02


ビブロさんは黙ったまま、俺に1冊の本を手渡した。古びた革の表紙に、飾り文字でとても不穏なタイトルが記されている。

『魔との契約』ーー

文字は文字でしかないはずなのに、簡潔なそのタイトルにはどこか禍々しい、というか、人に開くことを躊躇わせる何かがあった。

……でも、知らなければ前に進めないのだ。

俺はふーっと息を吐いて、意を決して表紙を開いた。その様子を見たビブロさんは安堵した様子で微笑んで言った。

「その本はね、いわゆる禁術の類が記されているものだよ。悪用の意図がある者はその本を開くことができない仕掛けになっている」

予想外の言葉に俺は驚きを隠せない。
「え、ええ……?!そんなシロモノを一学生の俺に見せても構わないんですか?」

ビブロさんは良いんだよ、と穏やかに答えて言った。

「知識を本当に必要としている者に知識を授けるのが、本だよ。人が決めた『禁術』だとかそういう分類は僕には関係ない。必要だと、相応しいと思った人に本を見せるのが僕の役目だ」

そして、ターコイズブルーの瞳が俺を見透かすように捉える。

「……ノエ、きみはもっと必要としている知識があるのだろう?けれど、それを後回しにしてまでも、友人のために動いている。そんな優しいきみを、この図書館は助けるよ」

……そういや、その通り。
俺は元の世界に帰る術を探しているのだった。自分でもすっかり忘れていた。他に知りたいことが多すぎて。
それを見透かしてみせた目の前の青年の目を、俺はじっと見つめて問うた。

「……ビブロさん。あなたは、『この図書館そのもの』ですか?」

ビブロさんの輪郭がふわりとほどけるように優しく光る。

「……そうだったら、きみはもう来なくなる?」
少し寂しげに訊ねる彼の手を、俺は急いで握った。捕まえていないと消えてしまいそうな気がして。

「まさか!こうして親しく関わった相手を、そんなことで突き放したりはしません」

ターコイズの瞳が驚いたように揺れた。
やがて、温かなため息とともに、ビブロさんは呟いた。

「……きみは、本当に優しいのだね」

そして、子供に言い含めるようにゆっくりと教えてくれる。

「正確には『この図書館にかけられた魔法そのもの』といったところかな。数百年の間システムとして機能し続けていたら、いつの間にか自我が生まれてしまったらしい」

なるほど、だからあんな大規模な魔法を指先ひとつで。俺が頷いて感じ入っていると、ビブロさんは握った俺の手の甲を撫ぜて言った。

「……さ、早くその本を読むといい。早めに読まないと日が暮れてしまうよ。」


「きみの求める答えは、そこにある」


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