05
――AM9:20
たまたま人の少ない場所に陣取る形になったらしい。俺は20分間、鬼はおろか逃げる生徒の誰とも遭遇せずに進んでいた。
鬱蒼とした木々、じわりと滲む汗。気温が上がってきたようで不快指数がうなぎ上りだ。
生徒とは遭遇しないが、その代わりか時折魔物と遭遇する。まあ魔物といっても小物も小物。野生動物に毛が生えた程度のレベルだ。
リールの実家が交渉したような高位の魔物は、基本的に目的なく人前に姿を現すことはない。
「……でも、鬱陶しい」
俺は吸血しようと飛びかかってきたコウモリのような魔物、“バット”の群れを適当にいなしながらため息をついた。
ぎゃあぎゃあと不快な鳴き声を上げながら逃げ去ってゆくヤツらを見送って、またため息ひとつ。
こいつは個々の攻撃力は大したことはないのだが、群れでやってくると馬鹿にならない上、魔力を消耗させる毒を貰うことがあるので油断はできない相手だ。
「……ん?」
ここで、図鑑で見たバットの生態を思い起こした俺は思わず首を捻った。
……確か、バットは夜行性だったはずだ。朝方には滅多に現れない。
一般に、魔物が普段とは違う行動をするのには必ず原因がある。
代表的な原因は、『魔力の美味い生き物が弱っているのでここぞとばかりに捕食しに出てきた』など。そして『魔力の美味い生き物』の代表といえば……
「……人間、だよな」
俺はバットの群れが逃げ去った方角を見やって、ぼそりと呟いた。もし人間が怪我かなにかをして動けずに、助けも呼べずにいるのなら……
「ゲームの勝敗なんかより、人命に決まってるよな」
うん。
俺は頷くと、近場の木に魔法を使って大きく目印の×を書いた。遭難防止用だ。
そして、バットの群れが去った方角に意識を集中させ、1歩を踏み出した。
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