08


(side アルバ)

ノエとクレールが同時に動き出す。
ノエは呟くように『疾く』と略式呪文を唱え、クレールは隠す素振りもなしに『槍よ燃やせ!』と呪文を叫んだ。

ノエの足元が仄かに光を帯び、弾丸を射出するようなスピードで駆け抜ける。ノエの駆け抜けたところを一瞬遅れて、クレールの魔法で作られた炎の槍が通過してゆく。

一見するとノエが紙一重でクレールの攻撃を躱しているように見える。が、実際はそうではない。

「ひええ……よく躱してんなあ…」
シュカが呆れたような、感心したような声色でそんな感想を漏らした。サーシャはノエのいたところに一瞬遅れて攻撃が来るのをびくびくしながら見守っている。
俺は軽く首を振ってシュカに言った。
「いいや、ノエは別に躱してるんじゃないよ」
「え?どーゆーこと?」
「あれな、ノエはただ省エネ加速魔法で走ってるだけ。クレールは馬鹿正直にノエを狙うから追いつけてないだけ。ノエが行くところを予測して攻撃すれば被弾も期待できるんだけど、あいつ頭に血が上っちゃってるからな」

……そういうことである。
煽りに煽られたクレールはノエに攻撃をドンピシャで当てることを狙うあまり追いつけなくなってしまっている。
この逃走劇ををノエが2分ほど続ければ、

「…………はぁ、はぁ、」
クレールの息はすっかり上がり、肩で息をしている。一方のノエは涼しい顔で駆けている。

そりゃそうだ。
加速魔法とあんな燃費の悪い攻撃魔法なら、魔力保有量が同じでも後者の方が消耗が早いに決まっている。

「くそっ、次で終わらせてやる……!」
クレールは痺れを切らしたのかがりっと親指を噛み、血液を地面に垂らした。そして、ぶつぶつと呪文を呟き始める。
それに気付いたノエはぼそっと何事か呟き、真っ直ぐクレールへと駆け始めた。

「切り札がくるぞ、防護きっちりな」
俺がシュカとサーシャに言うと2人は衝撃に備えて腰を低く、魔力を厚くする。

クレールに駆け寄るノエとの距離は5mほど。
クレールが勝ち誇った様子で叫んだ。
「もう遅い!消し飛べッ!!」

――刹那。
クレールを中心とした爆発が起こる。
防護壁がなければ巻き込まれて消し飛んでいただろう。シュカが驚き、サーシャが「ノエくんっ!!」と悲鳴のようにノエの名を呼んだ。

―――――――
―――――
―――


爆発の跡に残ったクレールは勝ち誇った声で勝鬨を上げた。
「……は、はは、ざまあみろっ……!」
魔力を使い切ったか、地面に膝をついて笑う。そんな彼の背後に、

「うん、すごいすごい。凄い威力の魔法だった!そんで、その後は?」
笑顔のノエがいた。
「……っ?!」
驚愕の表情で振り向くクレールの首筋に、訓練用の殺傷力のない金属製ナイフが当てられる。

『雷(いかづち)を流せ』

ばちっ、と嫌な音がした。
次に俺達の目に映ったのは、クレールがどっと地に倒れ伏す姿だった。

(side アルバ 続く)


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