否、現実。 01


この世界には厳然たる身分制度が存在する。
国王の下に王族、その下に貴族(貴族の中にも細かい序列がある)、その下に平民、そして最下層に奴隷。
身分が下の者は許可なくしては上の者と会話することすらできない。

この「貴族」と「平民」の間を分けるのが先ほど触れた「魔力」の有無である。
魔物と呼ばれる野生動物の脅威にさらされるこの世界では、それらに対抗しうる力「魔力」の有無がそのまま身分差となる。

魔力を持つのは遺伝的要因が強いそうだが絶対ではない。
貴族の子供にも魔力を持たない者が生まれるし、逆に稀にだが平民からも魔力持ちが生まれる。
どんなに偉い貴族の子息でも、魔力がなければ平民に格下げ。逆も然り。ある意味完璧な実力主義といえる。

加えて言うなら魔力を持つ人間の割合は人口比にして5%弱。非常に貴重なので、魔力を持つ平民が発見された場合その土地の領主に差し出すことがルールとなっている。




まあ、全ては後から知ったことだ。
俺がとんでもない量の魔力を放出した自覚なく呆けていると、“保護者”は慌てふためいて俺の看病に取りかかった。

一体何が?と聞く余裕もなく奴隷仲間の男達にお別れを言う間もなく本当の意味で「保護」され、体を綺麗にされ、回復するや否や――

「この子か、多量の魔力放出をしたのは」

俺は領主の前に連れ出されていた。
ここに至っても俺は何がなんだかわからず、突然に物凄く偉そうなオジサンの前に出されたことでおたおたとするしかなかった。

「君、名をなんという?」

領主は柔らかな笑みをたたえて俺に問いかけた。
彼は30代半ばほどに見える男で、綺麗なストレートのブロンドを方まで伸ばしている、気品に満ちた人間だった。
俺は思わず見とれそうになるのを抑えて片言で応えた。

「大夢。みんなからは、ノエと」
俺の答えを聞いた領主は少し驚いた表情をして言う。
「あの者からは、君は言葉が分からないと聞いていたのだが」

いや、分からないけどな。易しい言葉を使ってくれていることは分かったがそれでも聞き取りで精一杯だ。
「す、すこし。おしえてもらったんです」

領主の男は笑みを深くした。
「何も分からない状態から2か月でそこまで」
「しにたくなかったから」
俺の訥々とした返答に、彼は大きく頷いた。

「大したものだ。――ああ、名乗り遅れたね。私はアドニス=エトワール、この土地を治める貴族だよ」
「きぞく。」
「そう、貴族。君をここに呼んだのは君に提案したいことがあるからだが……少し難しい話になる。まずはもう4ヶ月、勉強しなさい」

領主アドニスは俺にそう命じた。
姓を聞いて察しただろうが、彼が俺の養父となる人物である。

それからの4ヶ月間、俺はエトワールの屋敷でこの世界の言語、常識を徹底的に叩き込まれた。
いやあ、スパルタだったな。
辛くなかったといえば嘘になるけれど、俺も死にたくなかったから必死で頭を回して頑張った。

この4ヶ月でなんとか形にしなければ、俺はきっと見捨てられる。
そう直感していたこともある。
(そしてそれは正しかった)

とにかく俺は4ヶ月間背水の陣で勉強し、この世界に落ちて半年が経った日に領主アドニスと2度目の対面を果たすことになる。


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