を追った。
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