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「なあなあ高瀬、昨日また“出た”らしいぞ」
「出たって、なにが?」
2年S組の教室で喜色満面で俺に話しかけてくるのは、同じクラスの城元(しろもと)。非親衛隊の一般生徒で、S組落ちこぼれ仲間。俺が“薄いお付き合い”をしている友人の一人だ。
良くも悪くも平凡顔。今日はその頬にガーゼを貼っている。大方不良に絡まれたとかそういうのだろう。
その城元は俺の薄いリアクションに一瞬不満顔になったが、すぐにいつもの半笑いに戻って早口で言った。
「何がって…あれだよ、“裏風紀”!昨日も元親衛隊の制裁から一般生徒を守ったって話だぜ。暴行しようとしたヤツも笑いながら見てた親衛隊も纏めてちぎっては投げちぎっては投げ!ボコボコにのしてから寮の前のでかい木に足から吊るして!」
城元は、「くうーカッコイイ!俺達一般生徒の神様だぜ!」等と言って拳を握っている。
「……城元、あまり大声出して目立つなよ。うちのクラスの親衛隊組が嫌な顔してるぞ」
ため息をついて城元を窘めると、城元は少しビクッと反応してほんの少し声のボリュームを落として言った。
「……それにしても、誰なんだろうな、“裏風紀”。身長は中くらいで、髪の色は深くかぶった帽子でわからん、顔は狐面を被ってて分からん。……特徴だけじゃ正直当てはまる人が多すぎて誰が“そう”でもおかしくないんだもんな」
「……はあ、うん」
「なんだよ、その気のない返事は…」
ここ2週間ほど、学内を騒がせている狐面を被った生徒がいる。通称“裏風紀”。
暴行や喧嘩の現場にまるで元から知っていたかのようにふらっと現れる。
そして、校則で決まっている風紀委員の正規の取締手続きをまるごとすっ飛ばして、正規の風紀委員なら絶対にやらないような鉄拳制裁を加えて去っていく。
“裏風紀”にやられた生徒が訴えに出ても、その頃には既に言い逃れ出来ない暴行の証拠類が風紀に届いており、自業自得と取り合ってもらえない。
城元が言った通り、身長体格はどこにでもいそうな風体で顔は分からない。
今まで制裁する側だった生徒達は、今ここでこうしている間にも“裏風紀”に見張られているかも知れないと戦々恐々としている。
存在そのものが抑止力。
学園の公安警察。
それが“裏風紀”なのである。
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