17

「四季の塔の扉は王家の人間にしか開けられないんだが、どうしてか知ってるかい?」
「あ、それ僕聞いたことある」
「えっ、答え知ってるなら言わないでねマコト! 私が答えるから!」
「了解、分かったよ」
 片手でマコトのことを止めたサヤカに、彼は笑いながら頷いた。彼の了承を得たからじっくり考えられる。塩気と共に少し酸っぱさを感じる肉の炒め物を食べながら、サヤカは頭を巡らせた。ナフェリアが意地悪にも、残り秒数を数え始める。マコトが便乗していた。
「ええと、待って待って! えっとー」
「さーん、にーい、」
「えっと、王様の魔法でしか開かないような魔法がかけられてる! ……で、どうかな」
「……ふふ、半分正解ってところかねえ。王様……というか、王家の血筋のものは、誰しもが鍵を握って生まれてくるそうだ。そのときどきの長子の鍵でしか、四季の塔は開かないそうだよ」
 存外夢のない答えだったらしいサヤカが、「……案外普通なんだね?」と不満げな顔をする。もっとこう、壮大な魔法陣やロマンチックな秘密があるのかと思ったのだ。マコトが笑いながら言った。
「鍵を握って生まれてくるって時点で普通じゃない………あっ、もしかしてその鍵がなくて今、冬が来てないってこと?」
「惜しい。……いや、もちろん真相はわからないんだけどね?」
 ナフェリアはそう言って、見るからに辛そうな色の炒め物をひょいと口に放り込んだ。行儀悪くも、食べながら会話を再開させる。
「実はね、」
 勿体ぶった口調に、サヤカとマコトが思わず息を飲む。ナフェリアは話が巧みだった。たっぷりと間を置いてから、ようやく続きを口にする。
「────今の王女様に、双子の兄弟がいるらしいんだよ」
「双子!」
「その子の鍵がないから、四季の塔は開かずの扉になってしまってね。春の精を起こすことも、冬の精を眠りにつかせることもできなくなってしまった──……らしいね」
 その話に納得したのか、身を乗り出してたサヤカがどさりと椅子に座りなおす。マコトも、スープの椀を手に取ったまではいいが食べる手が止まっていた。
「双子の兄や姉は二人分の厄を背負って生まれてくるというからね。忌み子として殺したはずが、どこかで生き延びていた──なんていうロマンチックな話さ。これはね」
「それは確かにロマンチックかも。本当にそうだったら、どんな人なんだろう! 王女様に似てらっしゃるのかなあ」
「確か、王女様は栗色の髪に薄い緑の目の方だったはずだけど……。双子だし、王女様にそっくりな姫様がいるのかもしれないね。もともと姫様は元国王様に似ていらっしゃるらしいし」
「マコト、王子の可能性もあるんだよ。王女様が元国王様に似てるなら、王子様は女王様に似ているかも……」
「確か女王陛下は黒髪に赤い目だったろう。黒髪って点だけならマコトも王子になれるねえ」
「似合わないよ、僕には」
 椀に口をつけてスープを飲んでいたマコトが、手を振って謙遜した。揶揄うように顔をほころばせ、確かにとサヤカが笑う。小さな杯に注がれたお茶を飲みながら、ナフェリアは続ける。
「まあ、どこまで本当かわからないけどねえ。現実はこんなロマンチックじゃなくて、冬の夜みたいに冷たいんだろうさ」
「ナツ、詩人みたいだね」
「あたしなら吟遊詩人になれるって? ありがとう」
 そこまでは言ってないけど、とサヤカが笑った。