幕間 01


「……やはり、おかしい」

男は調査結果を受け取り難しい顔をした。
頭痛を振り払うように頭を振れば、ネイビーブルーのタイが揺れる。

「ああ、例の調査結果が届いたんですね」
右腕である1つ下の青年が男の傍に控え、口を挟んだ。男は頷いて答える。

「ええ、勧誘を考えるなら背後まで調べて然るべきですからね」

「そうですね……調査をしくじれば他学科に先を越される可能性もありますし……それで、その調査の内容に何か?」

「それが……不明、だとのことですよ」
「……?!」
「2年半前より以前の情報は皆無。どの家の出身か、或いは平民出身かは勿論分からない。そもそも、2年半前以前の同名の戸籍もなかった」
「……なんとも…」

「今のノエ=エトワールの戸籍も、アドニス公が裏のルートで入手したものだった……つまり、」
「なるほど……今の名はほぼ確実に偽名、と。」
「そういうことです。なんともきな臭くなってきたでしょう?」

「……しかし、会長。才能という面では見逃すのは惜しいですよね、」
「かといって、出自もハッキリしない者を後釜に据えれば不確定要素としてリスクになります」

2人はしばらく黙る。――やがて、ブルーのタイの男はため息混じりに口を開いた。

「保留。……これしかありませんね」
「……同意します」
「来週は別の学科がかのクラスの視察を行うようですし、その間に調査を深めましょう」

「どのようになさるおつもりですか?」
「調査の規模を広げます。3年半前から2年半前からまでの間に、所在が分からなくなった者を貴族平民関係なしに調べます」
「……かなりの時間を要しそうですね」
「ええ。できるだけ急がせます。そのコストに見合う案件だと思っていますよ」

暫くの後。
自室で1人になった男は誰に言うでもなく呟く。

「ノエ=エトワール――彼は一体何者なのでしょうか……」


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