君の隣。
(side アルバ)
フレディ=レクシスと鉢合わせて事情を聞いた時、比喩でなく目の前が真っ暗になる感覚を味わった。
隣に立っていたい、支えたい、本当の意味で相棒になりたいと願ったところだったのに。
大事な人をこんなところで亡くしてしまうのか、と。
“大事な人”。
……そうか、“大事な人”だったのか。
今まで俺があいつに対して抱いていたのは“親愛”とか“友情”といった類のものだと思っていた。
けれど、違ったんだ。
自分で気付いていなかっただけ、とっくにその感情は“思慕”だとか“愛情”に形を変えていたんだ。
それをこんな事態になるまで気付かないなんて。
俺は天を仰いだ。
そして、先ほど味わった“目の前が真っ暗になる”という感覚が“絶望と喪失”なのだと正しく理解した。
後悔が心を埋め尽くし、フレディ=レクシスを前にして打ちひしがれた俺の耳に届いたのは
「……待たせて悪い」
なーんて、気まずそうに笑う愛しい男の声だった。
『どうやって中位以上の魔物を退けてきたんだ』とか、『それにしたって来るのが遅いだろ』とか、『なんでほぼ無傷なんだ』とか、実に様々な疑問が脳内を駆け巡った。
でもそんな言葉よりも先に俺の身体は勝手に動いて、
――ノエの俺より少し小柄な体を抱きすくめていた。俺は案外激情家だったらしい。
ところが、心配した、という趣旨の俺の言葉に対してノエが口にした謝罪はピント外れもいい所だった。
「アルバは俺を後ろ盾ってことにしてるんだもんな。俺がいなかったら困るよな、すまなか」
「そういうことじゃない!」
思わず感情に任せて声を荒らげてしまう。
ノエが戸惑ったのがわかったが……どうもこいつは、自己評価が変なところでやけに低いらしい。
自分の価値なんて大したことがない。
フレディに比べれば自分の命の方が軽い。
自分に心配される価値なんてない。
そんなふうに無意識に思っている節があるように思う。
今回の件だって結果オーライではあったのだろうが、嫌な見方をすればただの自己犠牲だ。
……良いだろう。
やっと自分の気持ちを自覚できたんだ。これから嫌ってくらい隣で分からせてやる。
俺がどれだけお前を大切に思っているかを。お前が代わりのきかない存在なのだということを。
そしてお前のそばに居るために、俺は強くならなくちゃいけない。実力的にも並び立つくらいじゃなければ話にならない。
強くなるために差し当って今俺に出来ることはわかりきっていた。
軍科の推薦を受ける。
そう決意した時、ノエが突然膝を折って頽れる。慌てて支えてやれば、気が抜けたのか眠り込んでしまったようだった。
俺はノエを横抱きにして、頭を支えた方の手で真っ黒な髪を優しく撫でた。
(side アルバ 終)
――chapter.05 終
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