07
壁一面の本棚に、迷路のようになった通路。
遠くの本がやや霞んで見えるのは、おそらく俺の目的には合致しない本だからだろう。
人気はなく、貸出用のカウンターにも人は見えない。静かなこの空間で、大量の本だけが俺を見ていた。
「……凄いな」
想像以上の規模に思わず感嘆する。
もう一歩足を踏み入れると、背後の扉は煙のように消えてしまった。
「自習にもうってつけだな、この静けさ」
俺はそんな独り言を言い、本来の目的の本を探すことにした。
貴族の戸籍、家系図はすぐに見つかった。
俺が抱えなければ持てないような大きく分厚い本である。背表紙には今年のバージョンであることが明記されており、表紙には飾り文字で『貴族年鑑』と記されている。
貸出不可のシールが貼られているが、ここで読めばいいだろう。
「……よっと」
俺は読書用の机椅子にこの本を運び、ぱらりと1枚頁をめくった。
……エトワール家の家系図だった。
どうやら家の格の順に並んでいるようである。そうなると、スレイ家も前の方にあるのだろう。
エトワール家の家系図に目をすべらせてみれば、かなりの昔から連綿と続く名家であることが分かる。生年月日と享年月日も記されている。その末席にはきちんと俺の名もあった。
そして、俺の隣には、
「……」
生まれたその日に亡くなったとある子の名前。俺の上に記されているアドニス公の隣には、その子と同日に亡くなったある、妻の名前……
俺は黙祷めいて軽く目を閉じた。
誤解を恐れない言い方をすれば、……この2人が生きていれば、俺は今頃ここにこうしてはいなかったのだ。少なくとも、ノエ=エトワールの名では。
……そろそろ、本題に戻らなければ。感傷に浸っている場合ではない。
俺は振り払うように首を振り頁を繰った。
目的のスレイ家の家系図は意外とすぐに見つかった。
「……これは……」
思わず言葉を失った。
そこには、明らかになにかが起きたのであろう、異常な家系図が記されていたのだ。
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