06


森を分け入っていくと、徐々に周囲の空気が嫌なものに変化していくのが分かった。
……人間の本能に刻まれているのか、人間は魔物の密度が高い場所に踏み入ると寒気を覚えたり冷や汗をかいたりと気分が悪くなる傾向があるらしい。

「ちょっと……危ないかもしれないな」

俺はごくりと唾を飲み込み、警戒を強めた。人命救助のためには多少の魔力消費は仕方がないだろう。温存がどうのと言っている場合ではあるまい。

嫌な空気に竦みそうになる己の足を叱咤して進む。バットの群れのぎゃあぎゃあという鳴き声、野犬に似た魔物である“ストレ”が威嚇するような声が近付いてくる。

……近い。間もなくだ。

俺は五感を研ぎ澄まし、木に隠れて見えない向こう側の様子を窺った。
大きな木が倒れており、その周辺に彼らは集まっていた。雑魚な魔物に囲まれてうずくまる小さな影。

「……あれっ?」

思わず声が出た。
囲まれている影の大きさは、どう大きく見積もってもサッカーボール大といったところ。……人間じゃないな?
どうやら動物が襲われているらしい。

俺はなあんだ、とばかりに肩の力を抜いた。危険な目に遭っているのが人でないならば戻ってしまおうかと思ったが、――

魔物の群れに囲まれて威嚇をする弱々しい声。

「……ダメだな、寝覚めが悪すぎる」

せっかく拾いかけた命だ。
本来なら食う食われるは自然の摂理に任せるのが良いのだろう。……が。せっかく通りがかったのに見捨てるのもなんだ。

助けてしまおう。


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