04


具体性に欠ける説明、
隠しきれないし隠す気もない敵意、
『化け物』――。

おそらくは……。

俺は考える。

おそらくは、スレイ家が抱える秘密は俺が軽率に踏み入ってはいけない領域なのだろう。
また、俺のような第三者が踏み入ったとしても簡単に解決するような問題では、きっとない。

けれど。――




「また迷子かよ…学習しねえな、ノエも」

エミル副会長が去った後の教室に迎えに来たアルバは、俺にそう言って笑った。

「……うん、だって広いじゃないか。ひと月やそこらじゃ覚えられないよ」

誤魔化すように笑って見せると、アルバは変なものを見たような顔をした。
「……ノエ?」
眉を顰めて俺の顔を覗き込む。
元々切れ長の目なので、眉を寄せて細めているとまるで不良がガンを飛ばしているようだ。
……嘘はバレている、か。

俺は気まずくなって目をそらす。
アルバはそんな俺を見て、腕を組んでため息をついた。

「らしくねえな、そんな顔するなんて。何かあったのか」

俺を落ち着かせるような穏やかな声。
問い詰めるでもなく、ただ確認しただけのようだ。

俺は視線をアルバへと戻して苦笑した。
「……バレてるよなあ。」
「お前結構顔に出るしな」
アルバも苦笑で返す。……そんなに顔に出やすいのか、俺は。

「……にしても、失礼じゃないのかー?俺がいつも馬鹿やってるだけみたいな言い草じゃないか。俺だってたまには真面目に考え事だって、……」
空元気を出すように笑って茶化してみるが、アルバは真面目な表情に微かに口元を緩めて言った。

「知ってるよ。お前はバカやってるけど、いつだって真剣だしいつだって考えてる。……知ってるよ」

俺が驚いて視線を上げると、アルバの柔らかな視線と重なった。
結果でしか評価されなかったこれまでの3年間と少し。初めて過程を、努力を、内面を評価されたようで、――

「、っ……」

言葉にならなかった。
乾いた呼気が空気に混じるだけ。

アルバは続ける。
「何があったのかは聞かねえけど、……お前はなんでも自分で何とかしようとし過ぎる。自分の手の届く範囲は限られてるんだからさ」

……確かに、その通り。
この世界にやって来て3年、自分の手の届かない所に無理矢理に手を伸ばし続けるような3年間だった。
だから、言われるまで気付かなかった。

「……俺はさ、」
ようやく、自分の考えが言葉になる。

「俺はさ、何も分からないんだよ。天才なんかじゃない。わからないことだらけだ。自分の手の届く範囲も、この問題の本質も分からない。」

アルバは静かに俺の言葉を待っている。
俺は一度唇を舐めて、息を吸った。

「でもさ、知ろうとしなきゃ分からないままなんだ。この問題が俺の手の届く範疇なのかそうでないのか、知ろうとしなきゃ変わるものも変わらないんだ」

アルバはひとつ、ふたつと頷いて言った。

「お前がこの学園で馬鹿やる原動力は、知りたいって欲求なんだな。……最初に言っただろ、協力するって」

この世界で、ほんとうに、いい友人ができた。喉にせり上がってくるものを飲み下して俺は笑う。

「……、ああ、ありがとうアルバ」

スレイ家が抱えるモノはなんなのか、
知ったところでどうにもならないのかもしれない。でもそうだとしても、どうにもならないという事を知るのもまた、大切なことだ。

この世界に落ちてきてからずっと、そしてこれからも、俺はがむしゃらに努力してゆくしかないのだ。


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