08
まず目を引いたのは、スレイ家の家系図の横幅の長さであった。
数世代に一度、当主がとんでもない数の妻を娶っているのである。そしてそれぞれの妻が最低1人、多いと6人ほどの子を生んでいる。
リールやエミル副会長の父、つまりスレイ家現当主がその「数世代に一度」に当たるようで、腹違いの兄弟が10人や20人できかないレベルの数でいた。
……しかしまあ、ただそれだけならば『よっぽど魔力の強い跡継ぎか欲しかったんだなあ』で済む話だ。
この家系図には、それだけでは済まない一種異常な特徴があったのである。
「……妻が全員死んでる」
そう、沢山の妻達全員が亡くなっているのだった。それも1人を除いて皆ほぼ同時期に。
エミル副会長の母親を始めとしたほとんどの妻は15年前の、リールが産まれる3ヶ月ほど前に亡くなっている。
そして、リールが生まれた直後にリールの母親もまた、亡くなっている。
「……一体何が起きたんだ、この時期に?何が起きたんだ、リールの家に?」
俺は呆然として呟いた。
なにか尋常でないことが起きたことは確かである。そして、エミル副会長がリールを『バケモノ』と呼ぶ理由がここにあることも、分かる。
流石に異常すぎるからだ。
何か病が流行った?
否。ここまで揃いも揃って同じ時期に死ぬはずがない。死ぬにしても持ちこたえる期間に個人差があるだろう。
リールが跡継ぎになることが決まって邪魔になったので全員殺した?
……否。現在の技術では、子供が胎児のうちに魔力量を測ることはできない。この時点ではリールは数いる跡継ぎ候補の1人でしかなかったはずなのだ。その段階で、まだ子供を産む可能性のある女性を全員殺すなどありえない。
……では、なぜ?
俺の思考はここで行き詰まってしまった。
眉間を指で押さえて考え込む俺に、話しかける何者かがいた。
「何をそんなに考え込んでいるの?なにか調べものかな?」
流れる旋律のように美しい、低い声だった。
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