05
そして当然のごとく迷子になりました。
……いや、総合棟、広すぎ。
「……参ったな。早いうちに道を見つけないと次の授業に遅れる」
ぶつぶつと独り言を呟きながら彷徨っていると、奥まった部屋から何が不穏な会話が聞こえてきた。
「お前、生意気なんだよ!」
「あ、う、すみません……」
「お前の家は俺の家がなきゃやっていけないくせに、俺の命令が聞けないのか、この、グズ」
かなり小柄な生徒が、俺より背の高い生徒に蹴られている。このような虐めというものはどこの世界に行ってもあるものなのか。醜いな。
「なにやってんの?」
思わず声をかけると、被害生徒も加害生徒もどちらもまるでお化けを見たかのようにぎょっとした表情をした。
「あ?人払いの魔術かけてたはずなのに、誰がすり抜けてきやが……っ?!」
「……ひ、ひっ!」
俺を見るや、加害生徒は逃げるようにその部屋を後にした。
「あっ、おい待てよ……」
声をかけるも時既に遅し。
呆れるほどの逃げ足だ。
「……」
やれやれとため息をつき座り込んでしまっている被害生徒の方に目をやれば、彼はまた小さく悲鳴を上げて震えた。
改めてまじまじと彼を観察する。
身長は158cmくらい、オレンジ色のふわふわの癖毛、モスグリーンの瞳。ニンジンみたいな色合いだ。鼻周りに少しだけ散っているそばかすが愛嬌を与えている。
どうしたものか。ここまで怯えられてしまっては下手に話しかけても怖がられるだけだよなあ。
困り果ててあーとかんーとか言いながら頭をかいていると、被害生徒が震える声で口を開いた。
「あ、あの……もしかして、編入生のエトワールさま、ですか……?」
「えっ?あ、うん。そうだよ」
俺が首肯すれば被害生徒は悲痛な表情で、俺にすがりつくようにして懇願した。
「ぼ、僕、高等部1年のサーシャ=フリードっていいます。エトワールさま、お、お願いです……」
「僕を、だ、……抱いてください!!」
涙目。哀願。
――リール、賭けはお前の勝ちだよ…
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