09


「サーシャ、ありがとうな!危うく遭難するところだった。恩人だよ、助かった!」
こうして辿り着いた1年C組の教室の前で、わざと大きめの声量で感謝の言葉を述べる。
C組の生徒がぎょっとした視線を送ってくる。

うん、これで差し当たり対策はオーケーだろう。俺の大胆な行動にびっくりしたまま固まっているサーシャに耳打ちをする。
「これで表立って嫌がらせしてくる奴は減るだろ。これでもまだ厄介ごとがあれば…またその時々に考えよう」

サーシャは虐めによる緊張から解放されたからか、柔らかく笑んで答えた。
「ありがとう、ノエくん。僕もノエくんの助けになりたいから……できることがあったら言って。学園のこととか、教えるよ」

「ああ、ありがとう」

スタンスだとか、立場だとかでハードルは多いけれど……少しずつ友人が増えていくのはなんだか感慨深いものがある。

まあ、教室に帰った後心配していたアルバにどやされたのはさておくとする。




その夜、自室にて。
ルームメイトのリールが苦笑をしながら教えてくれた。
「ノエ、すっかり、噂になってるよ?」
「え?どんな?」

一体どんな尾鰭がついて広まっているのか。興味を引かれたので訊ねてみる。

「貴族制度、そのものに、堂々と喧嘩を売ったとか……」

うん、それはまあ捉え方によってはそう聞こえるかもしれないな。うん。まあ分かる。

「……高等部1年末端貴族の、中でも、一番の実力者と、言われる……アルバ=ダグラスくんを手懐けて、犬とばかりに、こき使っているとか……」

……それはちょっと語弊がある気がする。
アルバも犬呼ばわりはちょっと嫌がるんじゃないだろうか。

「……手出し無用の、お察しな感じな、主従関係だった生徒2人のうち、従の方を、手懐けて女にした…とか」
「いや、女にはしてないよ?」

流石に俺とサーシャの名誉のためにここだけは否定しておこう。…予想はしていたが、随分とまあ面白おかしく広まっているようだ。

そんな俺の様子を見てリールが笑いを含んだ声で茶化す。
「そこしか否定しない、ってことは…他は正しいの…?」

……複雑だが、ジョークを飛ばせる程度には仲良くなれたみたいで少し嬉しいようなこそばゆいような気分になる。
俺は声を上げて笑いながら応える。

「あー…各所に誇張は見られるけど、見方によってはそう捉えられないこともない…くらいかな?」

リールも分かっていたよ、と応じて言う。
「まあ、今のノエは、客寄せパンダみたいなもの、だし……悪意は少なからず、入っていると思う、」

「女にした云々は流石に俺とサーシャの名誉のために否定させてもらうけどな!俺、ノーマルだし」

「早めに、誤解が解けると、いいね…ふふ」
「おい、笑うなリール」

――こうして、始まりの日の夜も更けていく。




『4の月6日
俺の立場に面倒くささがあるのは否定できない。…というか、最初はその部分ばかりが目についていたものだが。
この立場にも有効な使い方があることを今日、改めて実感できたと思う。馬鹿と鋏と格は使いよう、ってことなのだろう。』




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