05


「…………これ、って、」

俺は言葉を失った。
この本に記されていたのは、たくさんの人命と引き換えに人間の手では及ばない魔物の能力を得る術。

かちりかちりと、自分の中でパズルのピースが組み上がっていくのが分かった。

『ほぼ同時期に死亡した妻たち』
『対価の魔力、最低8人分』
『高純度の魔力を人間に分け与える』
『直後に生まれた魔力の強い子供』
『バケモノ』
『嫌われてしまう』
『取引完了の印』
『長い前髪で見えないリールの瞳』

――答えは、そこにあった。

こんなことが、
こんなことがあっていいわけが。
俺が助けを求めるようにビブロさんを見上げると、彼は目を閉じて静かに首を振った。

「……でも、こんなの、リールは悪くないじゃないか。悪いのはこんなキチガイみたいな所業を実行した親達じゃないか……」

呆然として呟く俺の髪をビブロさんはそっと撫でて言う。

「……このあたりの人間の感情の機微に関しては、きみの方が詳しいはずだよ」

落ち着けるように語りかける彼に撫でられているうち、ようやく俺の頭も回り始めた。

そうだ、人の心ってそんな簡単なものじゃない。きっとエミル副会長も、リールに責任がないことくらい理解しているだろう。……でも、感情がついていかない。
自分の親を生贄にしてのうのうと嫡男として生きている弟を見る度に、どろどろとした感情に苛まれていたのだろう。

そしてリールもまた、そんな兄の気持ちが分かるからこそ甘んじて憎しみの対象であり続けているのだろう。

「……ねえ、ビブロさん」

無意識に伸びた手が、ビブロさんの若草色のニットを縋るように掴んだ。ビブロさんは黙って俺の言葉に耳を傾けてくれる。

「……俺、リールに何をしてやれる?」

10年以上かけてここまで拗れてしまった感情のしこりは、俺が小手先でなにかしたって一朝一夕に変わるものではない。それくらいは俺にも分かった。

けれど。
なんとか、彼らを縛りつけている感情の鎖を緩めてやれないものだろうか。

ビブロさんは子供を寝かしつけるように俺の背をぽんぽんと叩き、今日3回目の台詞を言った。

「……きみは、優しい子だね」

「でもそれは、きみが考えることだよ、ノエ」


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