「……風間くんだっけ、気を遣わなくていいから率直に答えて欲しいんだけど、」
俺はため息をついて、後ろに控える風間に向けて問いかけた。
「俺のことを今までどう思ってた?こういう状況になる前だったら、どんな印象を持ったと思う?」
猫被りはウッカリ剥がれてしまったので、開き直って一人称を“俺”に変える。
風間が何度か瞬きをして判断を委ねるように視線を久瀬先輩の方へ向けると、久瀬先輩はどうぞ、という手振りで「答えていいよ」と言った。
許可を受けた風間はそれでもどこか躊躇った様子で回答をする。
「……S組にいる割には何につけてもパッとしない。平均よりはできるんだろうけど、中の上から上の下でまとまった平凡。」
……俺の努力はきっちり報われていたらしい。
俺は大きく頷いて、言葉を紡いだ。
「じゃあ、そんな平凡が1人でふらっと暴行現場に現れたらどう思う?自分の強さに驕っているレイパーの気持ちになって答えてみてよ」
意地悪く片頬を上げて笑いながら問いかけると、風間はきまずそうに目をそらして仕方なしといった様子でボソッと答えた。
「…………“カモが来たな”と思う」
「だよな」
俺はまたひとつ頷いて、俺達のやり取りを黙って聞いていた久瀬先輩の方に向き直る。
「久瀬先輩、分かりますか。俺の武器はこの“平凡さ”なんです。俺はともかく侮られやすい。油断している相手ほどやりやすいものはない。だからこの状況にあっても自衛ができているんです」
「……。」
久瀬先輩は黙ってデスクに肘をついている。
俺は言葉を続けた。
「“風紀委員”なんて名札をもらってしまったら、そのアドバンテージは消え失せます。俺は自分の武器を手放すつもりはありません。俺だって、一切の油断もない屈強な男に敵うわけありませんから」
これは嘘だ。
相手が油断していなくたってそうそう負けない自信はあるが、今の状況を切り抜けるにはこれがいいだろう。
「……その問題が解決できれば、風紀入りを検討してもらえるのか?」
久瀬先輩の問い。
なかなか食い下がるな。多少嫌われてもキツめに断る必要がありそうだ。
どう転んでも面倒事は避けられそうにない。
俺は嫌々覚悟を決め、首を横に振って答えた。
「……いいえ。仮にその問題が解決したとしても、俺には無視できないリスクが残ります」
「……それは?」
「それは、」
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