ここで、俺自身のことについて少し話そう。
高瀬義幸、17歳。
祖父が興した会社をボンクラの父と兄が揃って食いつぶしている、そんな半端な金持ちの次男坊だ。半端な金持ちゆえにこの監獄島ならぬ、学園島に放り込まれたわけだ。ここでいいとこの坊ちゃんとコネを作ることを期待されて。
家の格はこの学園の基準でいえば中の下。歴史の浅い3代目というのも影響がある。
まあ、程よく目立たない良い位置といえるだろう。この点に関しては大満足だ。
――そう、俺は目立ちたくない。
どんな分野であろうと下手な好成績・悪成績を取って目立ってしまえば良かれ悪しかれ騒がれる。
そんなのはごめんだ。面倒くさい。
ゆえに俺は、目立たないために細心の努力をしてきた。面倒くさくならないための努力なら苦にならない。めんどくさくない!
容姿:別に悪くはないが地味。身長も日本人成人男性平均で止まった。
学業成績:上の下。成績は一番上のSクラスから落ちそうで落ちないくらいをずっとキープ。
スポーツ:上の下。別に悪くはないが、運動部に入っていないため特化していないのでパッとしないように見える。
部活:科学部。本当に科学が大好きな1割と部活サボりのために入部した9割の部員の中で、『比較的実験に協力的なサボり』をやっている。
委員会:図書委員。稀に図書館で【アハーン(※規制音です)】をやらかすバカがいるがそれを聞き流せばのんびりできる緩い仕事。
友人:完全ゼロにならないように薄くお付き合い。
……とまあこんな感じで、絶妙に『無能以上有能未満の有象無象』の立ち位置をキープしてきた。
目立たないように気を遣いまくってきたのだ。
……その、俺の、血の滲むような努力を、桜田真尋はよお……!!!
どうしてくれんだ、この野郎!!!
っと、失礼取り乱しました。
血の滲むような努力で絶妙に目立たない位置にいた俺は、桜田真尋によりカオス化した学園で『目立たないがゆえに逆に目立つ』という謎現象に見舞われてしまったのである。
親衛隊員でなく、腕っ節が強そうでもなく、当然役員でも教員でもない。
なのに何故か怯えず泰然自若としている一般生徒というのはなかなか珍しいらしく。
役員が仕事をしないのも学園の治安が悪くなるのもさほど問題ではない。
ただ俺は、目立たないための努力を灰燼に帰してくれやがった桜田真尋のことが大嫌いなのである。
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