第一話 さらば、俺の平穏よ 02
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  • 事の起こりは2ヶ月前。
    進級が済んで学内の浮ついた雰囲気も落ち着きつつあった4月末のことだった。
    季節外れの外部編入生がやって来たのがカオスの始まりだった。

    カオスの元凶の名は桜田真尋(さくらだまひろ)。

    もじゃもじゃ頭に瓶底メガネ。身長は低め。実家の格は不明。
    面の良さと家柄の良さが評価に直結するこの学園においては決して優遇されるスペックとはいえない。

    そんな転校生は、謎の手腕を以てイケメン役員ズを尽く篭絡してしまったのだ。
    オトされた役員の中には数少ない“本物の実力者”も含まれていたものだから大変だ。

    編入生のケツを追っかけるのに夢中になって誰も仕事をしやがらない。
    じゃあリコールでもしろよって話だが、リコール権限を持つ風紀委員長も篭絡され済みだったんで始末に負えない。
    ここに、学内自治は機能不全に陥った。

    ……それだけならまだいい。
    いや、良くはないんだが自治の停滞だけで済むなら可愛いもんだった。

    さて、篭絡された役員ズは編入生を特別扱いしまくった。役員特権を桜田真尋にも適用した。仕事はしないくせに特権は使うのか、と思わなくもないが、まあライバル(笑)が多いもんで彼らも必死ってことだ。

    これが面白くないのは役員ズの親衛隊達だ。
    桜田真尋を邪魔者、学内秩序を乱す者と認識した彼らはこぞって“制裁”に打って出る。
    制裁というが要は監禁・暴行・いじめといった類のものだ。実際桜田真尋はそれで何度か危ない目にあったらしい。

    それを知った役員ズは怒った。
    怒って、考えうる限り最悪の手段に出た。

    『桜田真尋に今度危害を加えてみろ、持てる力全てをもってお前らの実家共々潰す』
    『俺のハニー(笑)に危害を加えるようなファンなど要らない。解散しろ』

    親衛隊を強制解散させたのである。
    それまで“本人から公認されている”という飴によって辛うじて役員ズの求めるルールに従って組織されていた親衛隊は、ストッパーのいないモノホンの狂信者集団と化した。

    それぞれの親衛隊が腕っ節の強い生徒を雇うなりして抱え込み、溜まった鬱憤を晴らすように少しでも役員に近付いたり気に入らないことをした(桜田真尋以外の)生徒に制裁という名の暴行を加える。

    桜田真尋に現を抜かし機能不全に陥った役員ズ。
    鬱憤を溜める(元)公認親衛隊。
    下手に権力のある生徒に触れないため見ぬふりを決め込む教師達。
    なにが親衛隊の逆鱗に触れるか分からず怯える一般生徒達(それでも相応に金持ちだが)。

    そして一人だけ楽しい桜田真尋。

    現在の学園はこんな状況なのである。


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