スレイ家の秘密 01
俺が軍科からのスカウトを受けた日以降。
昼休みの時間などにちょくちょく、エミル=スレイ副会長がやって来るようになった。
――そして、それに従うようにして。
リールは俺のクラスに姿を見せなくなった。
何かおかしくなったのは、軍科からの推薦状を受け取った日の夜に自室でリールに報告した時からだったように思う。
「……でな、イザーク会長は不必要なことは口に出しませんって感じの寡黙な男でさ。それを補佐する感じでエミル副会長が合いの手を入れるんだよ。いいコンビに見え」
ごとん、
大きな音に驚いてリールを見やると、手に持っていた空のマグカップを落としたリールがいたのだった。
どこか呆然としたような、所在なげな彼の様子はなんともいえない不安を感じさせた。
「リール?大丈夫か?怪我ないか?」
心配して声をかけると、リールは我に返ったように笑みを作ってマグカップを拾い上げた。
「うん、だ、大丈夫。ちょっと、驚いただけ…」
そして俯いてぼそりと独り言を言ったのを、俺は聞き逃さなかった。
「……軍科の、副会長になったんだ、知らなかった」
やがてリールは思い直したように顔を上げて、俺にこんなことを言った。
「ごめんね、ノエ。おれ、しばらく、そっちの教室には、行かない。……きっと嫌がられて、しまうから」
嫌がる、の主語はきっと、兄。
曖昧に笑うリールの声音は穏やかだが有無を言わさないもの。そして、なにかを諦めたような響きがあった。
「なーに考え事してるのー?」
ぼんやりとリールのことを考えていた俺に声をかけてくるエミル副会長。俺は軽く首を振って答える。
「……ああ、いえ。エミル先輩はどうして貴重な休み時間を割いて俺のところに来るのかと不思議に思っていて」
「迷惑だったかなー?」
「そういうわけでは。単純に気になっただけです」
俺の疑問にエミル副会長はこともなげに答えてくれる。
「理由は主に2つかなあ」
ぴっ、と指を2本立てて笑う。
「まずはあれだね、君は推薦受けた時点で来年の軍科副会長候補生なわけよー。そうなった暁には来年会長になる俺を補佐する役になるわけで。今のうちに仲良くなっとくに越したことはないじゃん?」
「なるほど。」
「あとは他の学科への牽制だね?他の学科からスカウトが来にくくしてんの。ウチが最初に声かけたんだぜって。まあ焼け石に水感あるけどさー」
副会長のこの発言で、俺は以前不思議に思っていたことの答えに行きあたる。
学科ごとに会長が分かれている理由って、もしかして。俺は素直に口に出してみる。
「……もしかして、学科同士って仲悪いんですか?」
「仲悪いよ?」
即答だった。エミル副会長は唾でも吐かん勢いで言う。
「政科なんて、頭固いばっかで融通の効かない連中ばっかりだし?術科とか研究室に閉じこもって、奴らが開発した魔術を使う俺達をモルモットにしか思ってないよーな連中だし?技科は保有魔力量を鼻にかけたいけすかねえ連中ばっかり!」
「え、えーっと……」
俺がその剣幕に押されていると、エミル副会長は身を乗り出して熱弁する。
「そりゃあ、全員が全員そうじゃないことは分かってるよ?俺だって他学科に友達いるしね?……でも他学科の会長とか上の連中はほんとーにやなやつなんだよー!気に入らなーい!」
「は、はあ……」
ああ……そういうことだったのか。
実際は学科4つのどれが欠けても国は成り立たないのだが、そういうのは抜きにして感情的対立があるということなのか。
おそらく、軍科は他学科から『何でも戦いで解決するしか能のない脳筋連中』とでも言われているのだろう。
俺は適当に相槌を打ちながらそんなことを考えた。
エミル副会長はここで我に返ったのか、こほんと咳払いしてへへっと誤魔化すように笑った。
「……っと、失礼!今度は俺から、ノエくんに聞いてもいーい?」
口角を上げて俺を見つめる彼の瞳はやはり、なんだか冷たい印象をを受けた。
口元は笑っていても目は笑っていない、見極める者のそれであった。
「……どうぞ?」
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