08


サーシャに連れられて教室に戻る道すがら、俺はポケットから親指大の付箋シールを取り出した。

「ノエ…くん?それは?」
サーシャが不思議そうに訊ねてくる。
「ん?これか。サーシャ、口約束だけじゃ本当に保護してもらえるのか不安なんじゃないかって思ってさ。お守りを作ろうと思って」
俺の答えにもピンと来ない様子で頭にはてなを浮かべている。俺は片頬を上げて「まあ見てなって」と言った。

付箋紙の上に人差し指を乗せ、目を閉じる。
脳裏に術式を思い浮かべ、略式呪文を呟いた。
『此の痛みを我に』
人差し指にほのかな光が灯り、やがて収まった。サーシャはまだ不思議そうな顔をしている。
「……んで、ついでに…」
『知らせを此処に』
「これでよし」

少し前にエトワールの屋敷にあった文献で読んだ、少々物騒な呪文の応用である。
俺は2種類の呪文をかけた付箋紙をサーシャに手渡した。

「もし俺がいないときに嫌がらせや無茶振りを受けてどうにもならなくなったら、この付箋紙を1枚破いて。1枚破くと俺に髪の毛1本抜かれたくらいの痛みが走るようになってる。それがいっこめの呪文な」
俺が説明してやると、サーシャが感心したように声を上げた。
「へぇ…そんな呪文あるんだ…」
「昔はこれの高威力バージョンが死の契約に使われてたみたいだ。契約書破くと身が裂ける、とかな。だいぶ威力を落としてあるけど、一気に全部破くと流石に痛いから1枚ずつで頼む」

「そ、そんな呪文どこで…」
「ん、エトワールの屋敷でな。悪用すると拙い呪文ではあるよな。魔術はどれもそういう面あるけど…」

俺の話をサーシャは興味深そうに聞いている。魔法分野が好きなのかもしれない。

「凄い蔵書量なんだろうなあ、凄いなあ」

目がきらきらだ。
虐められていたことで鳴りを潜めてはいたが、元来好奇心旺盛な性格なのだろう。
俺は説明を続ける。

「2つめの呪文は、破ったらどこで破られたか位置が分かる呪文だな。すぐ駆けつけられるって寸法だ」

サーシャは暫く黙って、目を潤ませて言った。

「……ノエ、くん。なにからなにまでありがとう。一生この関係から抜け出せないんじゃないかって、絶望してたんだ。ノエくんが、来てくれなかったら…」

あまり恩に思われすぎても、サーシャが今後やりにくいかもしれないしな。俺は極力軽い調子で伝える。

「気にしすぎることはないよ、サーシャ。俺はただ、俺が楽しく学園生活を送るために行動してるだけなんだから。馬鹿騒ぎ、いつでもやろうぜ」

サーシャは潤んだ瞳で笑った。
愛らしい見た目なのに、やっぱりこの学園のカーストは分からない。


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