07


別の理由?とは?

頭上にハテナを飛ばしている俺を見たリールは、ゆっくり確認するように問いを発した。

「ノエは、同性に、性的興味が、あるか?」
「……いや、ない。え、なに?つまりそういうことなのか?」

察し。俺の困惑をよそに、リールは無慈悲にも事実を告げる。

「そういうこと、だよ。この学園には同性愛者、多いからね」
「いやでも、俺には関係な」
「あると思う、よ」

普段は穏やかに俺の言葉が終わるのを待っているリールが、珍しく被さるようにして言葉を発した。

「賭けてもいい、けど…ノエは狙われる、というか、迫られる」

……な、なんで?




リールが教えてくれた理由は主に3つ。

第一に、10年以上男のみの閉鎖的な社会に暮らしていることで抵抗が薄れ、慣れるから。

第二に、モラルの抜け道だから。
貴族の子供たちは、物心つく前に許嫁が決められていることも多い。そしてこの世界では、許嫁が決められた状態で他の異性に懸想することは不貞に当たる。
ならば、同性ならば無問題じゃないか。
…ってことらしい。なんでやねん。

第三に、将来の損得を考えて。
実家の格に不安のある生徒は、有力な実家を持つ生徒と”仲良く”することで将来的に上に行ける確率が上がる。
学生のうちから”オトモダチ”付き合いは大事だということだ。




一通りの説明ののち、リールは言葉を選びながら俺に言った。

「…ここから先はおれのかんがえ、だけど…最後に言った理由、だけで迫ってくる人は、そんなに多くない、と思う。だ、だから…」

なるほど。言いたいことは理解した。
「…なるほどな。もし誰かに迫られても3つ目の理由なんだろうって決めつけずに、ちゃんと考えてやってほしい、って?」
俺がそう確認すれば、リールは安堵の表情で頷いた。

「ノエなら、そう言ってくれるって、思ってたよ」

「ああ、当然だよ。…そりゃあ驚いたけど、よく考えればめちゃくちゃ同性愛に嫌悪感があるわけでもない。もしもそんなことがあったら、きちんと誠実に考えるさ」
「うん」

有力貴族・末端貴族・平民に差はないように、異性愛者と同性愛者にも差はない。
偏った視点で物事を見ちゃならない。

「そういえばリール、お前もその…男が好きなのか?」
ふと気になった興味本位の質問に、リールは戸惑ったような表情をして答えた。
「…わかんない。おれは、恋、したことないから」
「そっか。恋したことないのに、俺に迫るやつの気持ちまで考えてアドバイスしてくれたんだな。ありがとな」
素直に感謝の気持ちを言葉にすれば、リールは照れたように俯いた。


こうして、学園での初日の夜は更けてゆく。
明日の始業式に備えて早めに布団に入った俺は、元の世界の言語で、日本語で日記をつけた。

……なんとなく、怖かったのだ。
自分が完全にこちらの世界の住人になってしまったら、向こうの世界には二度と戻れないような気がして。
誰にも見せない日記の中にくらいは、自分が日本人であった証を残しておきたかったのだ。

『日々がカルチャーショックの連続だ。今日は特に様々な驚きがあった。好ましくない文化も、逆に見習うべきところもたくさんある。自分にできる範囲で、少しずつ変えていこう。変わっていこう。』

明日からついに、学園での生活が始まる。


――chapter.02 終


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