06


「……えぇ」
困惑で思わず言葉に詰まる。
抱いてください、抱いてくださいかぁ……これまた、160km/hど直球で来たものだ。しかしこれ、どう見ても俺のことが好きって感じじゃないよなあ。
サーシャと名乗った生徒は大きな瞳から今にも涙を零しそうにしながら、お願いします、と繰り返している。

「あのね、サーシャくん」

俺はしゃがみこんでサーシャと目線を合わせ、怖がらせないように穏やかに話しかけた。

「好きでもない相手に体を差し出すのは感心しないよ」
サーシャは目を伏せぐっと唇を噛んだ。
「でも…でも、」
ぽろりと大粒の涙をこぼす。
……ああもう、見てられない。

「話、聞かせてくれるよね。これも何かの縁だ、事情によっては協力するよ」
俺がそう声をかければ、サーシャはぱっと顔を上げた。ようやくばちっと目が合った。
俺はにこりと笑って付け足す。
「体なんて差し出さなくても、ね」




俺は確認するように彼に問うた。
「話を漏れ聞くに……さっきの彼とサーシャくんは親同士が上司と部下の関係で、その上下関係が君たちにまで波及してる、と考えていいのかな?」

サーシャはしょんぼりと頷く。
「……はい。『逆らったら親に言いつけてお前の親も冷遇してやる』って言われたら逆らえなくて……でも、どうしても嫌なものは嫌なんです」
唇を震わせて涙を堪えるサーシャ。
「それは、なにが?……ああ、落ち着いたらでいいよ。ゆっくり話して」
俺が宥めるとサーシャはこくこくと頷いて訥々と語った。

「……え、援助交際をしろ、って……あ、あの人は!僕が逆らえないのが面白いんです。親のためなら、課題くらいならいくらでも代筆するし、パシリだって我慢できる…でも、」
「……難儀なものだな」
サーシャは震える声で言った。
「一度援助交際を受け入れたら、きっとエスカレートします……何度だって、誰とも知らない人に体を差し出せって言われる…そんなことになるくらいなら、」

「俺1人に体を差し出して保護を求めよう、ってことか」
俺の確認にサーシャ大きく頷いた。

俺はサーシャのふわふわの頭を撫でて言う。
「馬鹿だな、体なんて要らないしそんなものなくても保護くらいするのに」
サーシャは弱々しく言葉を発する。
「……でも僕、他になにも差し出せるものがありません……」

「いらないよ」
「……え?」
「友達付き合いに損得はいらない。そもそもそんなものが介在するのがおかしいんだ」

迷いのない俺の答えに、サーシャの表情が揺れた。涙に濡れた睫毛がきらきらする。

ああ、でも大事なお願いがあるな。

それでも、でも、とか、だって、とか言っているサーシャに俺はくすりと笑って頼んだ。

「ああ、なら2つほど条件をつけよう。」
緊張の面持ちで条件を待つ彼の頬を俺はぴっとつまんだ。
「い、いひゃいれふ……」
「ひとつ、名前で呼んでね。苗字呼び、まだ慣れてないんだ。あと敬語も禁止ね。その方がいじめに対する抑止にもなるだろ」

サーシャの瞳が驚きでまん丸になる。
困惑しながらも、遠慮しながらも彼は口に出した。
「……の、ノエ、くん」
「よおし」
満足げににやりと笑えば、サーシャもまたはにかんだように微笑んだ。

「んで、2つめが一番重要なんだがーー」
「はい……じゃない、うん」

「実は迷子なんだ。教室に連れてってくれないか」
「……えっ?」
サーシャの口が開いた。
……えっへへー。


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