03
俺が本に目を落とすと、ビブロさんは空気に溶けるように存在感が薄くなった。確かにそこに立っているのに、気配がない。
本当に人間ではないのだ。
『魔』は、人が倒すべきモノ。
人に病をもたらし、人の心に影を落とし、人に危害を加える存在。
建国以来、ーーいや……もしかしたらそれよりもずっと前からーー人にとって『魔』とはそのような存在であり、打倒するために努力を惜しまず戦い続けてきた。
だが、本当にそれだけの存在なのか?
いつだったか、この前提に疑問を持った者がいた。
個体ごとで見れば人よりもずっと大きな魔力を保有する『魔』。高位の『魔』の中には人と意思疎通が可能なものもいる。
そもそも何故『魔』は人に危害を加えるのか?あるいは原因が分かれば、現在人を害するためだけに使われている『魔』の強大な魔力を、人に利するように利用することが可能なのではないか?
このような観点から始まった『魔』の研究。
倦まぬ努力と交渉の結果、部分的にではあるが『魔との協力関係』を結ぶことに成功した。
以下これを『魔との契約』と呼称し、解説する。
本はそんな前置きから始まった。
なるほど、逆転の発想というやつだ。だが何故だろうか、猛烈に嫌な予感がする。
俺は頁をめくる手に嫌な汗をかきながら本を読み進めた。
『魔』の持つ魔力量が人より多いのは何故なのか。
それは魔力こそが『魔』の命の源であり、魔力の残量がそのまま彼らの寿命であるからだ。
人間が保有魔力を使い果たしても気絶するだけだが、彼らは違う。魔力の枯渇はそれすなわち死を意味するのである。
彼らはより長く生きるため、死なないために魔力を補給せねばならない。
そのために彼らは人間を捕食する。人間を惑わせ魔力を捧げさせる。人間から魔力を吸い取り病にさせる。
彼らの行動原理が判明したことは大変大きな収穫であった。これならば交渉の余地がある。
彼らに自力ではなかなか得られないレベルの多量の魔力を差し出せば。
その対価として我々人間では扱えない魔法や、我々人間の知識の埒外にある禁断の知識を得られるかもしれない。
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