18

 宿で一夜を明かした次の日。
 朝餉も昨日と同じ食事処で済ませ、ナフェリアはこのあと南西の森へ出発すると言い出した。そういえば昨夜はなんとなく流れで行動を共にしたが、そもそもサヤカたちはナフェリアに特に用事があったわけでもない。昨晩部屋を共にしたサヤカは一晩お喋りに興じたが、別れはずいぶんとあっさりしていた。
 噴水前で、手を振って去っていくナフェリアを見送る。短剣だけを腰に携えて暴徒のもとへ行こうとする彼女のことを、サヤカは最後まで心配そうに見つめていた。
 この街にしばらくとどまっていたらしいナツが教えてくれた雑貨店で、買うものを見繕いながらサヤカが言った。
「ナツはなんの魔法が使えたのかな」
「わからないけど、ナツも一人旅をしてたわけだし、身を守れる魔法だよ。きっと」
「うん、わかってるんだけど……やっぱり心配で。そこにもしほんとに、子供を連れ去った犯人がいたらとっても危ないし」
「すごく身のこなしが軽かったし、きっとナツは強いと思う。大丈夫だよ」
 マコトはそう付け足した。納得したように頷きながらもサヤカは未だちらちらと、ナツが出て行った方角──南西を見ていた。出会って日の浅いマコトでもわかる、彼女はきっと心配性なのだ。お人好し、と言ったほうがいいのかもしれない。
 僕のときもそうだったけれど、とマコトは思う。いざというときに自分を顧みないで相手に手を差し伸べられる種類の人間なのだろう。マコトも情は移りやすいほうだが、たった一晩道を共にしただけでここまで入れ込むことはできない。もっと自分を大切にしてほしい、と今言ったところで彼女はきっと意味を理解しないだろう。
「ナツ、自分のことを薄情だって言ってたの。そうは思えないんだけどな」
「……薄情? あの人が?」
「そう。利害だけで動く便利屋だって言ってたよ、自分のこと」
「……そうは見えなかったなあ、僕からも」
「やっぱり?」
「うん。ほんとに利害だけで動くんだったら、謝礼がもらえるかもわからない上に、すごく危険が大きいこんな事件に首突っ込まないと思う」
 サヤカは、チーズの棚の前で腕を組んだ。別に決してチーズを買うか迷っているわけではなく、ナツのことについて考えているらしいというのは、マコトにも伝わってきた。