05


(side アルバ)

「俺はさ、何も分からないんだよ」

訥々と心情を吐露するノエの黒曜の瞳はガラス玉のように透明な光を帯びていて、俺ではないどこか遠いところを見ている気がした。
確かに俺の目の前に立っているのにその存在はひどく希薄で、頼りなげだ。

まるで知らない場所で途方に暮れる迷子の幼子のようだ、そう感じた。

「天才なんかじゃない」――

血を吐くように吐き出されたその言葉に、俺は息が止まったような思いがした。
俺は今までこの男をどう認識していた?

『天才編入生』。

俺だけじゃない。周囲の誰もが今でもノエを天才なのだと認識しているだろう。天才だから強い。相手は天才だから仕方が無い?

それがどうだろう。
今俺の目の前で話しているコイツは、静かな激情を以て主張している。俺は天才なんかではない、と。

その言葉はとどのつまり、コイツがこれまで、『天才』と呼ばれるまでに経てきた苦労を、長い道程を物語っていた。

それでもまだ立ち止まれないと、
膝を折ることはできないと、
歯を食い縛る1人の男がそこにいた。

俺は馬鹿だ。
友達だと言いながら、協力すると言いながら、無意識に距離を置いていたのだ!
勝手に線引きをしていたのだ。
天才のコイツについていけば良いと。
俺は愕然とした。

――そんなことはまるでなかった。
この男は、他人よりもほんの少し魔術的才に恵まれているだけの、俺と同じ普通の人間だった。自分の手の届く範囲ギリギリ外を追い続け、駆け続けているだけの。

……今までの俺は、本当の意味でコイツに協力できていなかった。なんて、情けない。

俺は強く思った。
本当の意味で、コイツの相棒になりたいと。

「最初に言っただろ、協力するって。」

この言葉は、いわば俺の決意表明。
お前の背を全力で押そう。必要な時は手を引こう。必要な時は、並んで走ろう。

――そしていつか、本当の意味でノエの相棒になれたら……
ノエをそこまでがむしゃらにさせる何か、
誰にも言えずに抱えている何か、
迷子のように辛い思いをさせている何かを、
俺に教えてほしい。

ノエ、お前のことが知りたいんだ。

(side アルバ 終)


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