06


「なるほどな、リール、って呼んでいいか?リールも技科に行くのか?」

実家によって進路まで決められているというなら、それもまた難儀な話だ。俺は好きなようにしろと言われているけれど。

「うん、リールでいいよ。おれも、ノエって呼ぶ。……うん、おれは技科にいく、つもり。兄さんたちは向いてなかった、から、おれが期待されてるし…」

……なるほど。
このあたりは事前知識で察することができた。

技科は、ほかの学科よりも生まれつき持つ魔力量が重視される傾向にあるのだ。
魔科、政科、軍科は多少魔力が少なくてもそれを努力、工夫、別分野で応用しカバーすることが可能だ。しかし技科で作る魔化製品は作る際に多量の魔力を注ぎ込む必要があり、本人の生まれつきの資質に大きく左右される。
よって親が優秀な技術屋でも子供がそうなるとは限らず、結果技術系の名家はとても少ないらしい。
スレイ家はその数少ない名家のひとつ、ということか。
そして兄達は技術屋を張れるほど魔力が多くなかったのだろう。

「そうなんだな。リールは技術分野、好きなのか?」
そんな風に相槌を打てば、リールはほわりと笑った。
「……うん、好きだよ。兄さんたちには、嫌われてしまうけど」
嬉しそうに笑みをこぼすリールの表情が少し曇ったのが分かる。

……やはり貴族の事情というのは色々とややこしいらしい。その渦中に巻き込まれるのは少し億劫だが……うん、奴隷よりはだいぶマシか。図太く行こうじゃないか。




こうして話に花を咲かせるうち、俺とリールはすっかり打ち解けることができた。

「ノエは、この学園の暗黙のルール、とか、そういうのが気に入らないんだな。……変えようと思ったら大変だと、思うけど…負けるなよ」
リールは俺に好感を抱いてくれたようだ。
俺もまた、物静かだが嘘偽りを感じないリールの物言いに好感を持っている。
同室のやつがいい奴で良かった。
リールの俺を気遣う言葉にお礼を言い、俺もまた労いの言葉をかけた。

「ああ、ありがとう。リールも実家関係で苦労することも多いだろうけど、負けるな。俺でよければ、俺にできることなら力になるからさ」

「……!うん、ありがとう」

リールの語尾が僅かに揺れた。
俺にはこの揺らぎが喜びの感情に見えた。
無条件に受け入れ、応援してくれる理解者が彼には今までいなかったのではないか?
そんなことを感じたが、……今、突っ込んで聞くことでもあるまい。俺は曖昧に笑った。

「そういえば……ノエは、別の意味でも苦労するかも、しれないね」

不意にリールが話題を変えた。

……別の、意味?


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